第29話 死闘の果てに
「ディケーさん、すごい! すごいよぉ!
私てっきり、もうダメかと思ったよぉ!!」
「特A級の巨猿王をマジで倒しちまうとはな!
いやまったく、アンタ本当に新人なのか!?」
「冒険者になる前は一体何をやってたんだ!?
傭兵か、それとも軍人か!?」
「えっ……? ……き、喫茶店、従業員?」
「「「 喫茶店従業員!? 」」」
死闘の末に。
かなり、ギリギリではあったけれど。
私は、最後の力を振り絞って。
全身全霊を込めた渾身の一撃で、魔女の呪いによるデバフで極限まで耐久力を下げた巨猿王の頭を、拳で粉砕した。
今、倒れ込んだ私の傍らには、頭部を失った巨猿王の山のように大きな骸が横たわっている。
そして私を取り囲むように、驚異が完全に去った事に安堵した3人の冒険者達が、慌てて駆け寄って来た。
「ど、どんな喫茶店だよ!?」
「いかん、どうやら彼女はかなり錯乱しているようだ!
無理もない!」
「とにかく残ってる回復薬をあるだけ傷口にかけて!
す、すぐ救援隊が来るから! ディケーさん、気をしっかり!!」
「あはは……ありがとね……」
あー、この感じ……。
ヘルプに入ったパーティの女の子(確かネリちゃんって名前だった)が私の血塗れの右手をポロポロ泣きながら必死で握り締めてるんだけど、感覚が全くないわぁ……。
多分、巨猿王をブン殴った時に折れたわね、これは……。
「ベルちゃん、聞こえるか!?
巨猿王に勝つには勝ったが、ディケーさんがちょっとヤバいかもしれないんだ!
救援隊に急ぐよう伝えて貰えないか!?」
『状況はドローンで把握しています!
もう間もなく到着しますので、そちらでも出来る限りの処置をお願い出来ますか!?』
「今ネリとグラッツがやってる! とにかく頼む!」
パーティのリーダー格の子(アラム君とか、そんな名前だった気がする)が通信石で、ヴィーナの町のギルド本部へ救援隊に急ぐよう大声で伝えていた。
いやあ、元気だねえ……まあでも、未来ある若者達を助ける事が出来て、私も満足ですよ。
「(レジェグラの世界って、しょっちゅう戦争してるから、成人年齢が15歳なんだよね……)」
見れば、みんな成人してまだ何年も経ってないって感じだし……私の世界で言うところの高校生か大学1年生くらいかしら?
元アラサーの私からすると、キラキラして眩しいくらいだわ……あ、でもなんか片方しか目が開かない。
……ダメだわ、重くて開かない。
戦ってる最中はアドレナリン全開で気づかなかったけど、左目を潰されたか……。
「未来ある若者達を守れて、オバサン満足だわぁ……うん、満足……」
「ディケーさん、私とたいして歳変わんないでしょう!?」
ネリちゃんのツッコミを返す気力も今は沸かない。
そう、ガワはね……ディケーはギリ10代で通じる見た目してるから。
でも中身は30手前で元カレと喧嘩別れした、異世界から来た実家の家業手伝いの独身女性ですが、何か?
「(……それにしても)」
極星のローブで巨猿王の攻撃に耐えながら魔力に還元した反動か、ドッと疲労感に襲われて指一本すら動かすのも億劫な状況で。
同じく地面に横たわる、つい今しがた、私が命を奪ったばかりの、巨猿王の、頭部を失った、その巨大な骸を横目で見つめる。
「(ゲーム終盤にしか出てこないような最上級の有害召喚獣が、どうしてこんな辺境に現れたのかしら……?)」
私が知らないだけで、レジェグラのゲーム本編でも首都以外の地方都市や辺境の地で、何らかの召喚獣絡みの事件が本編開始前の時間軸で起きてた、って事?
うーん、少なくとも設定資料集には載ってなかったような気がするけどなあ。
「(本来の歴史から、少しずつズレが生じて来てるのかもしれない……)」
ディケーの2人の養女、ライアとユティは魔女の塔から正式に"魔女見習い"として認められ、ディケーも除籍されず、魔女達も皆殺しにはされていない。魔女の塔も破壊される事なく、健在だ。
既にこれだけでも、レジェグラ本来の歴史とは大きく異なる事態だからね……私がスキマ時間にアルバイトで冒険者やったりと、レジェグラ本編では有り得なかった事を色々やっちゃってるし。
「む! 救援隊が見えたぞ!!」
「ディケーさん、救援隊!
救援隊が来たから! もう大丈夫だからね!!」
「ありがと、ネリちゃん……あっ、いっつ!」
五体満足の状態で勝てただけでも大金星なんでしょうけど……まあ命があるだけマシよね。
今夜は少し、帰るのが遅くなりそうだわ……。




