第492話 貴女は私の越境騎士、遠慮は要りません
「(ほう、これはなかなか……)」
「(冒険者だけあって体幹がしっかりしていますし、ステップに淀みもないですわね……)」
「(何より、幼い頃からダンスの名手と名高い公女殿下のステップによくついていけておる……やるな、スターレイム卿……)」
ーーー公女殿下からのダンスのお誘いを受けた私は、頭の中で必死にナタリア様やマリー様から受けたダンスのレッスンを思い出しながら、無我夢中でステップを踏んでいた。
周囲の人達の視線やヒソヒソ声も耳に入らず……私は楽団の奏でる音楽に身を任せ、ひたすらに公女殿下ーーーメアリ様との一生に一度あるかないかの時間を楽しんでいた。
「(事前にナタリア様から久々にダンスのレッスン受けといて、マジで良かったー!)」
晩餐会でのダンスタイムで、公女様からお誘いがあるかも……って、ナタリア様が言ってたのがドンピシャ! マジ感謝!!
「スターレイム卿、ダンスがお上手なのですね。
私も安心して身を任せて、ステップを踏めます」
「み、身に余る光栄です……公女殿下」
……失敗する度、ナタリア様に扇子で頭やお尻を叩かれてた、あの頃のスパルタレッスンがメッチャ活きてる!
まあそもそも、コトの発端は星妖精のキラリちゃんを始めとした希少な生き物を売り捌こうとしていた闇オークションに「田舎貴族の娘のケイコ」に変装して潜入した時の貴婦人修行なんですがね……今になって再び、あの地獄のダンスレッスンが役に立つとは……いやはや。
「うふふ。
久々に楽しい時間でした、スターレイム卿」
「こ、公女殿下も、結構なお手前でした……」
ややあって。
ダンスタイムも無事に終わり。
公女殿下ーーーメアリ様からの労いのお言葉をいただけた私は一礼をして、ひと息ついた。
ああ、お水が美味しい……。
「(ふう、高貴な方とのダンスはナタリア様やマリー様と経験済みだけど……)」
よもや、大公家の公女様と踊るコトになろうとは……スゴいね、人体。……もとい、異世界。
私の元居た世界だって、皇族の方々と踊る機会なんて一般人じゃ無理だもの。
とーーー私と同じく、水の入ったグラスを一口飲んで喉を潤した公女殿下が、にこやかに歩み寄って来て、
「スターレイム卿はヴィーナを拠点に冒険者として活動をされていましたね。
ヴィーナの領主夫人はお若い頃からダンスがお上手だとか……もしや、領主夫人からダンスの手ほどきを?」
「は、はい、まさしく……」
うお、さすが公女殿下……私がナタリア様からダンスのレッスンを受けてたコトも簡単に見抜かれちゃった……。
「そうなのですね。
でも、うーん……。
何処となく、ターンの仕草に見覚えがありました。
あれは以前、ハルバード公爵夫人と一曲踊った時に見たような……」
「それは……はい。
ハルバード公爵夫人からも以前、ダンスの手ほどきを受けたコトがあり……その際にアドバイスをいただいた時のクセが、無意識に出てしまっていたのかと……」
「まあ、そうなのですね!
……ハルバード公爵夫人が直々にダンスを手ほどきされるなんて。
よほど気に入られているのですね、スターレイム卿は♪」
ーーーなんとまあ、マリー様からもダンスのレッスンを受けたコトまで見抜かれるなんて。
公女殿下、すっごいわね……幼い頃から英才教育を仕込まれてるって感じするわあ……。
「(まあでも……可愛い女の子と踊れるのは役得よね!)」
メアリ様、異世界のお姫様だけあって顔立ちも端正だし、物腰も軟らかいし……小顔だし、お目々ぱっちりで……手を取った瞬間、こっちがドキドキしちゃったもんねえ……これは絶対、結婚相手に不自由しませんわ……。
「お付き合いくださりありがとうございました、スターレイム卿。
晩餐会、心ゆくまで楽しんでいかれてください」
「はい、公女殿下。
お心遣い、ありがたく存じます」
「またいつでも、城を訪ねていらしてね。
貴女は私の越境騎士、遠慮は要りません」
「は、はい……」
……そう言って公女殿下は私に手を振って、お付きの方々と一緒に席に戻って行った。
ーーー邪神の召喚を目論む邪教団の明確な情報は掴めなかったけど……でも、こうしてメアリ様とも仲良くなれたし、結果的には良かったのかもしれない。
いざ邪神の軍勢との戦いが始まれば、公国軍とも連携して戦うコトになるでしょうし……公女殿下が味方してくだされば、心強いものね。
「(公女殿下の越境騎士……悪くないわね!)」
家庭教師より強そうだし。
と、ここで緊張の糸が切れたのか、
「(あ、ヤバ……お腹が空いて来ちゃった……)」
ーーーディケーさん、お腹が鳴りそうな感じなので……ちょっと失礼してバイキングコーナーに行って来ますね、ええ。
さっきからメッチャ良い匂いしてるし……大公家のお城の専属料理人が作ったバイキングを食べられる機会なんて、もう一生ない気がするし……美味しくいただいておきましょう!
「(キラリちゃんやソロアちゃんが絶対羨ましがるわね!)」
……よし、こっそり"魔女の工房"に料理をいくつか入れて、キラリちゃん達へのおみやげとして持って帰っちゃいましょう!
「(フードロスも防げるし、それくらいはいいよね!!)」
工房の中の異空間に入れておけば、腐ったりもしないし。
私はルンルン気分でバイキングコーナーへと赴くと、欲張り過ぎない程度にお皿に料理を乗せていった。
……割と他の皆さんも思い思いに料理をお皿に乗せて食べてるし、せっかくの授与式のおめでたい日……今夜は無礼講よね!
飲んで食べて、楽しい日にしなくちゃ。
「(そう言えば、ナタリア様はマリー様とまだ飲んでるのかしら……?)」
もぐもぐと美味しい料理を頬張りながら。
二人が仲良くやれてればいいんだけど……と、独り思うディケーさんなのでした……。




