【白蛇】担当パート
あらすじにもありますように、この小説は
「白蛇」×「ウィズ」×「陸永 猫乃」
の三人でバトンをつないだリレー小説です。
三人の作家の個性が一つの物語を紡ぎだす。
それぞれの思いを繋いで物語が形を成していく様を、どうぞお楽しみください……!
春の風が、耳朶を撫でるように過ぎていく。
遠く、陸橋を渡る夜汽車が、鉄の軋みを子守唄に変えてゆく。
寝返りを打つ。触れるはずのものに触れず、僅かに体温を孕んだシーツの皺が、記憶の名残を語っている。
ゆるやかに身を起こし、ベッドの縁に座る。
灰皿には、燃え尽きた夜の証が折り重なっている。そこから一本を選び、火を点けた。
白煙が、静かに丸木小屋の空間を侵してゆく。
煙は、どこか肉の酸味を纏いながら、舌の奥に甘やかな痛みを残した。
とん、とん、と、包丁がまな板を叩く音が、呼吸のように届く。
均一なその律動は、遠く霞む空間の奥に、微かに他者の生を知らせていた。
素足を床に下ろす。ひんやりとした木肌が、踵に鈍く沁みる。
手探りでローブを纏えば、肩にひやりと、重力を無視した空気の指先が触れた。
反射的に振り返る。
そこには、ただ沈黙と影ばかりがあった。
火を失った煙草が、灰へと崩れ落ちた。
それは、沈黙のなかに響く告別の鐘の如く——煙の尾は、行く先に未練を引くように、揺蕩う。
半ば影に呑まれた扉が、静かに佇んでいる。
木目の隙間から、淡く鈍い光が滲み、夜の静脈のように扉を縁取っていた。月とも灯火ともつかぬその明かりが、名もなき呼び声のように胸を叩く。
あるいは、それはこちらの動きを伺う眼差しかもしれない。
指先が、ためらいながら伸びる。
取手はまだ、誰かの余熱を宿していた。掌と掌が透けて重なるような錯覚が肌を撫でる。
ゆっくりと、扉を押し開けた——。