第31話 巨猿王の遺産
「ディケー。怪我はもういいのか」
「ええ。おかげさまでだいぶ治ったわ」
「まだ無理すんなよ」
「ありがとう」
「それ治ったら、ウチらとパーティ組みません?
ディケーの姐さんの巨猿王へのワンパン、マジハンパなかったっす!」
「あはは……報酬が良さそうなら考えとくね」
「ディケー殿、どうだろうか。
いつか万全な状態で、私と是非とも手合わせを」
「い、いつかね」
うーん、今やすっかり"時の人"ね、私!
ライアとユティにお世話されながらの自宅での療養生活もそこそこにして、数日ぶりにヴィーナの町の冒険者ギルドを訪れてみると、早速顔見知りの冒険者達から次々と話し掛けられてしまった。
「(さすがに昼下がりだから、任務報告や報酬を受け取りに来る人が多い時間帯ね……)」
しかしまあ、特A級の有害召喚獣を駆除するのって、それくらいすごい事だったのね……ちなみに私が初めて駆除した巨猪がC級くらいらしい。……他にどんなのがいるのやら。
「(まだ見ぬ強敵達、ってトコロね!)」
レジェグラのゲーム本編だと主人公は冒険者ギルドには所属してなかったからなー。
「ディケーさん!
もう動かれて大丈夫なんですか?」
「右腕のギプスはまだなんだけど、左目のガーゼはもう取ってもいいかな、って感じなのよ」
「あ、そうなんですか。
順調に回復されてるようで何よりです」
初めて会った時は塩対応だった受付嬢のベルちゃんも、最近は私に懐いてくれたようで、積極的に話し掛けてくれるようになった。
やっぱ何処の業界にも言える事だけど、信頼と実績って大事よね! 特に冒険者ギルドみたいなトコロは、結果出さないと駄目だし。
「それで、今日は何の御用で?
あ、もしかして……」
「巨猿王のアレを回収にね」
****
私が倒した巨猿王は、ヴィーナの冒険者ギルドによって回収され、そのまま骸は解体された。
特A級の有害召喚獣ともなると、毛皮やら臓器は武器や防具の"合成"に際して、最上級の素材になる。
撃破時に一番貢献度の高かった者が多くの取り分を得られるんだけど、私がヘルプに入った巨猿王の第一発見者でもある冒険者の3人は「自分達は助けられただけだから」と辞退し、発見者報酬(「歩く厄災」と呼ばれる特A級有害召喚獣ともなると発見してギルドに通報しただけでそこそこの報酬が出る)だけでいいと言うので、私が丸々貰う事になった、って訳なのね。
「(ライアとユティの魔術学校への入学金と学費のために、ありがたく使わせていただきます)」
毛皮やら臓器もそのままギルドに買い取って貰って、報酬分に回して貰った。
では、ギルドの大保管庫に今日は何を回収しに来たかと言うと……。
「巨猿王の使っていた棍棒……。
改めて見ると、すごい大きさですね。
まるで巨人の武器みたい」
「あれで何度もブン殴られた時は死ぬかと思ったわー。割とマジで」
「あはは……」
ベルちゃんも思わず苦笑いする。
そう、私が回収に来たのは、巨猿王が得物として使っていた棍棒!
戦ってる最中は無我夢中で気づかなかったんだけど、これってかなりの代物だと思うのよ!! 棍棒自体からもビビッと来る感じの波長の良い魔力を感じるって言うのかしら?
「巨猿王は、最初は公国領の北の方で目撃されていたのよね?」
「はい。武器を使う異常進化種ではないかとの報告がそちらの方面の各ギルドにチラホラとあがり始め、要警戒と公国全土の冒険者ギルドに通達が広まったのが一ヶ月と少し前ですね」
『あら。北の大森林の樹木の方が魔力伝導が良いと思うのだけど』
魔女の夜の時、魔女の先輩の1人が言っていた、北の大森林で手に入れた樹木を加工して作った物だとしたら、たいしたお宝ね!
ライアとユティが今後の鍛練に使う杖の材料にしてもいいし、これだけ良質な魔力を秘めた物なら、他の魔術関連職に就いてる人達も武器の素材として絶対欲しがるはず!
そもそも北の大森林はかなり遠いし、強い魔物も結構棲息してる地域らしいから、木材だけ取りに行くにしてもかなりリスクが高そうで、うーんどうしよっかなー、ってずっと思ってたトコロだから助かるー!
「じゃ貰ってくわね」
「はい。受け取り、確認いたしました」
ベルちゃんの前で魔女の工房を見せちゃうと色々と面倒な事になりそうだったので、ここはギルドから支給された回収袋で吸い込んで、と……よし、バッチリ!
「(これを元手に、ちょっとしたお小遣い稼ぎが出来そうね!)」
ライアとユティにも今回はだいぶ心配かけちゃったし、後で何か買って帰ってあげようかな……。
「あの、ディケーさん」
ーーーと。
死闘の末に撃破した巨猿王の棍棒を回収して、さあ何に使おうかしらと私がウッキウキになっていると。
「私、今日はこれで上がりなんです。
よかったら、その。
……一緒にお食事、しませんか!」
受付嬢のベルちゃんが、仄かに顔を上気させて。
お腹の前で組んだ手をもじもじさせながら、そう私に呟くのが聞こえた。