第508話 魔女と暗殺者、領地デート中に……!?
「(問題は、どうすればライアとスターフォールさんが親密になるのを防げるのか? これに尽きますわね……)」
エリザは思案する。
ただでさえライアは誰とでも友達になれてしまう性格の持ち主なのだ……もし噂の編入生・ステラと遭遇してしまったら、間違いなく即意気投合し、親密になってしまうに決まっている。
ーーーそれだけは、防がなければならない。
「ライアは……私が守護らねば!)」
キンドラーの小等部一年からライアと寮で同室になってから、早八年。
すっかりライアもエリザも、あと一年で成人を迎えるに相応しい、少女から大人の女性へと羽化を迎える過渡期に入ったものの……
「(ライアは誰にも渡しません、そう決めたのですわ……!)」
やはり、ライアを自身のハルバード家付きの魔術師として召し抱え、自身の傍に置くコトを諦めきれない、まだまだ子供っぽいエリザなのだった。
ーーー否、これこそがエリザにも流れる、かつて凄腕の冒険者として名を馳せ、公爵家にまで成り上がった、ハルバードの先祖の血のなせる執念であった。
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「ディケーさんと海岸デートなんて、ラッキー♪
私、海に来たの初めてでーす!」
「こらこら……。
遊びに来てるんじゃないのよ、ネリちゃん」
「わかってまーす、御領主様♪」
「ホントかなあ……」
後日。
私はマリー様のハルバード家から貸与された領地に、再度の視察に来ていた。
ハルバードの魔術師団から派遣された駐在さんからは特に異常の報告はないけど……どうも、今日は朝から胸騒ぎのようなものがしてましてね……。
暗殺者から高位暗殺者に昇級したネリちゃんをお供に、二人して潮風に包まれながら海岸線を歩きつつ、再び陸地から海の様子を観察しているのだった……(胸騒ぎがしたので、キラリちゃんはナタリア様のお屋敷でお留守番)。
「(ネリちゃんってば、私と二人きりなのをいいコトに、おっぱい揉むやら腕組みするやら頬擦りするやら……好き放題なんだから……)」
出会って9年経つけど、さすがにもうこの性格は治らないかあ……。
「はあぁ……。
ディケーさん……好きっ♪」
「ありがと。私もネリちゃんが好きよ」
「わーい!」
……ちなみにネリちゃんの御両親にも私が魔女ってコトとかは伏せて、ある程度の事情を説明し「お宅の娘さんがこうなってしまったのは、私の責任ですので最後まで面倒見ます! サーセンでした!!」と、一応の謝罪はしておいた。
……ディケーさんは自分の従者の面倒は、責任を持って最後まで見る女ですので!!
「……て言うか、ネリちゃん。
アラム君もグラッツ君も結婚して冒険者引退しちゃったけど……ネリちゃんに良い人は居ないの?」
「私はディケーさん一筋なんでー。
結婚はしませーん♪
今後も従者として、御領主様兼マスターに、そしてディケパイに末永く、お仕えしまーす♪」
「ディケパイにも仕えるんかい」
気持ちはすっごく嬉しいんだけどね……でも複雑ぅ!
「(ネリちゃんもそろそろアラサー突入なワケだし……)」
いや、私の従者になったのもあって、未だに十代後半でも通用する見た目してるし、元々ガワも可愛いし、おっぱいもお尻も大きめだから、その気になれば男性達から引く手あまたなんでしょうけども……ね。
まあでも、アラム君達も「もうネリはディケーさんにしか任せられない」って、半ば諦めちゃってたしなあ……いやはや。
「(でも、元々は私の"魔女の瞳"の暴走でネリちゃんがこんなコトになっちゃったんだし……ね)」
それを踏まえた上で私の従者にして、スターレイム一家に加わってもらったワケだし?
……本人も私に仕える気満々だし。
「(……ま、いっか。こんな関係も)」
もうとっくの昔にネリちゃんの"初めて"も美味しくいただいちゃったし……手遅れだよね、ぐへへ!
「あ、そろそろ漁に出てた人達が漁港に戻って来る頃ね」
沖合で漁をしていた何隻かの船が、漁港を目指して海から戻ってくるのが見えた。
……今のところ、この前見た平穏な日常そのものよね……私の胸騒ぎは杞憂だったのかしら?
魔女の未来予知にも何も見えないし……海底に居た大きな影の主も、もう何処かへ行っちゃった……とか?
そう思いつつ、
「ねえ、ネリちゃん……ネリちゃん?」
私がふと、私と腕組みしながらディケパイに頬擦りしていた、隣のネリちゃんに視線を向けると。
ーーーそれまでの騒がしい様子が嘘のように。
ネリちゃんは海の向こうを険しい表情をして、見つめていた。
「ど、どうしたの……!?」
ーーー経験上、ネリちゃんが一言も言葉を発さずに真面目な表情になる時は……要警戒の合図!
「……ディケーさん、来るよ!
……海の底から!!」
「 !? 」
ネリちゃんが、そう叫んだ直後。
それまで静かだった海に大きな白波が立ち、海底から巨大な黒い影がぐんぐんと海面へと上がって来るのが見えた。
巨大な波しぶきが、海岸線目掛けて、津波のように襲い来る……!!
「んなッ……!?」
「ディケーさん、掴まって!」
言うが早いか。
ネリちゃんが私を抱えて、文字通り跳んだ。身体強化系の術式を極めると、ただでさえ砂で足場のよくない地面をひと蹴りしただけで、こんなに跳べるんだってレベルの跳躍!!
「(いや、それだけじゃない!
私から供給される魔力も込みか……!!)」
一瞬で高台に避難できたおかげで、波しぶきを頭から被る羽目にならなかったのはネリちゃんのおかげね……。
私の従者の中でも機動性と隠密性はピカイチだし……ネリちゃん、"魔女の従者"としても勿論だけど、もう一流の冒険者と言って差し支えのない域に達してるんじゃ……。
「あ、ありがと、ネリちゃん……助かったわ」
「ううん、いいの。
それより見て、ディケーさん!
……海から!!」
「あ、あれは……!」
完全に臨戦態勢に入ったネリちゃんが小刀を掲げて指す刃先には、ザバザバと海水を身体から滝のように流れ落としつつ、海岸に迫ろうとする、巨大な影が……!
……やっぱり、でっかい魔物が沖合に潜んでたんだわ!!




