第536話 領主夫人のスパイ大作戦!? 私はトム・クルーズじゃない!!
「……で?
夕方まで公女殿下とイチャイチャしてたって?」
「それは……まあ、ハイ……」
ーーー大公家のお城を後にした私は。
既に空も暗い時間帯ではあったけれど、自宅に戻る前に一旦ヴィーナの御領主家に戻り、宮廷で見聞きしたコトをまずはナタリア様に報告していた。
爵位と領地を授与されたと言っても、立場的には相変わらず私はヴィーナ自治領の御領主家付きの冒険者なので、そういう義務がディケーさんにはあるのです……。
立場的に、御領主様やナタリア様は大公家のお城においそれと簡単には入れないしね……中央の情勢を知るのも地方領主にとっても大事なコトなのは私も重々承知してるんだけどお……。
「ふぅん、ディケーお姉様……ねえ。
……まさか、とうとう公族にまで手を出すなんてね?
貴女の節操の無さは、私も十年近くの付き合いだから知っていたつもりだけれど……ねえ?」
「す、すみません……。
雰囲気に流されて、つい……みたいな?
き、気がついたら……や、やっちゃってました……」
「"つい"で恋人を気軽に増やすんじゃないわよ、バカディケー」
「はい……反省しております……」
ーーーナタリア様に詰められた私は、とうとう第一公女のメアリ様を、私の"魔女の従者"にしたコトをゲロってしまった件!
そして、今日もまたメアリ様の「お姉様」として振る舞い、二人で濃密な時間を過ごしてしまった、っていうね……。
『……この香水の匂い、あの公爵夫人がいつもつけてるのとは違うわね?
私の知らない匂い……誰と一緒に居たの? 正直に言いなさい、ディケー』
って、まるで警察犬みたいに私の身体についた香水の匂いをクンカクンカと嗅いで、誰と一緒に居たかをチェックされるんだから、たまりませんよ、もー!
なんちゅー鼻してるのよ……おえんよ(※)!
※岡山県の方言で「手に負えない」とか「ダメだ」とか「いけない」などのニュアンス
「……貴族連合の会議に今回うちの自治領は参加できなかったのは癪だけれど、次回からはチャンスがあるのね?」
「あ、はい。
マリー様のお話だと、貴族連合からの要請で、次からはヴィーナ自治領からも代表を、と」
「連合の末席に加えてもらえる見返りに、何かを要求されるのは見え見えだけど……まあいいわ。
ディケー、次からは私も首都に行くから。
この手の話し合いは、あの人よりも私の方が向いてるし」
「さすが、商家のお嬢様……」
ナタリア様ってば、交渉ごとに関しては御領主様より遥か上の手腕なのよねえ……小さい頃からお父様に連れられて、色んな町での商談に参加して、見聞きした経験が活きまくってるわあ……何より、その場で思いついたアドリブが上手いのよね、ナタリア様は。
娘のレムリアちゃんもまだ幼いながらに、結構弁が立つと言うか、口が上手いと言うか……ナタリア様の血をこれでもかと継いでるわね……。
「(でもナタリア様なら世間話やらのついでに、上手い具合に邪教団に関連した噂話なんかも仕入れるコトができるかもだし……)」
ミア姉様の予知だと、大公家もしくは大公家に近しい貴族の誰かが、どうやら秘密裏に邪教団を創立したみたいなんだけども……この二年間、それとなくメアリ様からお城に呼ばれるついでにメイドさんとかと世間話とかして、探りを入れてはみたけども……やっぱり、簡単に尻尾を掴ませてくれないのよね。
「(そりゃそうよね、なんたって邪教団だもの……言わば反社会的な集団、国家転覆を狙う過激派なんだから……きっと普段は何気ない顔して、お城を出入りしてるんだわ……)」
以前、ヴィーナで不良外国人達がやってた、人身売買だの密造酒だの闇オークションだのの現場をガサ入れした時とは、やっぱり違うわね……私の魔力感知や未来予知にもまったく引っかからないし、かなり高度なジャミング用の魔道具とかで身バレを防いでいる可能性が高い!
「ナタリア様、くれぐれも貴族連合のお歴々に失礼のないようにお願いしますね……?」
「誰に言ってるのよ? 当然でしょう?
ま、表向きは従順な地方領主の妻を演じてやればいいだけのコトじゃないの」
「まあ、そうなんですけど……ね」
一応、私もメアリ様から爵位と領地をもらった立場だけど、新参者だから貴族連合に加えてもらえる程の立場でもないし……ここはナタリア様を頼るしかないか……。
「(いざとなれば、マリー様が助け舟を出してくれると思うし……)」
ナタリア様が貴族連合の会議に出席する前に、ちょっと相談しておこう。
「(ああ、でもマリー様もマリー様で……)」
確か、今日の別れ際ーーー
『ディケーさん。
私、プライベートな用事で今後少々、忙しくなるやもしれません。
ディケーさんに会える時間が減ってしまうのは、大変名残惜しいのですが……うふふ♪
なんて、こんな弱気な言葉はハルバードの女には似合いませんわね』
って、言ってたっけ……。
「(マリー様もマリー様で、国家の中枢で何かを探っているのかもしれない……)」
マリー様のハルバード家も、元々は深淵戦争での功績を大公家に認められて爵位と領地を得て、今の公爵家の地位を手に入れた……大公家への忠誠心は当然高いはずよね。
……その大公家のお城の中で何か不穏な動きがあれば、マリー様だって気づくでしょう……私よりずっと長い期間、お城を出入りしてるワケだし。
「(何か……静かに……ではあるけれど)」
……事態が動き始めた。
私がステラちゃんとついに出会ったコトといい、そんな気がするの。
「ーーーディケー? どうしたの?
さっきからずっと、黙ったままで」
「あ、いえ……」
ーーー邪教団については、ナタリア様にはまだ言わない方がいいかもしれない。
探りを入れていると相手に勘付かれるかもだし……本当にさり気なく、世間話でも何でもいいから、それっぽい情報が手に入れば、それでいい。危険な目にはあわせられない。
……でも、
「……私に何か頼みたいコトがあるなら、言って。
私、やるわよ?
……私も貴女の"魔女の従者"ってコト、忘れたの?」
「ナタリア……」
これまでの付き合いで、私の考えなんて、すっかりお見通しだったようで。
これは、言わなかったら、それはそれでまたガン詰めされるわね、と観念した私は。
自然と口を開き、ナタリア様にこれまでの事情を説明するのだったーーー。




