第547話 深淵戦争、女吸血鬼、そして勇者について
「ごめんねえ、ディケーお姉ちゃん♪
悪気はなかったのぉ。
爵位と領地をもらって、ディケーお姉ちゃんの身体がなまってないか、確かめたかったって言うかあ……ね?」
ニコニコ笑顔で謝罪するシェリル。
……しかし、その顔からは反省の色は微塵も感じられない。ニマニマと口角を吊り上げながら笑う、大人を舐めた悪ガキ、そのものである!
……これには普段は菩薩のように温厚なディケーさんとて、頭にきますよ!!
「……私をよわよわだの、ザコザコだの言ってなかったしら?」
「気にしちゃダーメ♪
この姿になるとねぇ、つい口が悪くなっちゃうだけなのぉ♪」
「……」
……それでも何とかメスガキ……もとい、幼女の姿になったシェリルの煽りに耐えた私は。
玉座の間からシェリルの部屋まで、彼女の手をグイグイと引いて辿り着くや、ドカッとソファーに座ったのだった。
その間も、
『あ〜ん♪
お姉ちゃんの鬼畜ぅ♪
シェリル、これから、わからせられちゃうんだぁ〜』
とか、不穏なコトばかり言ってたのは、どの口なんですかねー!?
なに、異世界でもメスガキとか流行ってるの? 私の世界の日本だけの流行りじゃなかった……ってコト!?
メスガキは世界を超えるの!? 野球の大谷とかサッカーのメッシじゃあるまいし!
疑問は尽きないけれど……閑話休題。
「すぐにお茶とお菓子を用意させるね〜。
うふふ、冬以外にディケーお姉ちゃんが訪ねて来るなんて珍しいコトもあるんだあ……」
ーーーちびシェリルはスカートから覗く白い生足をチラチラさせながら、私の隣にゆっくりと腰を下ろすと。
「で、何のお話だったかなあ?」
「……だから、さっきも言ったでしょ。
深淵戦争の頃について、ちょっと聞きたいのよ」
「ふ〜ん? そうなんだぁ〜♪」
……ちょうど目線が私の胸元に当たるくらいの角度で、私の顔を見上げて来るのだった。
くっ、口調は何かムカつくけど、顔が可愛いから怒るに怒れないッ……!
中身はメチャクチャ長生きしてる吸血鬼だって分かってるのにぃ……。
「(……あー、おちけつ!
もとい、落ち着くのよ、私!
見た目が可愛いからって、騙されちゃダメダメ!!)」
シェリルのペースに巻き込まれちゃいけない、飽くまでも対等の立場を貫かなきゃ……平常心、平常心……。
私ってば、こっちの世界でディケーに憑依転生しちゃってから……自分でも不思議なんだけど、どうにもソロアちゃんとかステラちゃんみたいな年下の子相手に、ときめいちゃうコトが多くなっちゃったみたいでえ……。
「(魔女は子供産まないから、本能的に年下の子を見ると、可愛がろうとしたりしちゃうのかも……)」
魔女の先輩達も私には辛辣だけど、ライアとユティ、それにソロアちゃんとクロアちゃんには優しいもんね……。
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「しばらくはディケーお姉ちゃんとお喋りしてるから、呼ぶまでは来なくていいからねぇ〜」
「かしこまりました、姫様」
お茶とお茶菓子を持ってきた蛇女のメイドさんが、ちびシェリルと私に恭しくお辞儀をして、退室する。
テーブルの上には、よく冷えたアイスティーと焼き立ての美味しそうなクッキーが並んでいた。
「深淵戦争の頃の話……ねえ。
特に話すようなコトもなかったような気もするけどぉ……ディケーお姉ちゃんは、何を聞きたいのかなぁ?
クスクス……」
無邪気(いや邪気はだいぶ含まれてるでしょうけど)に笑い、クッキーを手にして頬張るシェリル。
『安物のキャンディーだ。
コニャックによく合う』
ーーーとでも言いたげに、ボリッ、メキッ、バリッ……と口内で小気味よい音を立ててクッキーを咀嚼しながら、私を見上げて来る。
くっ、食べてる仕草も小動物みたいで可愛い……話し方はかなり小憎たらしいけど……。
「ーーー勇者について聞きたいの」
「……勇者?」
「居たのよね? 深淵戦争の頃にも」
それまで、ホストとしての余裕を崩すコトのなかったシェリルが。
私が勇者の話を始めた途端ーーーピタリと、クッキーに伸ばす手を止めたのをーーー私は見逃さなかった。
「……そうね、勇者は居たよ?
……と〜っても、いけ好かない奴だったけど♪」
それまでのニコニコ笑顔が嘘のように。
口調は相変わらずふざけていたけれど、酷く真面目な声色でーーーそう、ちびシェリルは答えたのだった。
……あ、これ、もしかして……シェリルにとっては地雷な話だったり、する?




