第502話 魔女の娘達と星妖精、魅惑のランチタイム(あるいは大魔女ディケー2030)
『星妖精キラリ、お呼びとあらば即参上〜!』
「わー、キラリちゃんだー!」
「学校にキラリちゃんが居るのって、なんか新鮮だなー」
ーーーところ変わって、ここはキンドラー魔術学校。
魔女ディケーの娘達、ライアとユティが通うヴィーナの領内にある、貴族の御令嬢や少数ながら平民の少女らが通う女学校、未来の魔術師候補の学び舎である。
今は昼休み……生徒も教員も各々《おのおの》、昼食を摂っている時間帯だが……その校庭の一角にて。
「きょ、今日は、マスターもキャルさんもおうちに居ませんので……。
た、たまには、キンドラーに御一緒しませんかと、私が誘ったんです……」
「「 おおー 」」
どうやら、キンドラーにて非常勤講師として春から勤務しているソロアがキラリを連れて来たようで……昼休みにソロアと昼食の約束をしていたライアとユティにとっては、思わぬサプライズとなったようであった。
春夏冬の各休暇の時にしか実家に帰省出来ないため、基本的にキラリや母ディケーと会えるのは、その時に限られるからだ。
『クロパイに比べると、ややボリューム不足感があるものの……ソロパイはソロパイで、趣があって、私は好きだなー。ぐへへ』
「な、何のお話でしょうか……?」
ソロアの胸元からひょっこりと顔を覗かせ、のそのそと這い出たキラリは。
そのまま背中の羽根をパタパタと羽ばたかせ、ソロアの肩に腰を下ろし腕組みしながら「うんうん」と独り納得するのだった。
「あはは。
キラリちゃん、ますます母様に似て来たねー」
「だよな。仕草とか話し方とか」
『そうかなー?』
使い魔は契約者に似る傾向があると言うし、今のキラリを見ていると、母ディケーを何となく思い出し、望郷の念にかられてしまうライアとユティだった。
閑話休題。
「い、家を出る前にマスターに認識阻害の術式をかけてもらっているので……ほ、他の人にはキラリさんの姿は見えないはずです……うひひ」
「あ、そうなんだね」
「元々、キラリちゃんの声は私達以外には聞こえないもんな。
……思えば、そこそこ付き合い長いよな、私らもさ」
『だよねー。
ディケーと初めて会ってから今年で8年……ライアもユティもおっきくなったねえ』
「「 へへー 」」
レジャーシートの上に座り、足を崩してリラックスしたライアとユティは、久々に実家に戻ったような安堵感を覚えつつ、キラリとの他愛のない会話に興じる。
とーーー
「あ、あと、今日はマスターからお昼のお弁当を預かって来ました……。
作ってすぐ、私のインベントリに収納したので、出来立ての状態を保てているはずです……ど、どうぞ……」
「わー、やったー!」
「えっ、今日は母様のお弁当を食べていいのか……」
『あぁ……しっかり食え!』
「で、では、用意しますね……それっ」
さっとソロアがレジャーシートに手をかざすと。
いくつものランチボックスや紙皿、紙コップが現れて、あっという間に昼食の準備がその場で整ってしまった。
高位の魔術師ならではの早業である。
「「 おおー 」」
「で、では、いただきましょうか……」
「「『 いただきまーす!!! 』」」
久々の母ディケーの手料理、否応なしに食欲が爆発寸前になるのを、もう抑えられない。
早速、ライアとユティがランチボックスを開けると、
「エビカツサンドだー!」
「こっちは巨猪のローストリブサンド!」
「び、ビーフシチューパイもありますよ……私のオススメです、うへへ」
『おかわりもいいぞ!』
「「 うまーい!! 」」
パッと表情をほころばせる二人。
なにせどれも、ライア、ユティの大好物である。もぐもぐと美味そうに頬張り、改めて母ディケーに感謝する娘達であった。
****
『来年はついに"魔女の夜"があるんでしょ?
どう? ライアもユティも、正式な魔女になれそう?』
「うーん、そのために毎日鍛錬は欠かしてないけど……」
「本番で何があるか分からないし、動じないようにメンタル面を鍛えてる感じかな、今は」
『なるほどなー』
母ディケーの手料理を腹一杯に食べた後は。
食後のお茶を紙コップで飲みつつ、次の授業の開始まで、しばしのまったりタイム。
キラリはソロアの膝の上に乗って、「食べた食べたー」と制服の上から腹を擦る二人を眺めながら、そう問いかけた。
『ソロアはどう思う?
魔術協会で最年少の大導師だった視点では、二人はどんな感じ?』
顔を上向きにしてソロアの顔を覗き込みつつ、キラリが問いかける。
魔術師としては最高峰の地位に居たソロアならば、今の二人の実力を私情抜きで判断すると踏んでの問いかけであった。
ーーーしかして、
「そ、そうですね……。
奇譚のない意見を言わせていただければ……お、お二人とも、魔術学校を卒業した当時の私を、既に遥かに超えているかと……。
ま、まさしく、魔女になるために生まれてきた……そんな言葉がぴったりだと思います……」
「えへへ、やった!」
「ソロア姉様にそこまで言っていただけると、自信がつきます」
ライアもユティも、幼い頃から実の姉同様に慕っているソロアからそこまで賞賛してもらえるコトは、心からの自信に繋がったようである。
何せ、ソロアは魔女とはベクトルは異なるとは言え、この世界最高峰の魔術の使い手が集う魔術協会で数年の短い期間ながらもトップだった存在。
……嬉しくないはずがない。
「お、お二人は、このまま高等部に進学されるんですか?
それとも中等部で卒業して、それぞれの道を?」
「んー、エリザからは『卒業後はハルバード家付きの魔術師にしてあげてもいいのですわよ?』(チラッチラッ)って、誘われてるんだけど……」
「私もイータに『このままお母様みたいに冒険者になって、ウチのお抱えになっちゃおうよ!』って言われてるけど……」
『けど?』
二人とも、もう将来のビジョンは漠然とではあるが考えているコトは考えているようであった。
ただ、少し言い淀んでしまうのはーーー
「……まずは正式な魔女として認められて、"魔女見習い"を卒業しなきゃだと思う」
「だよな。
正式な魔女になりさえすれば、時間はたっぷりあるんだし……まずは目の前の目標に全力で取り組むべきだ。
……お母様も、それを望まれていると思う」
母ディケーはいつも優しく、時に少し厳しく、ライアとユティに鍛錬を施して来た。
それだけでなく、廃墟となった帝国領をさ迷っていた自分達を保護し、温かい食事と家を与え、更には学校にまで通わせてくれた恩義には、何としても報いたい。
ズ ズ ズ …… !!!
「私達、魔女になるね」
「私達は魔女にならなければいけないんだ」
ーーー娘達の決意は、あまりにも固い。




