第92話 北国のグルメと女公爵について
「「「 うまーい!!! 」」」
ブランディル自治領の村の食堂、その一角のテーブルで木霊する、親子三人の異口同音。
シェリル女公爵のお城に御招待される前にまずは腹ごなしと入店した食堂で、テーブル狭しと並べられた地元のグルメに、私達は舌鼓を打っている真っ最中なのだった。
「この餃子! すごく美味しいわ!
キャベツやらジャガイモやらお肉やらチーズやら、中身もバリエーション豊富ね!
生地もモチッとしてるし、備え付けのソースもいい感じ!」
「このトマトソースのロールキャベツ!
中に詰まったお肉とお米にスパイスが効いてて、めっちゃジューシー!」
「このパンが器になったスープ!
中の刻みソーセージとゆで卵の食感がスープの酸味と合わさって非常にグッド、飲み終わったらスープの染み込んだ器も食べられる!」
北国らしく、寒さに強い野菜をふんだんに使ってるみたいね!
少しピリ辛だったり酸味が効いた味付けも身体を温めるためでしょうし、寒い地方ならではって感じ!
メニューを読んでとりあえず何品か注文してみたけど、ライアとユティも無我夢中でシェアしたお皿からヒョイヒョイ摘まむものだから、もう無くなりそう!
「(久々の親子三人の旅行での食事だから、美味しさも倍増ね!)」
「小説家になっちゃおう」で掲載されてる転生モノの小説だと大抵、主人公がチートやら現代知識で無双したりハーレム作ろうとしたり、死亡フラグ回避のために辺境だのに引き込もってスローライフを満喫しようとするけど、やっぱり異世界に来たんだから旅しなきゃ駄目でしょう、旅。
レジェグラはRPGなんだから!
そして地元の経済を回すため、地元の食堂で地元産のグルメを食す! これですやんか!!
私がレジェグラの世界に来る前とかもう、テレビなんてタレントが旅しながら食レポする番組だらけだったわよ!?
「(異世界に来たなら、その世界の経済に貢献しなきゃね!
住まわせてくれてありがとう、この気持ちを忘れちゃ駄目だと思うわ!!)」
食材を育ててくれた人、加工してくれた人、届けてくれた人、調理してくれた人、関わった全ての人に感謝だわ。
私も元の世界に居た頃は実家の喫茶店手伝いだったし、原材料やら餌代の高騰で両親が「申し訳ないが店のメニューを値上げするしかないな……」ってボヤいてたのを見てたしね……。
「母様、他のも注文していい?」
「あと何品か興味のある物があります」
「ええ、いいわよ。
旅の思い出にいっぱい食べておきなさい」
母様、この前のデサロの騒動でエマちゃんのお父様である公爵様から、事件解決に協力したボーナスを結構な額いただいてますので!
子供達がお腹いっぱいになって笑顔になるなら、先陣を切って帝国の残党と戦った甲斐があるってものよ! ……囮役とか二度とやりたくないけど!!
****
「「「 美味しかったー! ごちそうさまでした!! 」」」
たらふくお昼をいただきました!
あとは、食後のハーブティーをいただくだけね。
ふう、それにしても満腹で満足だわ。
この地方はどうも、昼御飯が朝昼晩の食事の中で一番ボリューミーみたいね。
おかげでかなりお腹に貯まったわあ……。
「しかしアンタ達、よく食べたねえ」
「あはは……お騒がせして……」
無我夢中で北国のグルメを頬張っていた私達は食堂の中でも相当に浮いていたようで、食後のハーブティーをお盆に乗せてテーブル席までやって来た獣人の女将さんが、苦笑いしていた。
「観光客だろう?
今のシーズンは何処の宿も結構早く埋まっちまうんだけど、確保してあるのかい?」
「私達、御領主のシェリル女公爵にお呼ばれしてるんです」
「イモのお姫様のお城に泊まるの!」
「ライア、死妖姫な」
「へえ! 姫様のお城に」
テーブルにハーブティーをカチャリと置いた女将さんは、驚いたように目を見開いていた。
「そう言えばアンタ達、見た目は人間だけど……何やら強い魔力を感じるもんね。
アンタ、姫様の友達かい?
姫様は時々、友達をお城に招待して他の土地の様子を聞いたりしているって話だし……」
なるほど。
私以外にもお城に招いたりしているのね、シェリルは。
地元の人もそれくらいは周知の事実って感じで、知ってるんだ。
「オバさんはお姫様に会った事あるの?」
「あるよ。
祭りとか、行事の時には年に何度か村まで降りて来られるんだよ。
姫様は吸血鬼だけど、もう何百年も生きてるから日光やら十字架なんて、全然へっちゃらなのさ」
「すごーい!」
吸血鬼と言えば日光、十字架、ニンニク、後は銀の弾丸とかが弱点なんだっけ?
ん? 銀の弾丸は狼男の弱点だったかも? ごっちゃになってるわぁ……。
「(まあでも、長く生きてると弱点も克服しちゃうのね!)」
私も子供の頃はピーマン嫌いだったけど、大人になったら回鍋肉とか青椒肉絲とかピーマン入っててもバクバク食べるようになったもんね……。
他だと「家主の許可が無いと家の中には入れない」とか「川を渡れない」とか「鏡に姿が映らない」とかも吸血鬼の弱点だっけ? 最後の鏡云々は毎朝の髪のセットがすごい不便そうだなー、くらいにしか思わないけども。
「お城に行くなら日が暮れる前にね。
村から大して離れてないけど、北国だから冬は日が落ちるのが早いし、寒さも増すし、真っ暗になっちまうからさ」
「ありがとう、そうします。
お代はここに置いておきますので」
「まいど。
姫様によろしく言っといとくれ」
「はい」
さて、お代も払った事だし!
女将さんにアドバイスしてもらった通りハーブティーを飲み終えたら、早々にお城へ向かった方が良さそうね。
村からそんなに離れてないにしても、間違って遭難とかしちゃわないとも限らないし。
ここは地元の人の言うことを聞いておくべきだわ。
「ライア、ユティ、出発していい?」
「お腹いっぱいだし、いつでもいいよ」
「チャージ完了です、お母様」
「じゃ、発ちましょうか」
会いに生きましょう。
異界の魔物をも退ける実力者、ブランディル自治領の女公爵ーーー死妖姫シェリルに。




