第542話 やってみせろよ、マフ……ディケー!
「新たな勇者として選定されるかもしれない女の子を、ディケーさんの従者に……ですか」
「や、やっぱり、スターフォールさんですか……か、可愛いですもんね……」
『ソロア、嫉妬〜?』
「ひぃあぁぁっ!? ち、違いますよぉ……」
一人で悩んでもらちが空かないので。
夕食を食べ終えた後ーーータイミングを見計らって、私はキャルさんとソロアちゃんにもステラちゃんを新たな従者……と言うか、私の新たな弟子として鍛えたい旨を話していた。
と言っても、キャルさんとソロアちゃん、二人の反応はまるで違っていて……
「んー、勇者は309年前の深淵戦争以来、現れていませんでしたからねえ……ディケーさんの魔女としての未来予知に、そのステラさんという方が勇者として選ばれる未来が見えた……そういうコトですか?」
「うん……まあ……ね」
「ふむふむ……なるほど。
ですが勇者として選定されるには、大公家が保管している聖剣『ソードオブグランディア』に選ばれる必要がありますからね……。
ディケーさん的には、その子が勇者としての資質を得られるように、今のうちに鍛えてあげたい……そういうコトでしょうか?」
おお、キャルさんはそんな風に解釈したかあ……それに聖剣『ソードオブグランディア』……久々に聞いたわね!
レジェグラの作中で手に入る、主人公の最強武器! そっか、そう言えば大公家が保管してたんだっけ……すっかり忘れてたわ。
「ステラちゃん、元々は騎士を目指していたの。
色々あって、今は魔術師に進路を変えたけれど……剣の鍛錬もまだ続けているみたいだし、聖剣に選ばれる可能性は大いにあるんじゃないかなー、って」
「なるほど!
それにディケーさんも"炎魔将殺し・青生生魂"の使い手ですし、魔術だけでなく剣の鍛錬も施せますしね」
「あはは……ま、魔術はともかく、剣に関しては完全に我流だし……どうかなあ?」
興奮気味に語るキャルさんとは裏腹に、私は剣に関しては自信がないので、飽くまで魔術だけを鍛えてあげたいかなー、みたいな?
一方、ソロアちゃんはと言うとーーー
「ま、マスターの新たな弟子となれば……わ、私にとっても他人ではない……ですよね」
「ふふ、そうね。
ソロアちゃんにとっては妹弟子……になるのかしら?
ライアとユティにとっても、だけどね」
「い、妹弟子……い、いい響きですね……」
世間には公表していないけれど、私はソロアちゃんの魔術の師匠でもある。ソロアちゃんが私の"魔女の従者"であるコトをカムフラージュするためでもあるけれど……。
「(いえまあ、魔術協会で大導師だったソロアちゃんに私が教えるコトなんて何もありはしないんだけれども……そうしておいた方が、ソロアちゃんに次から次へと舞い込む大公家や有力貴族からのお見合いや婚約話をお断りするには、世間体がいいと思ってえ……)」
……もう随分と前になってしまったけど、西の大国タイレーンからリン公主様がアーメリア公国を訪問した時の宝珠の返還式典で、
『皆さんのお心遣いは、たっ、大変ありがたいのですがっ!
……わ、私にはもう、心に決めた方が居るんです!!
そ、その方に……私は身も心も、全て捧げると誓っていますので……!』
『おお、何と……』
『ソロア殿に、既にそのような相手が……!?』
『ソロア嬢、それは一体何処のどなたなのです!?』
『そ、それはぁ……うぅ。
それは……わ、私のマスターですっ!』
『マスター……?』
『大導師にまで登り詰めたソロア殿に……?』
『そ、そうです!
私には今、師事しているマスターが居て……その方の従者なんです!
わっ、私はもう身も心も、その方の所有物なので……!』
『なんと……そんな事が』
『ソロア嬢にそこまで言わしめるとは……』
ーーーってなコトがありましてえ。
それ以来、ソロアちゃんがキンドラー魔術学校で非常勤講師として働きだしてからも、言い寄って来る人も居なくなったし、一定の効果はあったのよね、あのマスター発言は……閑話休題。
『ディケー、よっぽどその子を従者兼弟子にしたいんだね?』
「そうね……。
大公家の宮中で暗躍している……と思わしき邪教団との戦いに、いずれ勇者となるステラちゃんの力は必要不可欠なの。
出来れば、まだ勇者として選ばれていない今のうちに、ライアとユティに施したような本格的な魔術の鍛錬をつけてあげたいのよ」
『なるほどなー』
……もちろん、ステラちゃんと仲良くなりたいっていう下心も込みだけど、まあそれは敢えて語らず。
悪い奴らをやっつけるためにも、ステラちゃんの助力不可避! と、キャルさん、ソロアちゃん、キラリちゃんにはひとまず伝えておきましょう。これ以上、従者が増えると私の魔力供給の負担も大きいしね……ステラちゃんが私の最後の従者です!
「"魔女の塔"にはいずれまた、新たな弟子を取るコトを連絡しておくわ。怒られたくないし」
「あ、確か、魔女が弟子や養子を取る際は報告の義務があると、以前ディケーさんも仰ってましたね!」
「うん、まあ……」
ーーーレジェグラ本編の時間軸のディケーは報告・連絡・相談、全て怠ってたせいで、"魔女の塔"を除籍されて、その報復で魔女を全滅させちゃったからね……いやはや。
この時間軸では私が大魔女に謝罪して、事なきを得たけど……あれは危なかったわあ……。
「(んもー、ディケーってば絶対ラインの返信遅いタイプだわ! 下手すりゃ既読すらつかないわね!!)」
来年は大魔女選挙もあるし、あんまり他の魔女達に睨まれるようなコトはしたくないしね……粛々とソフィー姉様に連絡しとこう……。
「と、ともかく……。
私としては、どうしてもステラちゃんを"こちら側"に引き込みたいの。
いずれ、世界を巻き込んだ大きな危機が起こった時、彼女の力が絶対に必要になる……星に選ばれた勇者と魔女がタッグを組めば、邪教団だろうが邪神だろうが、何とかできるはず!
……キャルさんとソロアちゃん、キラリちゃんからすれば、また従者を増やすのかって感じかもだけど……どうか、分かってください。
本当に、従者を作るのはこれで最後にしますので!」
申し訳なさ込みで、私は三人に頭を下げていた。
私の身勝手で、またまた従者を増やすのだから、当たり前である(ただでさえ、大公家の第一公女のメアリ様を従者化して、まだ日も経ってないのに……)。
しかしてーーー
「まあ……世界の平和のためなら、仕方ないと言いますか……ねえ、ソロアさん?」
「は、はい……。
本音を言えば胸中やや複雑ではありますが……こ、これからも、マスターや皆さんと一緒に居たいですし……せ、世界が滅んだら、それこそ全部おしまいですし……」
『やってみせろよ、マフ……ディケー!』
キャルさんも、ソロアちゃんも、キラリちゃんも、笑顔で私の背中を押してくれた(……てかキラリちゃん、今マ◯ティーとか言いかけなかった?)。
うう、優しい……。
「世界を救うため、勇者に選ばれるかもしれない女の子をディケーさんの新たな従者に……これは一大プロジェクトですね!」
『星に選ばれた存在となると、星に生み出された私達、星妖精とも決して他人とは言えないしねー』
「ま、マスターがスターフォールさんを従者兼弟子にできるよう……わ、私達も協力しますので……」
「……みんな、ありがとね」
……やっぱり、家族っていいなあ、と。
私のわがままに付き合ってくれるみんなの笑顔に、励まされてしまったディケーさんなのでした。
「(ライアとユティにも、後で連絡入れとかなきゃ……)」




