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九十七“転優”探生活  作者: 兎城あや
シーズン1 希優花に振り回されるまち
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2話 六歳下の“かえ”られた子 〈中編〉

 人に蹴られたのは本当に久々だったから、最初はすぐに状況が理解できなかった。

 でも、自分が仰向けに倒れて、お腹に痛みが強く残っていた時からは、少しずつ涙が出てきた。


「か・・・え。どうして?ねぇなんで・・・香絵じゃないの?」


 声が震えながら蹴った相手を見つめる。

 何度見ても、何回瞬きしても、そこにいたのは香絵じゃなかった。

 灰色に近い黒色のショートヘアと薄橙色よりも薄い色の肌。水色のロングコートを羽織ったその男の子は私を冷たい目で静かに見下したまま、小さく呟いた。


「誰だよ・・・カエって」

「・・・えっ」

「誰なんだよ!うっせぇんだよ、カエ、カエってよ!」


 男の子は声にどんどん怒りを増していき、足を強く振り上げた。

 仰向けのまま、お腹を何回も強く踏まれる。

 周りには誰もいなかった。私を止めようとした、2人の子どもも。

 痛い。いたい・・・いたい・・お腹から手の先まで。

 視界がどんどんぼやけていく。

 

 この子は香絵じゃない。そのことは把握できた。

 じゃあ・・・じゃあ・・・


「香絵はどこにいるの!!!!!」

「調子のんな!誰が知るか、そんなヤツのこと!」


 お願い・・・!誰かこの子を止めて!強く願っていると、

 

「今!『吹花・六(ふきばな・ろく)』っていって!」


 突然、キユガイがどうのこうのいってた女の子の声が聞こえた。


「え?なんて?フキバナ・・・ロク?」

「おい、ちょっとはオレのに答えろよっ!ほんと誰なんだよ!カエって!つーかおめぇも誰なんだよ!」


 女の子に聞き返したいのに、ひたすら踏んでくる男の子のせいでなんもわからない。

 胸ぐらを掴まれて、無理やり立たされる。拳を強く握りしめてるのが見えた。

 あぁ、殴るんだな・・・今にも倒れそうになりながらそう思ったその時だった。




「もーーっ!!仕方ないなぁ・・・」


 女の子が階段の近くの木からスタッと軽やかに着地した。

 視線がそっちに向いたのは私だけじゃない。男の子も驚いた表情で彼女を見つめた。


「レイ、久しぶり。覚えてるかわからないけど」

「おまえ・・・!まだその状態だったのかよ!シハ!」


 レイと呼ばれた男の子が怒りの矛先を変えたらしく、私を突き放して彼女に向かって歩き出す。


「おめぇみたいなヤツ、イヤでも覚えてるよ!!人間でもない奴が陸のまちをウロチョロしやがって」

「そー思ってるなら、まず私たちから襲えばいいのに。なんも関係ない人から殺ったって効率悪いよ―」


 シハって名前の子が挑発的な態度でレイを呼ぶ。

 レイがシハに近づいていく中、私は頭の中が「?」でいっぱいだった。

 

 ・・・どういうこと?人間じゃないの?あの子


 幽霊とか化け物とか、全く信じない。けど、その時はなんとなく、シハって子が人間じゃないって事に、「確かにそうかも」って納得できる自分がいた。

 軽くジャンプして木の枝に乗ってたり、「花吹・十九はなふき・じゅうきゅう」って小さく呟いた途端、急に気配を消して、また急に現れたり。レイの攻撃を避けるばっかりで、強いとかは思わなかったけど。

 すべての動きが滑らかで、痛みに耐えながらも、目を離せなかった。




「で、いつまでシハに任せてるの、早くして」

「うわあああ!!」


 近くから急に声がして、なんとかからだを起こすと、シハと一緒に私を止めようと腕を掴んできたあの子が、しゃがんでこっちを見つめてた。

 最初にシハに話しかけられたときみたいに、全く気配を感じなかった。白いワンピースみたいなのを着ている14歳くらいのその子は、手を差し伸べてくれた。


「な、何を早くしたらいいの?」


その子の手を掴みながら立ち上がって尋ねると、少し呆れた表情になってたけど、ちゃんと答えてくれた。


「・・・シハが言ってた通りのこと、もう一回言えばいいだけ」

「・・・・・・はい?」

「だーかーら!『吹花・六』って言えばいいの!」

「・・・?」


 だから何なの、その呪文みたいなよくわからない単語。




「とりあえずいって!早く!」

「ふ、吹花・六」


 はい、いったよ。とりあえずいったけど・・・

 なんも起きてない!

 ずっと止まない風。ひらひら避けるシハ、ただ怒りに任せて殴ろうか蹴ろうかしているレイ。それを見ている1人の子どもと私。

 あの・・・言った意味あった?って聞こうとしたときだった。


「うっ・・・!!!」


 一瞬、みぞおちあたりに強い痛みが走り、両手でふさいだ。さっき何回も蹴られたのとは別の、違った痛み。でも本当に一瞬でその後は何にも感じなかった。

 と、シハがこっちを見て叫んだ。


「リユ!!いつまでかかってんの?その子、正解だった?」

「うん!たぶん正解。ねぇ、今みぞおちあたり、痛かった?」

「え?もしかしてキミがなんかしたの?」


 リユっていう子が、少しだけにいたずらっぽく笑う。


「これであのレイってやつ、あんたが自由に操れるよ」


 ・・・は?もうまじで訳わかんない。さっきからずっと。


「ほら、なんか命令してみたら?さっきまで何回も蹴ってきた相手だよ」

「じゃ、じゃあ・・・とりあえず、“眠って”!!」


 とりあえずそう叫んだ途端、レイはその場でゆっくり倒れたいった。


・・・ウソ!ほんとに命令通りになった!




 驚いてる私にシハが寄ってくる。そして大きなため息をついた。


「どーしてくれるの!!!これからめっちゃ大変になるじゃない!」

「こっちだって訳わかんないよ!キミたち何者なの?香絵はどこにいったの!」


 香絵が、そのレイって子になってしまったってこと?もう香絵には会えないってこと?

 いろいろ聞きたいことが山のようにあったけど。


 疲れとか声にならない痛みが急に襲ってきて、


 私はその時、人生で初めて気絶したってことを後から知った。

2話、読んでいただきありがとうございます。

実はこの作品自体、3年くらい前から考えていたものなんです。

ただ、リユやシハ、香絵とかの人物は今年になってから付け加えました。

乙葉が主人公であるのに変わりはないけども、上記の3人がいないから、かなり違う話になってたかもしれない。

そういう作品です。

3話もお楽しみに。


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