第94話 私の護衛役を断ってでも
「ベッドふかふかー!」
「部屋も広くて暖かいですね、お母様」
「そうね。ホテルみたい」
ブランディル自治領の領主、シェリル女公爵のお城にお呼ばれした私達。
シェリルとの謁見後に通された部屋の中で、早速くつろがせて貰っていた。
ふもとの村から城まで大した距離はなかったんだけど、雪が結構深くて踏みしめながら歩いたものだから、子供達は少し疲れちゃったみたい。帰りはホウキで飛んだ方がいいかも。
「これだけ大きなベッドなら3人でも余裕で寝れちゃうわね」
「わーい! 母様と一緒に寝れるんだ!!」
「ふふ。ええ」
普段はライアとユティとは別々に寝てるからなあ。
まあ、たまに私のベッドにどっちかが潜り込んで来る事もあるけど、こうして親子3人で一緒に寝れるのは良い事だわ。
ちなみに元の世界に居た頃、従姉妹の子供がうちに遊びに来るとよく私と一緒に寝たがってたんだけど……寝ぼけて夜中に私の顎を蹴り飛ばして来たりと酷い寝相でね……その点、ライアもユティも蹴抜いたりもせずにスヤスヤ寝てくれるから、ホンマ良い子達なんですよ……。
閑話休題。
「とりあえず、荷物を出しておきましょうか」
まだライアとユティは"魔女見習い"なので魔女の工房の容量が小さいから、2人の荷物は私の荷物と一緒に魔女の工房に入れておいてあげてたのよね。
長期宿泊ともなると大荷物になっちゃうし、異空間に収納して手ぶらで移動出来るのはホント助かるわ。
「晩御飯は部屋に運んで来てくれるんだったわね。
それまでゆっくりしてましょうか」
「「はーい」」
防寒着に火の術式を施してたからポカポカして外の寒さもあまり気にならなかったのが幸いね。
部屋の中も結構広い割には暖炉もないのにも関わらず全体的に充分に暖かいし、火の術式の暖房機能が常に働いているのかしら?
「窓からの景色も良いわね」
「ホントだ! 星が綺麗!」
「風光明媚だな」
大自然の中に建つ城!って感じよね。
今夜は月も星に綺麗に出てるし、吹雪いたりしなければ明日も村に行って、色々食べたり買ったりしたいかも。
と言うか、
「(ナタリア様へのおみやげとかも買って、何とか機嫌を取っておかないと……)」
****
……案の定。
ナタリア様は年末年始にかけて、あれこれ理由を付けて私と一緒に過ごす気満々だった。
それこそ、ヴィーナ近郊の市町村の権力者のお宅へ年末年始のパーティや挨拶回りする時の護衛役とかでね……。
なので「あの、もう予定があるので無理です……」って断ったら(ナタリア様が年末年始を一緒に過ごそうと私に持ち掛ける前に、もうシェリルから「冬季休暇はブランディルで過ごさない?」って手紙が届いちゃってましてえ……行くって返事を出しちゃってたのよね)、
『……私の護衛役を断ってでも、年末年始を過ごしたい相手でも居るの?』
ナタリア様、少し涙目になって私の手を強く握って来ちゃったので。
そこはすかさず「実はお呼ばれされていて……」と事情を説明した。
『ブランディル自治領の女公爵!?
イモ姫とか言う女吸血鬼じゃないの!!』
『あの、ナタリア様……
死妖姫です……』
『そう言ったわよ!』
『(言ってない……)』
……まあナタリア様には大変申し訳ないんだけど、私としては子供達との時間を優先させたかったので、年末年始の護衛役はお断りせざるを得なかったって言う……休暇の申請についても御領主様とパトロン契約を結ぶ時に有給の概念がこちらの世界にも存在しているのは確認済みだし、シェリルのお城にお呼ばれされなくても、早い内から申請自体はしてたのよね。
年末年始は休ませてください、って。
「(だからその……
ナタリア様はちょっとタイミングが悪かったって言うかあ……)」
私と一緒に居たい、って思ってくれてる気持ち自体は本当に嬉しいのよ!?
ナタリア様は初対面の時は色々あったけど、今は友達同士で……私もナタリア様、好きだしね。
すごく懐いてくれてるし……いや、懐いてるってレベルとっくに越えてる気がしないでもないけども!
まあでも、ナタリア様ったら渋々承諾はしてくれたけど、
『……がぶっ!』
『いっ、たあっ!?』
……私と一緒に過ごせない腹いせなのか。
突如、思いきり指噛みされたって言うね……。
しかも甘噛みじゃなくて本気で噛まれちゃいましてえ……いや、笑い事じゃなくて……。
『な、な、何で噛むんですかーっ!?』
『うっさい、バカディケー!
……私の気も知らないで!!
ほら、大人しく首元も見せなさい!!!』
『ちょっ、ナタリア様っ!?
く、首は勘弁してくださいよぉっ!』
更にナタリア様は畳み掛けるように。
指だけでは飽き足らず、
『かあ……ぷっ!』
『~~~~~!?』
ーーー今度は私の首筋にも噛み付いて来た。
私が女吸血鬼の領地に休暇に行くと知って対抗心を燃やしてしまったのかしら……って、冷静に分析してる場合じゃないでしょう!
『な、ナタリア様っ!?
か、噛み付きは反則ですって……!』
『うっしゃい(うっさい)。
きゅーけしゅきに、とりゃれるくりゃいにゃら
(吸血鬼に、取られるくらいなら)、
いひゃのうひに、わらひがしゃきにひゃみちゅいとくんらから!
(今の内に、私が先に噛み付いとくんだから!)』
これはさすがに本気じゃなかったけど……でも馬車の中でひたすらナタリア様に情熱的に抱き付かれて、首筋を甘噛みされたり、チュウチュウと音を立てて唇で吸われるのは、かなり恥ずかしかった。
……てか、防音の術式を事前に馬車に掛けてなかったら御者の人に私達の関係モロバレですよ!?
最近のナタリア様、時と場合を選ばずに馬車を私との密会に使う事がホント多くなっちゃって!!
『ぢゅるるるっ……ちゅううぅっ!
れろっ、れろぉ……んちゅ……っぷはぁ。
……ふん、まあこんなもんかしらね』
『うー、またキスマークがあ……』
『こうしてキスマークを付けておけば、
その女がディケーにちょっかい出そうとしても、
もう先約が居るって分かるでしょう?』
何たる理不尽!
ナタリア様、もう私を自分のモノにする気満々じゃん!!
しかもメチャクチャ独占欲強いわね!?
権力者と会談する時とかは外面はいいけど私と2人きりになると、途端にこれなんだもんなあ……。
『……反対側にも付けるから。
今後も私との約束を破る度にこれをやるからね。
……ディケー、分かったら返事なさい』
『……はい』
結局その日、ナタリア様はまたしても私の首筋をキスマークの内出血だらけにしてしまった。
子供達に見られる訳にもいかないので、しばらく首元が隠れる感じの服で数日過ごし、お風呂も別々に入ったのはここだけの話って事で……。
「(シェリルのお城に来る前に、何とか消えて良かった……)」
さすがにディケーの旧友に、そんなモノを見られる訳にはいかなかったからね……。
いや、ナタリア様的にはシェリルに見せつけたかったんでしょうけどね……私の首筋のキスマーク痕を。




