第62話 恐れていた冒険者ネリの「ディケーさんと2人きり」作戦
南の樹海で復活した炎魔将アグバログを倒し、国境の町ヴィーナに帰還してから数日が経った。
地響きで被害を受けた町の復興は進み始めたものの、300年ぶりに魔将が復活した影響で各地の有害召喚獣や魔物の動きが活発になり、ヴィーナへ続く街道沿いにもちょっとばかり危ない感じの奴らが現れ始めた!
……なので今、私はリハビリも兼ねて有害召喚獣駆除の真っ最中!!
「影縛!!!」
「!?」
今日の相手は、唸り声をあげながら角を振りかざして猛スピードで突進して来る有害召喚獣、暴野牛!
鉄板くらいなら軽くブチ抜けそうな立派な角してるわね……だけど、ただ突っ込んで来るだけじゃ私達には勝てないわよ!
「ネリちゃん、今!」
「はい! ーーー風矢!!!」
それまでずっと気配を絶って草むらに身を隠していた同業者で斥候のネリちゃんが、私の合図と共に飛び出し、風矢で一閃!
私の影縛で身動きを封じ、ネリちゃんの風矢で脳天を射抜く、これぞ冒険者女子2人によるクロスコンビネーションアタックってヤツですよ!!
「やったわ、いい感じ!」
レジェグラ本編でも、バトルマップで敵モンスターの左右に好感度が高めの仲間キャラ同士が隣接してると、コンビ攻撃発生してたもんね!
「ンブオォ……!」
ドスン!と大きな音を立てて、額から血を流す暴野牛はそのまま足から崩れ落ちると、その巨体を草むらに横たえ、ピクリとも動かなくなってしまった。
……よっしゃ、倒せた!
ネリちゃんの風矢が脳天をドンピシャね!!
「「 暴野牛、撃破ー!! 」」
私とネリちゃんは2人でハイタッチし、勝利を喜び合う。
私が前に倒した巨猪と同じくC級有害召喚獣だけあって、なかなか手強くてパワフルな奴だったわ……元の世界に居た頃、でっかい角生やしたヘラジカが雪の中を物ともせずに駆け抜ける動画を見た事があるけど、明らかにヘラジカよりもガタイが良くてスピードもあったわね。
……的確に脳天を攻めたのは正解だったわよ、ネリちゃん!
「すごーい!
私、C級の有害召喚獣を倒したの初めて!!」
「(密かに呪いでデバフかけておいたのが効いたわね)」
巨猿王と戦った時は至近距離からじゃないと相手に呪いをかけられなかったけど、死闘を経てディケーの身体に馴れて来たのもあって、離れた相手にもデバフをかけられるようになったのは僥倖だわ!
「(ごめんね……)」
この暴野牛にも、暴野牛なりの事情があって暴れてたんでしょうけど……でも、ヴィーナに続く街道を往く人達を襲った以上は野放しには出来ないし、駆除するしかなかった。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。
****
「さっきの風矢、いい感じに決まってたわね。
もうソロでもやっていけそうじゃないの、ネリちゃん」
「ううん、ディケーさんが影縛でガッチリ動きを封じてくれたからですよー!」
女子2人で抱き合い、真っ昼間の草原の真ん中で、キャッキャし合う私達。
……魔力探知で広範囲を調べても他の魔物の反応はないし、一先ずは警戒を解いても大丈夫でしょう。
「全部、ディケーさんのおかげだよ♪」
「そ、そう?」
てかネリちゃんってばもう、最近は全然遠慮して来なくなって、私のおっぱいやらお尻やら、抱き合うついでにフツーに触って来てるのは気のせいかなあ、かなあ!?
……あと触り方も何て言うか、ちょっとえっちな感じするんだけど!?
「ちょ、ちょっと、ネリちゃん?
さ、触り方が少し、その、ね……?」
「えー。
女の子同士だし、これくらいはフツーだと思いますけど?」
そ、そうかなあ……!?
えっ、私の認識がアレなだけで、こっちの世界だとこれがフツーなの!?
「水星ってお堅いのね」的な!?
で、でもレジェグラはCERO Bだから、えっちなゲームじゃないのよ!?
対象年齢12歳以上の健全なゲームなんですけど!?
「(……っと、じゃれあってる場合じゃなかったわ!)」
私は一旦ネリちゃんを身体から放すと、
「じゃ、じゃあ暴野牛は私が回収しちゃうけど……
ネリちゃん、本当に要らないの?」
「うん。私は懸賞金だけでいいから。
そっちはディケーさんに全部あげる」
「じゃあ、お言葉に甘えて……それっ!」
冒険者ギルドから支給された捕獲袋に暴野牛の骸を吸い込み、回収完了!
今日の狩りは元々はネリちゃんが受注したクエストに私が誘われたカタチなので、分け前は折半で行こうって事になったのね(冒険者としては新人の私がネリちゃんの後輩に当たる訳だし)。
で、ネリちゃんが懸賞金、私は暴野牛の骸(角やら毛皮やらの部位素材+お肉)って配分で行こうって話になって……まあ私としてはアグバログとの戦い以降、お腹が減ってしょうがないので、有害召喚獣のお肉が手に入るなら願ってもない話だったけど(お給料は御領主様からアグバログ退治の特別ボーナスをこの前貰えたし)。
「ふう。
それじゃ、ヴィーナに戻りましょうか」
「えー。
せっかく国境の外まで来たのに?
まだ戦闘を終えたばっかりだし、もう少しゆっくりしません?」
「う、うーん……」
ネリちゃんってば本来は控えめな性格だったはずなのに、私が"魔女の瞳"で誤って魅了した時に「自信持って」って言っちゃったのが原因で、魅了の効果が切れた後も良くも悪くも自信家になっちゃって、以降グイグイ来るようになったのよね……。
わ、私、一応は子持ちなんだけどなあ……しかも中身はアラサーっていうね。
「ね、ディケーさん」
と。
私がネリちゃんへの対応を考えあぐねていると。
秋風の吹く草原の中、若草色のポニーテールを揺らして、ネリちゃんが私の顔を覗き込むように言う。
「南の樹海でアグバログを倒したのってさあ……
ディケーさんでしょ?」
「!?」
……んんっ!?
な、何でソレ知ってるのー!?
「ふーん、やっぱりそうなんだ?
伝説の魔将を倒しちゃうなんてすごーい!!」
「ね、ネリちゃん? どうして知ってるの!?」
ディケーさん、ホントにすごいよ!
……ネリちゃんはそんな風にキャッキャしながら、またも私に抱き付いて、おっぱいに何度も頬擦りして来る。……ナタリア様と違って、こっちは完全に遠慮がないなあ!?
「(御領主様やナタリア様にはアグバログの事は黙っておいて貰ってるはずなのに……!?)」
……え、何処かで情報が漏れたとか!?
騒ぎになって魔女バレすると嫌だから公表してなかったはずなんだけど……!?
他に知ってる人はギルマスと受付嬢のベルちゃんくらいのはず……えぇーっ……!?
……そんな私の焦りを知ってか知らずか、ネリちゃんは私に抱き付きながら、嬉々として続ける。
「ディケーさん、新人だから知らないんだ?
他の冒険者が何のクエストを受注したとか、何処に出向したのかとか、同じギルドに所属してる冒険者なら簡単に調べる事が出来ちゃうんだよ?
ディケーさん、アグバログが復活した時は南の樹海への出向届けを御領主様経由で出してたでしょ?
……だからまあ、多分ディケーさんが倒したんだろうなあ、って」
「(この子、すごいわね!?)」
気配を完全に消せたり、足音が全くしなかったりと、斥候とかより諜報活動とかの方が向いてるんじゃ!?
下手に自信を付けさせた事で、やる事なす事が妙に大胆不敵になっちゃってる……!!
「あ、別に言いふらそうとか、そういうのじゃないから。
御領主様絡みだし、何か事情があるから公表してないんだよね?」
「う、うん、まあ……」
「黙っててもいいんだけど……。
んー、どーしよっかなあ~♪」
ネリちゃんは答えを焦らしながら、尚も私の腰へと腕を回して、ムニュムニュとおっぱいへと幸せそうに頬擦りを続ける。
……な、懐いてくれるのは嬉しいんだけど……2児を育ててる母親としては、果たして受け入れていいものやら、って感じ!
「(……サラさんといい、ナタリア様といい、ネリちゃんといい、この世界の女の子って皆、懐いた相手には基本的にグイグイ来る! なんで!?)」
レジェグラの仲間キャラも半分は女の子だったけど、主人公が女の場合でもここまでグイグイ来てた覚えないんだけどなあ!?
……さすがにCERO Bじゃ友情END止まりだろうし、女の子同士の恋愛とか(いわゆる「百合」ね)がまだ流行るか流行らないかの頃に発売されたゲームだったし、もしかするとレーティングが多少引き上げられた世界なの!?
「(うぅ……出来ればネリちゃんとの関係は壊したくないのよね……)」
一緒に特A級有害召喚獣の巨猿王との死線を潜り抜けた仲だし、冒険者の先輩だし、無理に引き剥がして後でギクシャクするのもなあ……けど、このままおっぱいムニュムニュされて身動きが取れないって言うのも……い、いっそ、魔術で眠らせちゃおっか!?
「ね。
……ディケーさんは、私にどうしてほしい?」
「そ、そうねえ……」
「私、ディケーさんを困らせたい訳じゃないの」
「う、うーん……」
そう呟いて、ネリちゃんは期待の籠った熱い眼差しで私を見上げて来る。
更に、私の腰に回されたネリちゃんの手は、いつの間にかお尻にまで伸び始めていて……。
「私はただ、
ディケーさんともっと仲良くなりたいだけだよ?」
ぐふっ!!!
こ、この子、こんなあざとかったっけ……!?
「(……まずい、このえっちい雰囲気はヒジョーにまずいですよ!)」
絶対CERO BどころかCERO Zの展開になるやつですやんか!!!
……そんな感じで、私がどっちつかずな対応でネリちゃんに接していると、
『あー、あー。
……ディケーさん、ネリさん、暴野牛は倒せましたか?
まだまだ国境の外には活動が活発になっている有害召喚獣が多数居ますので、お早めに帰還願います!』
間が良いのか悪いのか。
ギルドから支給された通信石から、受付嬢のベルちゃんの、何故だかちょっとだけ怒気を孕んだような声が、草原一帯に木霊した。
……た、助かったー!
ネリちゃんは一気に目に見えて不機嫌な顔になったけど、私としてはこれ以上ないタイミングだった!!
「べ、ベルちゃん?
暴野牛は無事に倒せたわ。
これからすぐにギルドに帰還するから!」
『分かりました、ディケーさん。
お早めの帰還をお待ちしておりますね』
「……さ、ネリちゃん!
ベルちゃんもああ言ってる事だし、早くギルドに戻りましょう!」
私はベルちゃんにすぐさま返事を返し、慌ててネリちゃんを引き剥がすと、検問所の方へ向かって、街道沿い足早に歩き出した。
ーーーその私の後ろを、怨み節全開でネリちゃんがトボトボと足音も無く付いてくる。
「……もう少しだったのに。
ベルちゃん、絶対ドローンで覗き見してた……」
「べ、ベルちゃんはそんな事しないわよ……。
ま、町に戻ったら、一緒にお昼食べましょ?」
「……うん」
結局、ヴィーナに帰還するまでネリちゃんの不機嫌は治らなかった。
……いやまあ、非常時に限ってはギルド所有の魔物監視用ドローンが国境を越境する事自体は許されてるみたいだけど、真面目なベルちゃんに限ってそんな覗き見みたいな事……ねえ。
……しないでしょう、さすがに。
****
「……まったく。
ネリさんは油断も隙もないんだから。
……ディケーさん見守り用のドローン、もっともっと増やさなきゃ」
ーーーーしていた。




