第543話 ライアとユティ、魔女見習い達の勇者ステラの見解について
「母様、やっぱりステラちゃんを新しい従者兼弟子にしたかったのかー」
「まあ私達は来年、正式な魔女として認められれば、晴れて"魔女見習い"卒業だしな……。
ただでさえ魔女は昔に比べて人数が減ってるって話だし、新たな魔女の育成は母様だけに限った話じゃないんだろう」
「はー、大変なんだねえ……」
ーーーキンドラー魔術学校の昼休み。
魔女ディケーの娘、ライアとユティは人知れず空き教室で落ち合い、昨晩ディケーから聞かされた話について、語り合っていた(念のため、まだ拙いながらも認識阻害の術式も発動させて)。
普段はカギがかかっているが、既に魔女の一歩手前の段階にまで成長した二人にとっては、施錠などまるで意味をなさない。
内緒の話をする時は、空き教室を使うのが恒例となっていたのだった。
「ユティ、何か浮かない顔してるね?
どしたー?」
「いや、なんと言うか……」
ーーー互いにディケーに拾われ、養女として育てられから早9年……14歳になった二人にとって、新たな弟子の登場にはそれぞれ思うトコロがあるようで……。
「私は嬉しいけどな〜。
ステラちゃんが母様の弟子になったら、私達にとっては妹弟子ってコトだよね?
うは、何か、ちょっといいかも〜♪」
「いや、まだスターフォールさんに声かけすらしてない段階なんだから、それは気が早すぎるだろう……」
「でも、私達みたいに、魔女になるための特別な才能のある子なんでしょ?
ユティの見立て通りだった、ってコトじゃん」
「それはそうなんだが……すまん、私も上手く言語化できない」
新たな弟子が誕生するかもしれないと、キャッキャと喜ぶライアとは対象的に、ユティはステラ・スターフォールという少女について、まだ少し懐疑的であるようであった。
ユティはライアに比べて直感や未来予知と言ったものに秀でており、ステラに対してもいち早くそのずば抜けた才能を見抜いていたが……。
「(お母様の判断に意見するつもりは毛頭ないけれど……果たして、スターフォールさんを私達側に引き入れていいものなのか……?)」
ーーー本来の時間軸であれば仇敵であるはずのステラに対し、本能的に危機感を覚えているのか……ディケーの従者兼弟子ーーーつまりは魔女側に引き入れて、本当にいいものなのだろうか、と。
そう、心の何処かで疑念を感じているようだった。
「私、前にキラリちゃんやソロアお姉ちゃん達と一緒にお昼ゴハン食べた後、実際にステラちゃんに会って、少し話したんだけどさ。
すごく良い子だったよ?
動物達も懐いてたし……悪い子じゃないと思うんだけどなあ〜」
「まあ、ライアがそう言うなら……」
ライアの他者の善悪を見抜く才能に関してはユティも一目置いているだけに、そこまで言うなら信憑性は高い。
……母には母の考えがあるのだろうし、もうユティが口を出せる段階は過ぎてしまったのかもしれない。
温和で優しい母ディケーであるが、一度やると決めたら大抵のコトは最後までやってしまうコトを、ユティも知っている。
「……お母様が決めたコトだ、なら信じるしかないか」
ふう、と大きなため息を吐いて。
腕組みをしながら、ユティも覚悟を決めたようであった。
「……ああ、そうだ。
ライア、お母様絡みでもうひとつ、話があったんだった」
「およ? なーに?」
話も終わったコトだし、そろそろ空き教室を出ようかと、ライアが座っていた机から下りたトコロでーーーふと、思い出したようにユティが呟いた。
「……最近、新聞部がお母様について嗅ぎ回ってるらしい。
どうも、ソロア姉様との関係について調べてるみたいなんだ」
「ソロアお姉ちゃんとの?
……あー、多分それアレじゃない?
ソロアお姉ちゃんのマスターが誰か、って話の」
思い当たるフシがあるらしく、即座にライアが反応する。魔術協会の大導師だったソロアのマスターはここ数年ずっと謎とされており……ライアとユティの母ディケーであるコトは伏せられていたため、いざ公表されてしまうと……ただでさえ話題に飢えているキンドラーのお嬢様達にとっては、恰好のゴシップネタになるのは想像に難くない。
母やソロアのキンドラーでの勤務に支障が出かねない事態である。
「しかも近々、学級新聞で発表する予定だとか……」
「へー。
てかユティ、よく知ってるね?」
「これでも中等部生徒会の副会長だからな。
目と耳は学校中に配置してあるのさ」
「よーするにソレ、ユティに憧れてる子達にスパイさせてるってコトでしょー?」
「言い方を変えれば……まあ、そうとも言える」
ーーーそう、ユティは小等部六年の段階で特例で生徒会入りし、そのままあれよあれよと言う間に、現在は中等部生徒会の副会長の座に収まっていたのだった。
平民枠からの推薦入学した生徒としては、異例の抜擢である。
「学内の風紀を正すための、必要悪さ」
本来は貴族のお嬢様達の将来的な箔付けに過ぎない一面のあった生徒会であったが……ユティが副会長となってからは雰囲気も少し変わり、より厳格且つ高貴な雰囲気が漂い始め……ユティに対して、強い忠誠心を持つ女生徒達を各学年に数人配置し、噂話やら与太話に聞き耳を立てさせているのであった……(本人曰く、"魔女の瞳"による魅了は一切使っておらず、彼女達が自主的に協力を申し出たとのコト)。
「この件については、後でお母様に判断を仰ぐつもりだ。
別に私が個別に揉み消してもいいんだが……新聞部の連中が記事のバックアップを何処かに隠していたりしたら、それはそれで面倒だからな」
「おー、ユティも何かワルになって来たねえ」
あはは、と笑うライアを横目で見つつ。
「当たり前だろ。
ーーー私らは魔女なんだから」
ニヤリと悪い笑みを浮かべ、先に空き教室を出るユティなのだったーーー。




