外交会談
会場はアルディナ王国の迎賓館。
高い天井には色鮮やかなタペストリーが垂れ、テーブルには山盛りの果物や蜂蜜漬けの菓子が所狭しと並んでいる。
香辛料と甘い匂いが混ざり合い、ヴォルグラードの質実剛健な晩餐とはまるで別世界だ。
俺は背筋を正し、向かいに座るアルディナの王太子レオニードと視線を合わせた。
……のだが、彼はワイングラスをくるくる回しながら、にこやかに口を開く。
「いやあ、ヴォルグラードの硬派な宴席も好きだが、やはり甘味の豊富さは我が国の自慢でしてね」
その横で父は涼しい顔で返す。
「糖分は兵士の集中力を鈍らせる。だが……今日ばかりは貴国の流儀に従おう」
一方、ユーリはというと――すでに三皿目の果物を平らげ、四皿目に手を伸ばしていた。
「……ユーリ、そろそろやめとけ。顔が青いぞ」
「ま、まだ……パインが……俺を呼んで……」
そのまま席でうめき声を漏らし始める。やっぱりやらかしたか。
そんな中、レオニードが軽く前のめりになり、まるで世間話の延長のように口を開く。
「ところで――“門”の話ですが」
場の空気がわずかに引き締まる。
彼の随行員が地図を広げ、海沿いの一点を指した。
「光の柱は、我が国からも確認されています」
「……つまり位置は両国の境界付近というわけか」父が低く呟く。
「そうです。もっとも、我々はそれを“聖域の裂け目”と呼んでいます」
アルディナ側でも異常現象は起きていた。
潮が逆流し、夜に光る魚が大量に浜辺へ打ち上げられたという。
父は顎に手を当て、考え込む。
「……互いに調査を進め、情報を共有すべきだな」
「もちろんです」レオニードは微笑み、そして――ふと俺に視線を送ってきた。
「第一王子殿下、ぜひ合同で現地に赴きませんか?」
あ、これ完全にフラグ立ったやつだ。
俺は内心でため息をついた。こうして、“門”に関わる初の合同任務があっさり決まってしまったのだった。




