第403話 一番近くでいつも見てるから
「はー……。
ソフィー姉様も誰かに甘えたくなる時とか、あるのねえ……」
港町ブロケナでのソフィー姉様との観光デートを終え、帰路に着いた私は。
キラリちゃんと一緒に夕食を終え、洗い物も済ませ、テーブルに突っ伏しながら、ひとりボヤいていた。
「そうよね、大魔女の代理として皆をまとめる立場なんだし……姉様なりに重圧くらい感じてたわよね」
まあ何せ、私っていう超問題児が妹弟子に居るワケだし?
もう一人の妹弟子のミア姉様は、この六年間行方知れずだし?
……そりゃ他の魔女達からも「アンタのところの妹弟子達どうなってんの?」って無言の圧を掛けられるのもしゃーなし、って言うかあ。
「(私も時々、マリー様に『ママぁ……』って甘えたくなる時、あるもんねえ……)」
既にアラフォーに片足を突っ込みつつある私ですら、本来年下のマリー様相手にああなっちゃうワケだし……やっぱり、人は独りでは生きられないのねえ……。
『どしたん、ディケー?
なんか難しい顔して』
「キラリちゃん。
うん、まあ。
私にも色々あるのよ……」
窓から星明かりを浴びていたキラリちゃんが、背中の羽を羽ばたかせて、ふわりと私の肩に降り立った。
……こうして見ると、キラリちゃんとの付き合いも長くなって来たわねえ。
『ぐへへ。
元気出せや、ネーチャン。
うりうり』
「あはは。ありがと」
私を元気づけるように。
キラリちゃんはぷにぷにの頬っぺで私に頬擦りし、寄り添ってくれる。
いやあ、持つべきものは理解ある使い魔よねえ……こうして私が悩んでると、いつも元気をくれるんだから。
子供達が魔術学校に入学したら寂しくなると思ってたけど……キラリちゃんが居てくれるから、ちっとも寂しくないわ。
今はソロアちゃんも週末になると泊まりに来てくれるしね……。
「悩んでる場合じゃなかったわね。
もうすぐダンジョン攻略のお仕事もあるんだし」
『結構ヤバめのダンジョンなんでしょ?
ネリや他の冒険者も一緒とは言え……ディケー、大丈夫?』
「大丈夫よ、キラリちゃん。
怖さ半分、未知の領域へのワクワクも半分、ってトコロだから」
『おおう……。
ディケーもすっかり冒険者らしくなったねえ』
「これでも冒険者歴六年目だからねー」
……既にヴィーナの冒険者ギルド内でも、お局様のポジションになりつつあるのがアレですが!
私やネリちゃん以外にももちろん女性の冒険者は多数ギルドに所属してるんだけども……大抵はみんな怪我が原因で引退したり、あるいは良い人を見つけて結婚、引退したりして、気がついたら私とネリちゃんがギルド内の女性冒険者カーストの上位に、いつの間にか居たと言いますかあ……。
「(いや、六年も働いてるんだから、それなりの妥当なポジションまで上り詰めた……そういうコトよね!)」
順調に出世してると前向きに考えましょう!
異世界と言っても働いてお金を稼がなきゃ生きていけないワケだしね……「小説家になっちゃおう」の異世界転生モノの小説にありがちな、チートとか現代知識を使って大儲け……みたいな生き方は、私の主義に反するし。
やっぱり汗水垂らして働いて得たお給料にこそ価値があるってもんでしょうよ……まあ、汗のみならず、血もだいぶ流しましたが! ……何度死にかけたか分からん!!
『頑張れ、ディケー。
私はディケーが頑張ってるの、一番近くでいつも見てるから』
「ありがとね、キラリちゃん」
『こればっかりは、ナタリアやサラやソロアにも負けない自信があるぜえ~♪』
「ふふ、そうね」
キラリちゃんはクルクルと宙を舞い、ニカッとポーズを決めてみせた。
……いつも私を傍で見守ってくれているキラリちゃん。
ーーーいつまでも一緒には居られないけれど……それでも、一緒に居られる今こそが、かけがえのないものだと、そう私には思えた。




