第47話 がんばるとき つらいとき 夢が紡ぐ お話が好き
「ディケー様」
「あ、サラさん」
今夜はエルフの住まう王城にお泊まりとなった。
アグバログの呪いが悪化したエレナお嬢様の解呪は明日以降になりそうね。
ライアとユティの2人は朝が早かったのと、鷲獅子のシフォンちゃんの背中ではしゃいで疲れてしまったのか、もうベッドでグッスリと寝入っている。
それでも300年ぶりに魔女が南の樹海地域を訪れたって事で、エルフの人達から歓迎されちゃって、木の実で作ったお菓子やら木彫りのアクセサリーやら、2人とも貰ってたなあ……。
魔女の瞳がオフの状態でも、魅了に耐性のあるはずのエルフすら素の状態で魅了する……我が娘達ながら、末恐ろしいわね!
そりゃ悪役で非プレイアブルキャラながらグッズたくさん発売される訳ですよ。
来年から魔術学校に通わせちゃって、本当に大丈夫かしら……?
「少し、お話をよろしいでしょうか」
「勿論。私もサラさんに会いに行こうとしてたのよ」
で、寝る前にメイドのサラさんと少し話でもしようと部屋を出たタイミングで、件のサラさんとバッタリしたって訳なのね。
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「いい所よね、エルフの国。
うちの山の中とは違った趣があって。
鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた森の中のお城、素敵だわ! 童話の中の世界みたい」
「私にとっては見慣れた光景ですが、外界から来られた方はそういう風に感じ取られるのですね。
深淵戦争以来、客人はあまり来ないので今日はなんだか皆、浮き足だっているようでした」
「ライアとユティは大人気だったもんねえ……」
夜の森が見渡せるバルコニーに移動して、サラさんと少しお喋りをする。
相変わらずサラさんは立ち姿がスラッとしていて、凛とした佇まいで、まさにメイドの鑑って感じね!
「(いい環境で育ったのね、サラさん)」
樹高のせいで星は見えにくいけど、それでも木々のおかげか空気は澄んでるわね。
マイナスイオンたっぷり!
南の地域だから結構暑いのかとも思ってたけど、日本みたいに高温多湿の気候って訳でもないみたいだから、夜も涼しくて助かったわ。
「(でも、さっき一瞬だけ匂った瘴気はなんだったかしら……?)」
これは後で要確認かもしれない。
私の鼻が確かなら……森のずっと奥の方から漂って来ていたような気がする。
「ディケー様。
まずは御連絡が遅れました事をお詫びいたします。
こちらに帰郷後、すぐ氏族長様御夫妻にエレナお嬢様の解呪についてお話をしたのですが……」
「やっぱり、反対された訳ね?」
「……はい。
取り分け、奥方様が『これ以上あの子に呪いをかけるなんてとんでもない』と頑なに反対なされまして……」
「いや、母親だったら当然の反応だと思うわ。
私も同じ立場だったら、すぐには返事出来ないと思うし」
お腹痛めて産んだ待望の一人娘なら尚の事でしょうしね。
生憎、私は元カレとこじれて30手前にして未婚のまま、こっちの世界に転生しちゃったんで出産経験が無いんでアレなんだけど……それでも、2人の娘を育ててるし、気持ちは分かりますよ、ハイ。
「……ディケー様は以前、こう仰られていましたね。
『大切な人との時間は、いつか絶対に終わる』と」
「あー……そう言えば」
サラさんが宿無しだったから、うちに泊めてあげた時ね。
……もう随分と前の事みたいに感じる。
『大切な人との時間は、いつか絶対に終わるわ。
楽しい時間が、あっと言う間に終わるように。
始まりには、必ず終わりが来るのよ』
……まあ、これはサラさんに向けてって言うよりは、私自身に向けての言葉でもあったんだけれども。
「……お嬢様の呪いが悪化した日、私は急に恐ろしくなりました。
これまでずっと変わらなかった日常が綻び始めたような、胸を締め付けられるような恐怖感……それまでは、例え呪われたままでもお嬢様はお嬢様、これまで通り、お仕えすればよいと思っていたはずなのに……160年間そうして来たはずなのに……」
サラさんは夜の森を見つめながら、目に涙を溜めて、力無く呟く。
「(エルフの氏族長様もだいぶお疲れだったけど、サラさんも結構参ってるわね……)」
意気消沈って言うか、初めて会った時の元気が無い感じ。
お嬢様の呪いを解くために単身国境を越えてヴィーナまで来たり、すごく気丈な女性だと思ってたけど……今は辛さに耐えきれなくなってしまっているみたい。
160年ずーっとお仕えしていた大事なお嬢様の命が危ないかもって事態だしね……無理ないよ。
「……奥方様の反対を押し切ってでも、私がもっと早くディケー様に連絡をしていれば、こんな事にはならなかったかもしれない……そう思うと……っ!」
「あー、えっとね!
私もちょっと、この1ヶ月くらいの間に色々ありまして!
それなりの強敵と戦ったりして骨折したり、なんやかんやあって!!
ほら、右の方の髪とかちょっと白くなっちゃたりもしてさ!」
慰めにはならないと思うけど、私もここのところは巨猿王との戦いで重症を負っちゃってたんで、呼ばれても万全な状態でアグバログの呪いとはたして対峙出来たかどうか、ちょっと怪しいからね……でも、死の淵から復活したおかげか、魔力の総量もグンと上がったし、呪いの扱いも1ヶ月前より上手くなったし……勝機があると思ってる。
「……お嬢様の呪いが悪化したのは、サラさんのせいじゃないよ」
「ですが……っ!」
うっ!? サラさん、また泣いてる……!
私、この人のコト泣かせてばっかですやんか!!
初めて会った日も脅かして泣かせちゃったし……。
……よし! 腹括るか!!
泣き止んでもらうために、アレをやるしか!
「サラ」
「っ!?」
サラ、と私が呼び捨てにすると。
それまで涙を浮かべていたサラさんの身体が、ビクッと強張った。
初めて会った時、悪役ムーヴかまして悪い魔女のフリしたんだけど、その時呼び捨てにしたら、何かサラさん大人しくなったんで……今回もいけるかなー、って……。
「サラの気持ちは分かるわ」
「ディ、ディケー様……?」
「サラはこれまで、お嬢様のために。
ずっと頑張って来たから……だから辛いのよね」
「あ……」
……こんな時間帯だし、子供達も寝ちゃってるし、まあ誰も見てないよね、ってコトで。
泣きじゃくるサラさんの瞳を捉えたまま、私はそっと近づくと。
サラさんの震える小さな両肩を手で手繰り寄せ、包み込むように、優しく抱き締めてあげた。
……性感帯の耳に触るとまた怒られそうだったので、触れないように今度はちゃんと気を付けた!
「泣きたい時は泣いていいの。
じゃないと、今度はサラが壊れてしまうわ」
「でも……わ、私は……!
お、お嬢様に、氏族の方々に、お仕えする、メイドとして……!」
「サラ」
悩みを打ち明けるのも、打ち明ける過程で涙を流すのも、恥ずかしい事だとは私は思わない。涙を流さないのはカッコいいとか、人前で泣くのは弱い人間だとか、それは違うと思う。そう思いたい人は、勝手に思っていなさいよ、ってハナシね。
エルフのメイドさんだって、220年も生きてれば色々と辛い時があるでしょう。
……そんな時くらい、私は泣いていいと思う。
「本当に辛い時は、誰かを頼ったっていいの。
サラが辛い時、私を頼ってくれて本当に嬉しかった。
……だから今、私はサラの前に居るのよ」
「ディケー様……っ!」
私のエルフの王城での一日目の夜は。
これまで溜め込んでいたモノを吐き出すように、私の腰に強く両腕を回して抱き締め返しながら。
夜の樹海を背にして嗚咽を漏らす、エルフのメイドさんを慰めながら、こうして更けていったーーー。




