第30話 おうちが一番
「た、ただいまー……」
「かーさま! おかえ……り……?」
「……マム!? ワッツハプン!?」
案の定。
ややあって、少し遅めの帰宅になってしまった。
私が巨猿王を倒した少し後、死闘の現場となった西の荒野に救援隊がようやく到着。
そのまま道すがら医療班から治療を受けながら、私はヴィーナの冒険者ギルドに緊急搬送された。
「あはは……。
ちょっと、怪我しちゃったのよ……」
本当はちょっとどころじゃないけどね!
全治3ヶ月くらいのところを治癒魔術のおかげで何とか全治2週間くらいまで回復して貰ってはいるんだけど……(ネリちゃん達が事前に回復薬をジャバジャバかけておいてくれたのも結構助かった)。
それでも左目にはガーゼ、折れた右腕にはギプスと包帯と、家を出る前とは様変わりした私の姿に、ライアとユティは声を失って絶句していた。
「か、かーさま……!?
けがしたって、なに!? ど、どーして!?」
「……お母様。誰に、やられたの」
ズ ズ ズ …… !!!
うっ……!
こ、これはマズイわ……!!
ライアの方は年相応の困惑の仕方してるけど、ユティの方はいつものキャラ作り止めて今にもキレそうになってる!!
魔力の制御が効かなくなって、家を破壊しかねない!!!
「ふ、2人とも落ち着いて! ね!?
魔物と戦って怪我したのよ!
でも、もうその魔物は母様が倒したから!
治療の魔術もかけて貰ったし、大丈夫だから!
……ライアが泣いたり、ユティが怒ったりする事はないの! ねっ!?」
こんな小さな娘達を心配させるようじゃ、母親失格ですやんか私!
慌てて私はライアとユティの目線になるように床に膝を着いて、2人の心配を払拭するように明るく振る舞ってみせる。
……いてて。
まだちょっと無理すると肋の辺りが痛いわね……。
「ほ、ほんと……?」
「本当よ。母様は嘘吐かないわ」
「……仕返しの必要は、ない?」
「もう母様がやっつけたもの。
そんな事しなくていいのよ」
ーーーライアとユティは、私がこの家に戻って来ない事を、一番恐れている。
母親である私を失い、元の孤児だった頃の自分達に戻ってしまう事を心底恐れているのを、私は識っている。
「(もし私が死んでしまったら、この子達は路頭に迷ってしまう……!)」
他の魔女が"魔女見習い"の鍛練を引き継いでくれるかもしれないけど、私達の家族の関係は終わってしまう。
あの子達が無事に"魔女見習い"から正式な魔女になって、18歳を向かえるのを見届けなければ、私がレジェグラの世界にやって来た意味がない!
ーーーそれは、私の望むライアとユティの未来ではないから。
「(私は死ねない……私の命は、この子達のためにある……!)」
勿論、同僚の冒険者の3人を助けるために巨猿王と戦った事に後悔はない。アイツはあそこで確実に倒しておかないといけなかった。
純粋に破壊と蹂躙を楽しむ、生きた厄災の如き存在!
放置していたら、確実に被害は拡大していたはず。
こんな怪我を負って、ライア達を悲しませる結果になってしまったけど……。
「ライアもユティもごめんね。
今度から、帰りが遅くなりそうだったら必ず連絡するから。
……お腹空いたよね!
今日はね、ピザ買って来たから3人で食べましょう!」
ヴィーナの町は20世紀初頭のアメリカみたいな雰囲気だから、ピザ屋もあるのは知ってたんだけど……巨猿王を倒した懸賞金も貰えたし、奮発して買って来ちゃったのよね!
「かーさま……」
「マム……」
「そんな顔しないで。母様は大丈夫よ」
2人を抱き寄せて。
私は改めて、決意を固める。
これ以上、2人を悲しませる事のないように。
「(もっと強くなる……ゲーム本編のディケーのように……もっと!)」
ーーー私は、大魔女にならなければならない。




