第544話 ディケーさんの腋からしか得られない栄養素も、確かに存在しますから
「ディケーさん、ついに子供にまで手を出そうとするなんて……私のヒロインとして、それはどうなんですかね」
「ベルちゃん、言い方」
ステラちゃんを私の従者兼弟子にすると決意した翌日。
私はベルちゃんを訪ね、一緒に初夏の日差しの下を歩きつつ、これまでの経緯を説明していた。
念のため周囲に認識阻害の術式を展開しての、内緒話ね。
がーーーベルちゃんの反応は、ちょっと冷ややかで……。
「(……と言うのもベルちゃん、私がハルバード公爵家から領地を貸与されたのを機にヴィーナの冒険者ギルドの受付嬢を退職、そのままハルバード家の魔術師団が駐屯している駐在所代わりのお屋敷で、スターレイム家の収支やらの経理担当に転職しちゃった、っていう……)」
近隣の市町村の人達からの困り事の相談窓口みたいなコトもやってるので、実は受付嬢時代とあんまりやってるコトは変わらないっぽい。
「(ベルちゃんなら私の懐に入るお金やらもキッチリとチェックしてくれるから助かるけどお……)」
う、受付嬢時代に比べて、お小言が増えたような……?
ネリちゃんもすっかりスターレイム一家の一員だから、身内に甘くないのは分かるんだけどお……。
「そ、そうは言うけどね、ネリちゃん?
ステラちゃんが勇者になれるかどうかに、世界の運命がかかってるワケでえ……じゃ、邪神が召喚されたら、世界は全て破壊されちゃうのよ?
……ネリちゃんの大好きな私の腋も、もう見れなくなるのよ? それでもいいの?」
「……まあ、それは確かに困りますね。
ディケーさんの腋からしか得られない栄養素も、確かに存在しますから」
「嫌な栄養素だなあ」
そしてまあ、出会って9年経っても腋フェチは相変わらず……っていう……。
ネリちゃん同様、私に操を捧げて独身貫いてくれてるのは嬉しいけど……身内になってからはますますおかしな感じになってるのが……ね。
「と、とりあえず、ステラちゃんが成人する15歳までは待つわよ?
それまでは飽くまで仮の従者と言うか……まずは弟子にして、鍛えてあげたいのね」
「……本当にその子が勇者に選ばれると?
勇者って、もう何百年も現れていないはずですが……」
「そこはディケーさんを信じなさいってば。
……大丈夫、ステラちゃんなら絶対選ばれるわ!
ベルちゃんは見たくないの?
魔女と勇者がタッグを組んで、世界の危機に立ち向かう姿をさあ!!」
「……まあ、多少は見たいですけど」
「そうでしょう、そうでしょう」
もともと文学少女で、物語やらが好きなベルちゃん。私の力説に、子供の頃からの憧れが疼いているのが見てとれた……よし、もうひと押しね!
「勇者になる女の子を今から鍛えられるかもしれないと思うと、私もワクワクが止まらないわ!
みんなで力を合わせて、世界の危機に立ち向かいましょ! ね、ベルちゃん!!」
ステラちゃんはライアとユティに次ぐ、私の推しキャラ!
……その推しキャラをまだ未熟なうちに私が鍛錬してあげて、勇者として選ばれるようにサポートする……あしながおじさんみたいで、ちょっと素敵なのでは!?
しかして、ネリちゃんの答えはーーー
「はあ……そこまで言われたら、ダメとは言えないじゃないですか。
どうせもう、ソロアさんやキャルさん、キラリさんも了承済みなんでしょう?」
「ええ。
これは言わば、人類の生き残りを賭けた一大プロジェクト……ステラちゃんが勇者に選ばれるよう、私達で全力サポートするのよ!」
「……まあ、魔女と勇者のタッグは見てみたいですしね。
邪神だの邪教団だの、やたら話がぶっ飛んでいますが……異界の魔将を倒されているディケーさんが言うのでしたら、冗談とも思えませんし……はあ」
ベルちゃんは半ば呆れつつも。
「ーーー私にできる範囲に限られますが。
御意向に従います、マスター」
スッと私と向き合い、真面目な顔と声で、そう言ってくれた。
……よし、ベルちゃんの許可はもらえたわね。これ以上は従者を増やしてほしくないっぽいコト、言ってたもんね……。
「……ところで、ディケーさん。
今日、ちょっと暑くありませんか?」
「えっ? え、ええ……そうね。
夏が近いし、この領地は少し南寄りだから、それのせいもあるでしょうけど……」
ーーー不意にベルちゃんが立ち止まり。
意味深な言葉を、私に投げかけてくる。
こ、この流れは……。
「腋……汗かいたりしてません?
ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「狙いはそれかー!」
「せっかく認識阻害の術式で、誰も私達に気づかないコトですし……青空の下で、ディケーさんの腋のゲリラ撮影会をやっても、バチは当たりませんよね?」
「腋のゲリラ撮影会というパワーワード」
理解不能、理解不能!
「撮影させてくれないなら、勇者計画のお話は白紙と言うコトで……」
あ、理解可能。
「(くぅ〜ッ! ステラちゃんを勇者にしないコトにはレジェグラのストーリーが始まらないし、受付嬢時代から培ったベルちゃんの情報網は何としても活用したいッ……)」
わ、私の腋だけで犠牲が済むなら……安いものだわ!
「さ、ディケーさん。
指で腋のシワを広げてください、"くぱぁ……"って。
逆光になると上手く取れませんから、位置も少し変えましょう」
「だからベルちゃん……腋から"くぱぁ"なんて音は鳴らないんだって、何度も……」
「鳴りますよ。少なくとも私には聞こえます」
「ひえっ……」
出会って9年経っても、相変わらず私の腋が大好きなベルちゃんなのでした……。




