慎重な長期偵察…
会議の翌朝。
俺はすっかり油断していた――「慎重な長期偵察」に決まったから、しばらくは平穏だろうって。
「若殿、お迎えにあがりました」
部屋の扉を開けたサーシャは、なぜか完全武装。
胸当てに短剣、背中には弓まで背負ってる。
「……え?今日は何の日?」
「門の調査部隊への同行です」
「は?」
「お父上からのご命令です」
その直後、後ろからユーリが豪快に現れた。
「若殿!共に最前線へ参りましょう!」
「いやいやいや!俺は行くって一言も――」
「慎重な偵察は、若殿の発案ですからな!」
ああ、やっぱり会議で言ったアレが伏線になってたのか……!
気づけば俺は鎧の上着を無理やり着せられ、腰に短剣を下げられていた。
サーシャは涼しい顔で荷物をまとめ、淡々と告げる。
「門までは船で半日。その後は上陸して直接確認です」
「直接ってなに!?遠くから双眼鏡で見るんじゃないの!?」
「若殿、現場を知らずして国を導くことはできませんぞ」
ユーリの満面の笑みがまぶしい。
船に乗り込む直前、俺は空を見上げた。
雲の切れ間から、昨日と同じ細い光の筋が海へ降りている。
近づくにつれて、その輝きが脈打つみたいに強まっているのが分かった。
(……やばい。絶対ろくなことにならないやつだ)
そして俺の“平和な日常”は、船の汽笛とともにまた大きく離れていった――。




