第538話 もうひとつの師弟のカタチ! 魔女ディケーと魔剣士クロア
「おう、いいぜ。
ナタリアの姐さんの護衛くらい、お安いもんだ、マスター」
「よかった。
クロアちゃんにお願いしてよかったわ」
ーーー翌日。
首都トワシンの大公家のお城にて、次回開催される貴族連合の会議にナタリア様が初めて出席するコトになったため。
私はヴィーナの御領主家の中庭で、お花に水をあげていたクロアちゃんに経緯を説明して、護衛役をお願いしていた。
「(ヴィーナの御領主家には冒険者ディケー以外にも頼りになる護衛が居ると分かれば、貴族連合のお歴々もナタリア様に簡単に手出しはできないでしょうし……)」
クロアちゃんは眼光鋭いのもさながら、常に臨戦態勢で周囲を警戒できる子ですので!
正規の魔女なのはもちろん、とうとう臨時雇いから正規雇用の冒険者に昇格しただけあって場数も踏んでるし……ね(ナタリア様が保証人になってあげたので、クロアちゃんが別の世界から来たコトは伏せたまま正式採用されたのね)。
「てかよォ。
その貴族連合ってのに、邪教団とやらを作ったクソヤローが紛れ込んでんだよな?
……なら一人ずつ胸ぐら掴んでブン殴って『テメーが邪教団を作ったのか?』って質問してけば早くねーか?
まあ、マリーの姐さんは違うだろうけどよ』
「あはは……乱暴なのはダーメ。
マスター命令です、クロアちゃん」
「へいへい、わーったよ」
クロアちゃんは腰から生えた水色の尻尾をフリフリさせて、プイと私からお花の水やりに視線を戻しつつ、あっけらかんと答えたのだった。
……今はメイドさんのお仕事中だし、あんまり邪魔するのも申し訳ないしね。
「(……別世界のソロアちゃんとは言え、同じく別世界のディケーの弟子でもあるから、こっちの世界の私の言うコトを素直に聞いてくれるのは助かるわ)」
多分、あっちの世界のディケーから、こっちの私の言うコトを聞くように言われてるんでしょうけど……それでも、マスターと呼んでもらえるのは、やっぱり嬉しいのよね。
「(同じヴィーナの御領主家で働く同僚でもあるし、仲良くやれてるわよね、私達)」
うんうん。
この数年でクロアちゃんもすっかり御領主家に馴染んだし、メイドとしてのお仕事の他に護衛騎士としても採用されたり……って、クロアちゃん、ちょっと順応良すぎでは!?
私の世界だったら絶対クラスカースト上位のキラキラの陽キャJKだったでしょうねえ……いやはや。
「(可愛くて、それでいて凛々しいって、ちょっとズルいわあ……)」
それだけ魔女としてのクロアちゃんが洗練されてるコトの裏返しなんでしょうけど……同じ女として、ちょっと嫉妬しちゃうじゃんね!
閑話休題。
「マスターも順調に出世してんな」
「えへへ……まあね」
「ナタリアの姐さんやレムリアはマスターが屋敷に最近居ないコト多いから、暇そーにしてんぜ?
たまにゃ相手してやんな、役目だろ」
「え、ええ……」
うう、それに関しては私もそうは思ってはいたんだけど……確かに、昔に比べるとナタリア様やレムリアちゃんの相手をできる時間が減っちゃってるのよね……どうしたものかしら。
ーーーと、私がクロアちゃんの仕事ぶりを横で眺めていると、
「あの……クロア副メイド長、お仕事中失礼します。
少し、お時間よろしいでしょうか」
「おう、何だ?」
「奥様の午後からの予定なのですが……」
「ああ、それならよーーー」
今年の春からお屋敷で雇われ始めた新人のメイドの子が、仕事中のクロアちゃんにおずおずと話し掛ける。
……そうなんです、クロアちゃんってば、いつの間にかヴィーナの御領主家の副メイド長に抜擢されちゃって、まあ!
「(今では新人の子を指導する立場っていう……時の流れは早いわねえ……)」
クロアちゃんがこっちの世界に修行に来てから、何だかんだで結構経ったものね。
メイドとしてはちょっと生意気、でも可愛らしくて……騎士としては凛々しくて、とっても強い。
そんなクロアちゃんに憧れて、ここ数年はヴィーナの御領主家の新人メイド募集の時期になると、応募が殺到するっていう……恐るべし、クロアちゃん人気!
オマケに採用面接にはナタリア様も同席するもんだから、大抵の子はみんなガチガチに緊張しちゃってるのよね……(ちな、応募してくる子は大体がいいとこのお嬢様だったりする)。
「クロアちゃんも順調に出世してるじゃないの」
「そーか?
雇ってもらった最初の頃と、やってるコトは大して変わってねーよ、マスター」
ーーー口ではそうは言っても。
こちらの世界のソロアちゃん同様、頭から生えた猫耳をピョコピョコと動かしてはにかむクロアちゃんに、思わず笑みがこぼれるディケーさんなのでした……。
「(よし、ナタリア様の護衛の件についてはクリアね……頼んだわ、クロアちゃん!)」




