第96話 北国のチキンスープと身の上話
「ふーん。
じゃあ、アンタ達も元々は孤児だったんだ?」
ブランディル自治領のふもとの村、その一角にある孤児院へと招かれた"魔女見習い"の少女達、ライアとユティ。
孤児院の中では他の孤児達が元気に走り回っており、中も火の術式が効いているのか、外の寒さが嘘のように暖かい。
必要な生活インフラは充分に整っているようだった。
「うん。母様に拾われてなかったら、どうなってたか分かんなかった……はむっ。
毎日食べるのも大変だったから」
「へえ。アンタ達も結構苦労してたんだ」
「ふむ……んぐんぐ。
……ほう。
孤児院の食事にしては鶏肉がデカくて食べ応えがあるし、野菜も甘味があって美味いな」
「デカく育つ品種だからさ。
野菜は寒さで糖度が増すから甘くて美味くなるし」
「なるほど」
ローラとベルタと名乗った獣人の少女達から食堂へと案内されたライア達は、約束通り大きめの鶏肉や野菜の入ったチキンスープを御馳走となり、モグモグと頬張りながら互いの身の上話に花を咲かせていた。
「んぐっ……。
そういうローラとベルタはどうなんだ?」
「アタシら? うーん。
戦災孤児のアンタ達に比べると、まあ幾分かマシな方かな。
親父が他所に女作って出て行って、その後は母さんが女手ひとつで育ててくれたんだけど……」
「その母さんも苦労が祟って何年か前に死んじゃって。
……その後はここの世話になってる感じ」
「いや、それもだいぶアレだぞ……」
帝国領内を孤児としてさ迷っていた所を母ディケーに保護され、養子となって衣食住を与えられたライアとユティに比べると自分達の境遇はまだマシな方だと言うローラとベルタの姉妹。
しかし、彼女らの境遇も思った以上に過酷なモノではないだろうか……特に、このような亜人の特区となった寒冷地方では。
「少なくとも成人する15歳まではここに居ていいし、世話になるつもりだよ」
「15歳までに色んな職人の所で職業体験して、就く仕事を決めるのが孤児院の決まりなんだ」
「へー」
「そう言えば、今の時間帯で孤児院に居る年長者はローラとベルタくらいだな」
ユティの指摘は正しい。
キョロキョロと見回しても、孤児院の中には15歳に近い年齢の孤児の姿は見えず、ローラ達を含め自分達と歳の近い子供ばかりだった。
「10歳を越えて来ると、このシーズンは皆ブランディル内の奉公先で職業体験してるからね」
「だからチビ達の面倒は残ったアタシらの担当ってワケ」
「そっかあ」
「ごちそうさま。……ふう。
じゃあ、ローラ達も10歳を越えたら村の何処かの店とかに職業体験に行くのか」
カラン。
チキンスープを食べ終えたユティが皿にスプーンを置いて、ローラ達に問う。
しかして、
「んー。
アタシらはやっぱり冒険者志望かなー。
ブランディルはもちろん好きだけど、外の世界も見たいってゆーか?」
「へー。冒険者かー」
「獣人なら筋力や瞬発力、五感なんかも普通の人間より優れていると聞くしな。
ローラ達なら向いてると思うぞ、割と」
「だよねー。
あはっ、アンタ達もやっぱそう思う?」
ユティらと共にテーブルに着き、客人がチキンスープを頬張るのを眺めていたローラ達だが、冒険者に向いていると言われ、目に見えて上機嫌になる。
「じゃあ、私達の属性系統が分かったのも?」
「ちっさい頃から目とか耳とか鼻が良かったからね。
目を凝らすと、相手の魔力の系統が何となく分かるのさ」
「大した才能だな。
戦いにおいて、初対面の相手の属性が判別出来るアドバンテージはかなりデカい。
相手の属性系統が分かれば対策も立てやすいからな」
「……へえ。
ユティだっけ?
……アンタ、分かるクチだね?」
そう言いながら、ナプキンで口許を拭うユティに。
それまで頬杖をついて食べるのを見ていたベルタがピクピクっと頭部の獣耳を動かし、顔を上げ、感心したように呟いた。
「ごちそうさまでした!
……えっとね。
私達の母様ね、冒険者なんだよ」
「えっ、マジ?」
ユティにやや遅れてチキンスープを平らげたライア。
その彼女が誇らしげに、満面の笑みを浮かべて言うものだから、ローラもベルタも一気に興味を持って行かれてしまったようで……。
「……そう言えば、今のシーズンって村の宿屋は何処も客でいっぱいだ。
やっぱ、冒険者ともなると優先的に宿を予約出来たりすんの?」
「外国へも顔パスで行き来できる、とか言うよね」
「? いや、私達は村の宿には泊まっていないが」
「イモのお姫様のお城に泊まってるの。
私達の母様、お姫様と友達だから、お呼ばれしたんだ」
「「 姫様のお城に!? 」」
ライアの言う「イモのお姫様」とは恐らく死妖姫、即ち、このブランディル自治領を治めるシェリル女公爵に相違ない。
普段であればライアとユティのような小さな子供の言う事などすぐには信じなかっただろうが、ローラもベルタもライア達の身体から立ち上る年齢にそぐわぬ強大な魔力を既に目にしているため、目の前の姉妹が強ち嘘を言っているとも到底思えなかったのだ。
それ以前に、こんな幼い年齢から2つの系統の魔術属性を持った者達に、ローラ達は出会った事が無かった。
「な、なあ……。
……アンタ達の母親って何者?」
「姫様の城には、滅多な事じゃ入れないんだけど!?」
「私達の母様ね、ディケーって言うの」
「「 冒険者ディケー!? 」」
今日一番大きな声が、孤児院の中に異口同音で木霊した。




