第527話 マフティーが観光地にいるわけ……もとい、魔女が魔術学校で女教師やってるわけないだろ!
「魔力は魔術師にとっては命そのものです。
攻撃と防御、双方に使用すれば自ずと消費され、戦闘の最中にどんどん失われていきます。
いかに魔力を節約しつつ、且つ相手に特大の一撃をお見舞いして無力化するか?
特に対魔術師戦では、これが重要になってきます」
ズ ズ ズ ……。
ーーー百聞は一見にしかず、と私の世界でも言うように。
まずは実際に目の前でやってみせようと、私は教壇の前で魔力を展開し、生徒達に披露した。
何せ、ここは未来の魔術師を目指すお嬢様達が集う、キンドラー魔術学校……生半可な魔力じゃ「なんだ、この程度かあ」とガッカリされかねない。何事も、つかみが大事ですので!
「激しい戦いの最中であっても、魔力の繊細なコントロールは忘れずに。
消費は最小限にしつつ、常に途切れるコトのないよう体内で巡回を。
とっさの時は魔力を集約させ、攻撃と防御、双方にいつでも切り替えられるよう、心掛けをしましょう……こんな風に」
ズズッ …… !!!
「「「 おおー 」」」
私が身体全体に纏っていた魔力を瞬時に右手全体に集約させると、ひときわ大きな歓声が生徒達から漏れた。
魔力の移動、集約は魔術師にとって基礎中の基礎……そして、ある意味では奥義であるだけに、いかにこれをスムーズに行えるかが戦いのキモになってくる。
……かく言う私もディケーに転生した当初はディケーの身体に不慣れなのもあって、コントロールが下手で……ライアとユティが寝静まった夜中に、実は魔力移動の鍛錬をコッソリやってたりしてたのよね……ああ、懐かしい。
「更に左手、右足、左足、また右手……」
私はかわるがわる、集約させた魔力を移動して、見せてあげた。
うーん、街中で大道芸やってる人みたいだけど、ディケーさんは至って真面目です!
実際、スムーズにやるの結構難しいのよ、これ。
「無手であっても魔力を各部位に集約させれば、そこが武器にも防具にもなります。
もちろん、この状態で術式を展開すれば強力な一撃を叩き込めるかもですが……より的確に相手を無力化するのであれば、魔力を纏った状態で人体の急所を攻撃するのが最も効率が良い攻撃方法です。代表的なのは顎やみぞおちですね」
魔力を集約させた左腕でガード、攻撃を払い除け、即座に右腕に全魔力を集約、カウンターパンチ! みたいな感じで。
……言うのは簡単だけど、一度に色んなコトが求められる戦闘中だと、慣れない内は魔力の移動が間に合わないコトが結構あるのよねえ……ただでさえ秒ごとに魔力は消費されていくし。
「(マリー様と浜辺でビーチバレーした時のコトを思い出すわね……)」
初めてハルバード家の別荘にライアとユティと一緒にお呼ばれした時ね。
「(もう八年前くらい前になるのかしら……マリー様的には私の実力を知るためのお遊びだったんでしょうけど……)」
あの殺人スパイクは、絶対お遊びのレベルを遥かに超えてたと思うなあ!?
両腕と両足に魔力を全集中、ボールを何とか受けてからのレシーブ、即座に全魔力を右腕に集約させてのカウンタースパイク(更には"魔女の幻惑"による分裂魔球!)で何とか勝てはしたけど……間違いなくマリー様は本気だった……。
「(今じゃ私も『ママぁ……』なんて言って、マリー様に会う度に甘えちゃってるけど……)」
ーーービーチバレーとは言え、このアーメリア公国における最強の魔術師とのガチバトルをやらかした恐怖は、未だに忘れられないわあ……某休載の多いハンター漫画のグリードアイランド編、子供の頃に熟読しといて良かったー、爆弾魔戦よりレ◯ザー戦の方が好きだったのよね、チームバトルって感じで。
閑話休題。
「みなさんの中には魔術学校卒業後、魔術協会を始めとした関連組織に入りたい……と考えている人もいると思います。
基礎能力の高さは面接時に大きな加点要素となりますので、自身の現時点での実力を把握するためにも、まずはみなさんも魔力移動をやってみてください」
これなら椅子に座った状態でも、各自やれるし、私もひとりひとり見て回れるからね!
特に……ステラちゃんの今現在の実力を知っておきたい。
「(本来なら、四年後には世界を救う勇者として見出されるはずだったステラちゃん……この世界では騎士から魔術師に進路を変えた……それが果たして、レジェグラの本編にどう繋がるのか……)」
私やライア、ユティにとっても無視できない問題だし……。
さてさて、まずは教室をグルリと見て回って、さり気なくステラちゃんの成長具合(意味深)をチェックさせてもらいましょうかね……ぐへへ。
「(見せてもらいましょうか、レジェグラの主人公の14歳時点での実力とやらを……!)」
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「(うっ、魔力を集約させるのが精一杯で、右手から左手に移動させるだけで疲れる……!)」
「(私、移動に時間かかり過ぎぃ!)」
「(くぅっ、あんな一瞬で自在に移動させられるようになるまで、何年かかるのですの……!?)」
ふむふむ……教室内を歩きながら見て回る限り……みんな基礎自体は小等部の時点で叩き込まれはしているけど……中等部になると実技よりも筆記に重きを置くせいなのか、実戦向きの応用が苦手な子が多いみたいね……この辺はお嬢様校ならでは、なのかしら?
なんやかんやで15歳で成人だし、そのまま高等部には進学せず、中等部卒でそのまま婚約者と結婚、みたいなコトもそれなりにあるみたいだし。魔術師ではあるけれど、戦闘とは無縁の子が多いのかも。
「(言い方は悪いけど、要は中卒でもいいから「魔術学校卒」の肩書を持って嫁入りした方が箔が付くんでしょうねえ、アーメリアだと……)」
これもお国柄、なのかしら。
「(っと、本命のステラちゃんは……?)」
教室をひと通り歩いて、お嬢様達の魔力移動を見せてもらった私は。
いよいよ本命のステラちゃんの机の方へと、歩みを進めた。
ステラちゃんは真面目な顔をしつつも、他の子達に比べれば、かなりスムーズに魔力を移動させているように見受けられた……やりますねえ!
「(転生したての頃は、あれだけ『首都に行くと、主人公や仲間と遭遇する可能性が〜!』とか言って、行くのをためらっていた私が……今、こうやって自分からレジェグラの主人公にーーーステラちゃんに接触しようとしてるなんて、何だかおかしいわね)」
それだけ、この九年間で私の考えも変わった、ってコトなのかな?
しかして、私はコツコツと床をブーツで鳴らしつつ、ステラちゃんの机に近づいてーーー
「ええと……(席の名簿を見るフリをしつつ)。
ステラ・スターフォールさん……ね?
どうかな、上手くできてる?
何か質問があれば、気兼ねなく聞いてね」
「あ……は、はいっ」
私とステラちゃんのファーストコンタクトが、ここに相成った。
……て言うか、
「(うは、顔ちっさ!
お目々ぱっちり、髪も艷やか、声も可愛い!)」
これは守ってあげたくなるわあ……まさに天性のヒロインね! 肉欲からの解脱、不可避ッ!!




