第512話 公女殿下とお忍びデート! in 城下町
「すごいわ、本当に誰も私に気づいてない!
ほら見て、ディケー!
こんな大声を出しても、一人も振り向かないなんて!!」
ーーー結局。
私は公女殿下のメアリ様に押し切られてしまい、ほんの数時間ながら、城下町でのお忍びデートを承諾してしまった。
殿下も日々の公務が忙しくて、息抜きがしたかったみたいだし、私もノーと言えなかったのよね……それにメアリ様の気持ち、何となく分かるし。
私もたまに母親やら魔女やら冒険者の肩書を忘れて、ちょっと遊びたいなって思うコトあるしね……。
「(とりあえず、夕方までに戻れば大丈夫かな……)」
お城を抜け出す前、侍女の人達に
『三時間程お昼寝をするから、それまでは部屋から人を遠ざけておいてね』
と殿下が仰ったので、まあそれまでにデートを終えれば……。
うぅ、これがバレッラ(※)……もとい、バレたら、さすがにメッチャクチャ怒られちゃうわよね、私……。
※イタリア代表のサッカー選手
「認識阻害の術式ってすごいのね!
さすがは私を夢魔から救ってくれた冒険者ディケー、私の越境騎士だわ!!」
「お、お褒めに預かり、光栄の極みです……」
ーーーとにかくまあ、メアリ様の楽しそうなコト!
いくらはしゃいでも他の人に声も聞こえず姿も見えないものだから、テンションメチャクチャ高い!!
もう成人してから数年経ってるとは言え、私の世界で言えばまだ大学生くらいの歳だものね……そりゃ窮屈なお城で公務をやるより、外で遊びたくもなるか……とは言え。
「メアリ様、あんまりはしゃぎますとバスやタクシーに轢かれてしまいますよ!
ただでさえ今のメアリ様は誰にも認識されていないのですから!!」
「はーい、分かってまーす!」
ーーーそう、帝国との戦争に勝利した時、戦後賠償として接収した科学技術が各インフラに組み込まれた結果……首都のトワシンはそこらで路面電車やバス、個人タクシーが往来していて……結構危なっかしいのね。
一応、信号やら横断歩道はあるんだけども……今のメアリ様は誰にも見えてないから、私がちゃんと見てあげてないと。
「城下町ってこんなに楽しいのね!
何度かお忍びで外出したコトはあるけれど、その時は毎回気づかれないようにずっと注意しながらだったから、全然楽しくなかったのよ。
でも今は、とっても楽しくて素敵だわ、ディケー!」
「メアリ様の息抜きになれば、幸いです」
いつの間にか、私の呼び方も「スターレイム卿」から「ディケー」へと変わって、何だかメアリ様との距離感が縮まったような……それはそれで嬉しいし、悪い気はしないわね。
お姫様の知り合いと言えば、南の樹海のエルフの氏族のエレナお嬢様だけど……あれでもう169歳なワケで。
純粋な人間のお姫様の知り合いは、メアリ様が初めてだったりする……いやあ、ディケーさんも出世したもんですよ。
とーーー
「あ、メアリ様。
アイスクリーム屋がありますね。
今日は少し暑いですし……メアリ様、いかがですか?」
「アイスクリーム!
食べたいわ、ディケーが買ってくれるの?」
「はい。そこの噴水で少々お待ちを」
「はーい!
味はディケーに任せるからー」
観光地も兼ねてる公国の首都だけあって、そこかしこに色んな飲食店が出されている中……私が目ざとく見つけたのは、アイスクリームの出店だった。
メアリ様も噴水の縁に腰掛けて手を振って待ってくださるみたいだし……買いに行くとしますか!
「(身分を隠して、お忍びで外出中のお姫様と一緒に食べる物と言えば、やっぱりアイスクリームでしょう!)」
映画の「ローマの休日」でもオードリー・ヘップバーンがスペイン広場の階段で食べてたもんねえ(ちなみに今現在、階段でアイスクリームを食べると罰金の処罰があるみたい)。
「(ん? でも、ジ◯ン公国のお姫様の方のオードリーは、バ◯ージと一緒にホットドッグを食べてたわね……)」
……今日はホットドッグよりアイスクリームな気分だし、またの機会でいっか。
私も何気に首都でアイスクリーム食べるのは初めてだし……よし、今だけ認識阻害の術式を解除して、と。
「失礼します、御店主。
アイスクリームをくださる?
味は……バニラとチョコチップを」
「あいよ、まいど。
っと……こりゃ、べっぴんなお客さんだ。
おたく、貴族のお嬢様とかですかい?」
「あはは……。
もう、御店主ったら、口がお上手なんだから……そう見えます?」
「あんた綺麗だから、それぞれ一段ずつオマケしとくよ。
またご贔屓に頼みますぜ!」
「ど、どうも……」
早速お金を支払って、店主のリップサービスと共にアイスクリームを受け取る私。
……ディケーに転生したての頃は"魔女の瞳"を使って値切りしたりしてたけど……最近はもう使うまでもなく、色んな人達が「あんた美人だから」とか言って、自発的に値引きしてくれたり、オマケしてくれるのよね……。
「(すまないッ! 中身はアラフォー間近の女ですまないッ!!)」
圧倒的謝罪……そして感謝ッ!!!
だから感謝というのだろう……これを感謝というのだろう……。
****
「うふふ、外で食べるアイスクリームって、こんなに美味しいのね! 私、知らなかったわ」
メアリ様が満足気にアイスクリームを頬張っているのを隣で眺めながら。
私も噴水の縁に腰を下ろして、一緒にアイスクリームを舐めていた。
ちなみに私がバニラ、メアリ様がチョコチップね。
「……でもね、思うの。
やっぱり城の外に出てみないと、分からないコトって多いわね。
ここまで歩いただけでも、アーメリアの良い面と悪い面、どちらも垣間見えたわ。
戦後からもうすぐ二十年……『もはや戦後ではない』と言う人もいるけれど……少し裏路地の方に目をやれば、首都トワシンの暗部が見え隠れもしている……私も大公家の一人として、何とかしたいけれど……」
ふと、アイスクリームを舐めながら。
メアリ様が真面目な声色で、一点を見つめながら、そう呟いたのが聞こえた。
……メアリ様なりに、この国の行く末を案じているのね。
「(よもや、あと四年で邪神もしくはそれに準ずるモノが異界から召喚されて、世界が大パニックになるとは言えない……)」
実際は今のうちに……それこそ、シェリルにしたように、メアリ様に全てを話して、もしもの時に備えるのもアリかとは思う。
……だけど、メアリ様の心労をこれ以上増やすワケにはいかないし、まだ邪神を召喚する邪教団の尻尾も掴めてない以上……メアリ様を私の計画に巻き込むのは危険と判断せざるを得ない。
何も起きずに空振りに終わったら、メアリ様まで糾弾されちゃうだろうし……。
「今日は連れ出してくれて、本当にありがとう、ディケー。
貴女の心遣い、感謝します。
……私にとっても、良い息抜きになりました」
「メアリ様のお願いとあらば、何なりとお申し付けを……」
私に視線を向けたメアリ様に、私も視線を返して、互いに微笑みあった。
はあ、それにしても……天気の良い昼下がり、噴水広場でアイスクリーム片手に微笑む可愛いお姫様……一枚の絵画みたいで絵になるわねえ。
写真とか撮っちゃダメかな? メアリ様ってばお姫様だけあって可愛いし、出来ればソロアちゃんやヒュプノみたいに、私のコレクションに加えておきたいのよねえ……。
ーーーが、
「ん?
……今、何でもって言ったわよね?」
「(ん……?)」
……あれ?
何か、雲行きが怪しいゾ〜、これ。
……などと、私が内心焦っていると。
メアリ様は少しずつ、座っていた噴水の縁の上を移動して私との距離を詰め、互いの指先、肩と肩が触れ合う距離までやって来ると。
「……実はね。
私、お兄様ばかりで、お姉様が一人も居なくて、ずっと寂しかったの。
小さい時から、私だけのお姉様が欲しかったのよ。
……だから、二人きりの時でいいから。
……ディケーのコトを『お姉様』って呼んでも……いい?」
「 !? 」
ーーーメアリ様は、私の耳元で、顔をほのかに紅く染めながら。
か細い声で、まるで恋に恋する少女のように、そう呟いたのだった。
「(……えー、己を弁護するワケではありませんが)」
ーーー天地神明に誓って!
"魔女の瞳"での魅了は、メアリ様に使ってはおりませんッ!!




