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訓練場にて

「レンシス様、本日は訓練場をご見学なさるとのことですね」

軽くドアを叩きながら、落ち着いた声で部屋に入ってきたのはサーシャだ。

黒髪を後ろでまとめ、無駄のない動きで俺の上着を整える。


「見学だけって聞いてるんだけど?」

「はい、見学です」

笑顔で即答――だけどこの人の“はい”は信用ならない。


案の定、廊下を歩くときには既にユーリ参謀長が待ち構えていた。

「おお!若殿! 本日は剣術の稽古を――」

「いや、見学って話だけど……」

「もちろん、見学のついでに稽古も!」

(それはもう見学じゃないだろ。)


訓練場に入ると兵士たちが整列していた。木剣を渡され、俺はとっさに重心を確かめる。

「……これ、握りが後ろ寄りでバランス悪くない?」

「ほう!」ユーリの目がギラリと光る。

「武器の欠陥を即座に見抜くとは、さすが将軍様のご子息!」


やってしまった。これはただのゲーム知識だから!

後ろでサーシャが小声で囁く。

「……また誤解されてますね」

「助けてよ!」

「監視役ですので」

この人、絶対楽しんでる。


こうして俺の“見学”は、なぜか模擬戦に発展し、

終わる頃には「若殿は天才剣士」という謎の噂が城中に広まっていくのだった。



そして訓練場からの帰り道。

俺は木剣をぶら下げたまま、ぐったりと歩いていた。

隣ではサーシャが歩幅を合わせ、淡々と記録用のメモに何かを書きつけている。


「今日もずいぶん褒められてましたね」

「褒められたっていうか、誤解されたっていうか……」

「剣の重心なんて、普通は大人でも気づきませんよ。まして五歳なら」


……あ。しまった。

サーシャの視線が俺の横顔をじっと探ってくる。

「若殿、失礼ながら……本当に五歳、ですよね?」


足が止まった。

さすが諜報部。

嘘をついてごまかすこともできる。けど――この人になら、話してもいいかもしれない。


「……俺さ、この世界に来る前は別の世界で生きてたんだ」

「別の……世界?」

「うん、前世の記憶って言ったら伝わる?その時の名前は蓮司れんじ。とても平和で自由な日本って国の、ただの会社員…会社員っていうのは、普通のそこら辺にいるような一般人だったんだ。」


サーシャはしばらく黙っていた。足音と廊下の灯りの揺れだけが続く。

やがて、彼女はほんの少しだけ口元を緩めた。

「……上には報告しません。今のところは」

「今のところは?」

「若殿が面白いので」


なんだその理由。

でも、なぜかその言葉に少し安心してしまった。


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