第501話 私達の"本気の火遊び"
「レムリアちゃん、元気に育ってますね」
「そうね。
ま、最近はちょっと元気過ぎるくらいだけれど」
ーーーもうすぐ、お昼時という頃合いに。
私はナタリア様のお部屋で、今度開催されるヴィーナとブランディルを結ぶ鉄道路線開通の一周年式典についての打ち合わせを行っていた。
式典はヴィーナの御領主家が主催で、出資に協力した近隣の貴族やら資産家やらが協賛で開催される、かなり本格的なもの。
……なにせ、ブランディル自治領から統治者のシェリルも直々に参加するとあれば、下手なコトは出来ないってハナシですよ!
……ま、今はそれは置いといて。
「ナタリア様も、子供の頃はあんな感じの子だったんですか?」
「まさか。
……でも商家の娘として、それに恥じない教育は施されてたわよ。
ダンスとかの習い事もね……おかげで未だに体幹は安定しているわ」
「(出たー、ナタリア様のユースケ・サンタマリアの『剛はダンスやってるからな』ばりのダンス最強説!)」
……まあでも、確かにナタリア様はどんな時でも立ち姿が綺麗だし、レムリアちゃんを産んだ後の体型崩れなんかもなくて……実は結構、ダンスが本当に役立ってたりして?
けど、9年も一緒に居るとさ、思うのよね。
「(もうすぐ三十代になろうかって言うのに、未だに二十代前半に見えるのはさすがよねえ)」
……って。
私も同じ女として、見習わなきゃ……。
ま、私の"魔女の従者"化で歳を取るのが遅くなってるのもあるんでしょうけども。
いつまでも心も身体も若くいたいのは、人類共通の夢よねえ……。
閑話休題。
「そう言えば、お昼。
レムリアちゃんが一緒に食べたいって言ってましたよ」
「……あの子、よっぽどディケーが好きなのね」
「誰に似たんですかねえ」(ニヤニヤ)
「さあ、誰かしらね」(すっとぼけ)
ーーーあの娘にして、この母あり!
んもう、絶対ナタリア様の血がレムリアちゃんに遺伝してるじゃんね!?
早くもレムリアちゃんの将来が心配だわあ……馬車の中で女性相手に無理矢理キスしてくるような、ナタリア様の強引なトコロまで、遺伝してませんよーに!!
またも閑話休題。
「あの子、うちの家系としては珍しく魔術の才能があるみたいだし……問題がなければ、魔術学校に入学させるのもアリだと思うのよね」
「いい考えだと思いますよ。
うちの子達も魔術学校に入ってから、私が鍛錬していた時よりグンと伸びましたし……」
レムリアちゃんは今4歳だから、魔術学校に入学するとすれば6歳か……ライアとユティはそのまま高等部に進学するでしょうし、もしレムリアちゃんがキンドラー魔術学校に入れば、先輩後輩になるのねえ……なんか、そういうのイイわね!
ナタリア様とのママ友歴も長くなってきたわあ……。
『うふふ♪
私とのママ友歴も長いですわよね、ディケーさん♪』
うっ、ごめんなさい、マリー様……。
これは違うんです……。
ーーーなどと、心の中で幻聴のマリー様からのエアツッコミに対して、謝罪をするディケーさんなのでした……。
「うちのレムリアのコトはまあいいとして……ディケー、貴女の領地の運営は上手く行っているの?
最近、頻繁に現地に視察に行ってるようだけど」
「あ、はい、まあ、そこそこ……。
元々はハルバード家の領地ですし、私は名ばかりの領主も同然なので……基本的なコトはハルバード家から派遣された駐在の人達に任せていますけど」
「……ま、取り潰しになってないだけマシか」
「ひどっ!」
一応はヴィーナの御領主家の領地運営を参考にしてるつもりなんですけどねー!?
ナタリア様は私に辛辣な言葉を浴びせても意に介さず、スッとティーカップを手にして中身を飲み干すと。
「そもそも、冒険者の片手間に領地の運営をやる……なんて言うのが中途半端なの。
今はハルバード家の後ろ盾があるからいいけれど……いつまでも、あの女の傘下に居るつもり?」
「えっ、それはどういう……?」
「貴女は我がヴィーナ家付きの冒険者でもあるのだから……いっそ、下克上を起こして、ヴィーナ家の名の下、あの憎たらしいハルバード家を従えさせるくらいの気構えでないと」
「あ、却下で」
この人は……。
未だにマリー様に対抗心を燃やしてるんだから……やっぱり、マイ◯ロママの言ってた通り、「女の敵は女」なワケね……。
ナタリア様との同伴中、各種催し物でマリー様とバッタリ会うコトがたまにあるけど、その度に周囲が騒がない程度に静かに喧嘩売ってますからね、ナタリア様……(マリー様は一切、意に介してないけど)。
「ハルバード家には娘のライアのパトロンになってくださったコトや、私のプトシェトからの帰国、私の爵位と領地の授与に便宜を図ってくださった恩義がありますので。
ナタリア様が思いつきで考えたような、お芝居みたいな筋書きの裏切りは出来ません。以上!」
「ふん。
別に私もそこまで期待はしていないわよ。
ディケーの性格的にね?」
「(どーだかなー……)」
ナタリア様、商家の娘だけあって抜け目ないトコロがあるし……あわよくば、ハルバード家との本気の領地戦、つまりは決闘なんて事態にも発展しかねないのがね……現に、私がシェリルにちょっかい出されたと知った時は、ブランディルに宣戦布告する寸前まで行ったし……。
「みんな仲良く、それでいいじゃないですか。
ヴィーナもこの十年近くで随分と発展しましたし」
「……私達の関係も?」
「まあ、それは……」
カチャリとティーカップをソーサーに置いて。
上目遣いで、ナタリア様が私の顔をジッと見つめてくる。
うん、まあ、私だって旦那様の居る女性とこんな関係が続くなんて思ってなかったからね……。
「私達の"本気の火遊び"……私はまだ、終わらせるつもりはないから」
「……それは私も同じだから、ナタリア」
ーーーいつかは終わらせなきゃ、とも思うんだけども。
それでも、まだ、もうちょっとだけ。
ナタリア様との関係を続けたい……そう思いながら、見つめ返すディケーさんなのでした。




