第49話 ふたりのWonder tale
「みて、ユティ。めっちゃきれー」
「オー。ビューティホー」
一方その頃。
母ディケーとは朝食後に一旦別れ、エルフの氏族の王城内を探検中の"魔女見習い"、ライアとユティの2人の少女達は。
ディケーに縫ってもらったお気に入りの猫耳フード付きの黒いローブを着て、城の内部をあちこちトコトコと2人連れ立って歩き回るうち、祭壇のような場所に辿り着き、そこに奉納された見事な剣に見入っていた。
「すごーい、キラキラひかってる!」
「イイシゴト、シテマスネェ」
それは刀身が左右に置かれたロウソクの灯りで束の辺りから剣先までが虹色に煌めく見事な剣で、武器の類いにはとんと無頓着なライア達でも、これが見事な業物である事は、素人目でも明らかであった。
さすがエルフの国、素晴らしい宝物を所蔵していると子供ながらに2人が感心していると、
「おお、魔女のお嬢様方。
この剣の素晴らしさに気づかれるとは御目が高い」
司祭服を纏った年配のエルフの男性が、2人の元へとにこやかに歩み寄って来る。
この王城内の祭事を執り行う神官なのだろう。
美男美女が多い種族のエルフだけに、彼もまたナイスミドルなイケオジ司祭エルフだった。
「こちらの剣は、どういった由来の物なのですか?」
「是非、お聞かせ願えますか」
即座によそ行きモードに切り替えたライアとユティが恭しくエルフの司祭に尋ねると、応えて曰く。
「ええ、よいですとも。
こちらは300年前の深淵戦争の折、我らエルフの住まうこの地に攻め込んだ異界の魔物を率いる大将の一人、炎魔将アグバログにトドメを刺した際に使用された剣となります」
「これで異界の魔将にトドメを?」
「はい。まだお若い頃の現氏族長様が、この剣でアグバログの喉笛を貫いたのです。
それがトドメとなり、アグバログは喉元から吹き出る大量の血と炎を手で押さえながら、断末魔の叫びと共に森の向こうの深い谷底へと落ちて行きました」
「「なるほど」」
以前、2人が夜寝る前に母ディケーに読んでもらった昔話の本には、英雄が竜を倒す時に用いた剣を竜殺しという名称で後に呼称するようになった、というオチが最後にあったが……それを引用すれば、アグバログにトドメを刺した彼の剣は、まさしく"炎魔将殺し"とでも呼ぶべきだろうか。
いや、確かにそう呼ぶに相応しい風格と美しさを兼ね備えた剣には違いない。
母との鍛練の日々で魔力感知の能力を磨いた2人の目には、奉納された剣から立ち上る神秘的な力強い魔力が、確かに視えていた。
「我らエルフの先祖は元々、この大陸とは別の大陸の出身でしてな。
遥か東の地から長い時間をかけ、船に乗ってこの地へ辿り着いたと記録にはあります。
銘は特にありませんが、この剣も東より訪れた我らの先祖が船に積んでいた宝物の1つなのです」
「由緒正しい物なのですね」
「戦で用いた後も刀身に錆びが一切なく、輝きも失われておらず、素晴らしい逸品かと」
ライアとユティが剣の由来を知って感心していると、
「何でも、東の一部の地域でしか産出されなかった特殊な鉱物を用いて鍛えた物だとか。
緋緋色金と呼ばれる金属です」
「ヒヒイロカネ……?」
「初めて聞く鉱物の名です。
我ら魔女も錬金や合成にルーンメタルや隕鉄、ダマスカス鋼などを用いますが、それは初めて耳にしました」
「はは、まあそうでしょうな。
産出地域が限られている上、記録ももう口伝しか残っておりませぬもので」
初めて聞く名称の鉱物に、小首を傾げる"魔女見習い"の2人。
だが俄然興味が沸いたらしく、エルフの司祭の説明に目を輝かせて聞き入っていた。
「緋緋色金を用いた武具は永久不変の輝きを放ち、決して錆びる事はないと伝わっております。
……ですが、古王国時代の代物です故、先祖達がどのようにこの剣を鍛えたのかなどは記録も幾度かの戦火で失われており、緋緋色金を用いて鍛えた武具も今となっては、これのみしか残っておらず……。
アグバログとの戦いに用いられて以降は、辛くも勝利したとは言え、深淵戦争で犠牲になった多くの同胞を忘れぬよう、こうして祭壇に奉納してあるのです」
「なるほど。そういう事だったのですね」
「大変勉強になりました」
子供だからと馬鹿にする事もなく、最後まで真摯に剣の由来について説明をしてくれたエルフの司祭に対し、ペコリと一礼するライアとユティ。
「いやいや。
未来の魔女様方の一助になれたのでしたら、私としても鼻が高いというものです。
300年前にこの地を訪れた魔女テミス様とは、実は一度もお話しする機会が無かったものでしてな……お嬢様方が私がお話させて頂いた、最初の魔女様なのですよ。はは」
意外とミーハーなエルフの司祭であった。
ーーーそんな和やかな雰囲気に包まれていた祭壇の間に。
「ああ、ライア様とユティ様。
祭壇の間に居らしたのですね。
昼食の準備が整いましたので、私と一緒に参りましょう」
司祭の話に聞き入っている内、いつの間にか時間は昼前となっており、ライア達の魔力を感知したメイドのサラが、ここまで探しに来てくれたのだった。
「お母様のディケー様より、お2人はお肉が大好きと伺っておりますので。
お昼は鹿肉を使ったお料理を御用意しております」
「しかにく!」
「ぬんっ」
鹿肉。その甘美な響きに。
炎魔将殺しの説明に聞き入っていた時とは別の意味で、目を輝かせたライアとユティだった。




