第493話 切なく胸を刺す それは夢の欠片
「ナタリア様、酔い過ぎですって……。
私が目を離してる間に、どんだけ飲んだんですか?」
「……よってない」
「私に肩支えられてないと歩けない時点で、相当酔ってますよ……」
「よって、ないもん……」
ーーーアーメリア公国の大公家主催の爵位授与式は滞りなく進行し、無事に閉幕を迎えた。
その後の晩餐会では邪教団絡みの情報収集を兼ねて挨拶周りをしつつ、大公家のお城ならではの美味しい料理をつまんでいたんだけど……ナタリア様ってば、マリー様と張り合って、ちょっとお酒を飲みすぎたみたいで……。
お城を出た後は予約していたホテルに戻ったものの、完全に千鳥足!
私が肩を貸してあげないといけない程、呂律は回らないわ、酩酊してるわで……んもう!!
『ねえ、ディケーさん。
私、酔いが回ってしまったみたいですの……少し休みたいので、休憩室に案内してくださらない?』
『あ、ハイ。
そういう事でしたら……』
『バカディケー、古い手に引っ掛かってるんじゃないわよ!
この女はね、"ハルバードのうわばみ"って通り名があるくらいの酒豪なの。
……ワイン何杯か飲んだくらいで酔うワケないでしょうが!!』
『えっ、そ、そうなのですか!?』
『あはっ、バレちゃってましたわね♪』
ーーーなんてコトが、タイレーン王家のリン公主様をお招きしての宝珠の返還式の時にあったなあ。
ナタリア様、マリー様がお酒にメッチャ強いの知ってるクセに、ムキになって深酒しちゃうんだから……。
「ほら、ナタリア様。
部屋につきましたよ」
「……ん、あなたがあけなさい。
……ほら、カード」
「はいはい」
ナタリア様に手渡されたカードキーをドアにかざすと。
施錠の術式が発動し、ロックが解除される。この辺はさすが、魔術で発展した国よね……私の元居た世界のホテルの電子ロックと、もう大差ない感じ。
「お水持ってきますから、寝ててくださいね」
「ん……」
ナタリア様をベッドに寝かせて、私は部屋に備え付けのウォーターサーバーから、お水をコップに注ぐ。
授与式に参加したVIP専用のホテルだけあって、部屋にはウォーターサーバーの他にも、首都トワシンの夜景を一望できる眺めのいいベランダやら、おっきなダブルベッドやらがあって、メッチャリッチ!
……酔いつぶれたナタリア様の介抱をしなきゃいけないのがアレだけども。
状況が状況じゃなければ、夜の町に繰り出すって選択肢もあったわねえ……(ディケーさんもオトナの女ですので!)。
……まあでも、
「(レムリアちゃんの育児もひと段落ついた頃合いだし……ナタリア様も久々にリフレッシュしたかったのかな……)」
見た目が対して変わってないから忘れがちだけど……ナタリア様と出会って今年で、もう七年経つのか。
出会った当初から気難しい性格で、すぐ怒るし、嫉妬するし、私を束縛するし、隙あらばキスマーク付けて来るし……今も昔もわがままナタリアだったけど……レムリアちゃんを産んだ後は母性に目覚めたというか、昔程性格もキツくはないし……何やかんやで包容力っぽいモノも感じる時があるのよねえ……。
閑話休題。
「ナタリア様。
ほら、お水ですよ。起きれます?」
「……」
ベッドからゆっくりとナタリア様の上半身を起こして、私がお水の入ったコップを差し出すと。
ナタリア様はまだ酔いが醒めておらず、私が手にしたコップを見つめて、目を何度も瞬かせると、
「ナタリア様?」
「……ディケーがのませて。くちうつしで」
「えっ」
……ここぞとばかりに、ムチャぶりを言ってくるのだった。
ああ、そう言えばこの人、護衛のワインマナーとか言って、口移しで私にワイン飲ませるの好きだったもんねえ……。
確か、闇オークションへの潜入任務の時も……
『さ、次はワインの飲み方の練習よ。
会場で出されないとも限らないし』
『……この前みたいに、またナタリア様から口移しでワイン飲まされたりするんです?
……あいたっ!?』
『する訳ないでしょ。
あれは護衛のワインマナー、これは貴婦人のワインマナーなんだから』
『(何が何やら……護衛のワインマナーって何ぞや……)』
……って、感じでね。
私がケイコに変装した時の貴婦人修行の時も、結局最後は酔いが回って私をベッドに押し倒して来たし……変わんないなあ。
……えーい、しゃーない。
今夜は私も爵位と領地を授与されて気分がいいし……。
「(何より、ナタリア様と二人きりになるのも久しぶりだし……)」
……少しばかり、特別な夜にしたい、かも。
「……ナタリア、誘ってる?」
「べつに……。
ただ、やといぬしとして、ごえいにめいれいしているだけよ?」
「……」
……ま、そういうコトにしといてあげましょう。
何より、ナタリア様の酔いを覚ますのが先決だし?
私は徐に、コップの水を少量口に含むと。
「ディケー……んっ、あむっ……」
「(飲みなさい、ナタリア……)」
ナタリア様に口付けし、お望み通り、口移しでお水を飲ませてあげた。
細い首筋を指先でなぞると、コクッコクッと喉が鳴って、私の口を通してナタリア様が水を飲み干してゆくのが感じられた。
「……ぷはぁ。
……ディケー、もっとのみたい」
「仕方ないわね、ナタリアは……。
あむっ、ちゅっ……」
ーーーナタリア様に水を飲ませ終えた後。
私達は互いにしっかりと指を絡ませ合いながら、同じように舌を絡ませ合い、そのままベッドに倒れ込んだ。
「んっ……んんっ……。
すき、ディケー……すきぃ……。
しゃくいをもらったあとも、ずっといっしょにいて……」
「何処にも行かないってば。
……ナタリアを置いて、私は何処にも行かないから」
……私達の"本気の火遊び"も、ついにアーメリア公国一のホテルで"おっ始める"までになったかあ。
ーーーさて、
「(ごめんね、子供には見せられないシーンがこのあと始まるんで!!)」




