第27話 特A級有害召喚獣、襲来!
「■■■■■ーーーーー!!!!!」
「(なんて咆哮! 地震のように周囲がビリビリ揺れてる……鼓膜が破れそう!!)」
緊急クエスト発生!
ヴィーナより西の辺境の荒野にて、特A級有害召喚獣出現!!
現在、1組のパーティが交戦中!
付近の冒険者の中で加勢可能な者は現場に急行されたし!!!
「フハハハ……!!
脆弱ナ冒険者ドモメガ……俺様ヲ狩ロウナド、百年早イワ!!!」
「(これが……巨猿王……!)」
よもやゲーム終盤のマップでしか出現しない魔物と、こんな所で会敵するなんて!
しかも大木並にぶっとい棍棒で武装してるし、人語も話してる! 並の魔物じゃない、相当の知能がある証ね! さすがは王ってトコロかしら!?
「(多分、他の魔物を手当たり次第に喰って進化した、突然変異種だわ……!)」
レジェグラのゲーム本編に登場した巨猿王は、棍棒で武装なんてしていなければ、喋ったりもしてなかったからね!
帝国の召喚師から喚ばれて公国領内で好き放題に喰い散らかした結果が、あの姿なんだ……!
「(……明らかにゲーム本編より、デカい!)」
以前戦った巨猪が倉庫かプレハブ小屋くらいのサイズだとしたら、コイツは素早く動ける大型トラックって感じ!
雪のように白い体毛はもう、恐怖を飛び越えて神々しさすらある!
しかも、
「フンッ!!!」
「! みんな、下がって!」
「う、うあああぁぁあああぁぁあああっ!?」
防壁展開!!!
さすがに本職の神官クラスとまでは行かないけど、魔女の私にだって防御結界の術式の心得は多少はある! ……あるんだけど!
「た、助かったぜ、ディケーさん!」
「あんまり期待しないで!
……次も耐えられるかは、ちょっと分かんない!!」
……けど、何発も耐えられるって程の強度でもないわね、これは! まだ私が完全にディケーの身体に慣れてないせいだとは思うけど! 特に戦闘時だと顕著になる!!
「ホウ、小賢シイ!
防御魔術ヲ使エル者ガ居タカ……」
「(あっぶな……棍棒で地面を叩き壊して、岩を弾丸のように飛ばして来るなんて……!)」
近づいても離れても、オールレンジで要警戒ね!
物理攻撃特化型とは思うけど、極めるとここまでの代物になるなんて……こんな辺境に現れていい魔物じゃないでしょう、これは! まだレジェグラ本編が始まるまで13年もあるのよ!?
「くっ、こりゃ生きて帰れんかもな……」
既に巨猿王と交戦してたパーティに加勢したのはいいけど、これはちょっと、なかなかどうして……って感じかしら!
でも3人ともヴィーナの冒険者ギルドで何度か話した事がある人達だし、見殺しには出来なかったのよね!
「(近くにたまたま居たの、私くらいだったしさあ!)」
状況はギルドの方でも把握してるだろうし、他の救援の冒険者が来るまで粘るしかない……!!
「(……いいわ、試させてもらう!)」
南の樹海地域に戻ったサラさんからの"魔女の刻印"での連絡はまだない。
それは、私にとっては、ある意味では好都合と言えた。
ーーー強敵相手にたっぷりと、呪いの練習が実戦で出来るから。
****
「……みんな、少し散ってもらえる?」
「えっ?」
「ディケーさん!? な、何するつもり……?」
「これからちょっとばかり、派手に喧嘩するから」
ズ ズ ズ ……… !!!
筋力強化、防御強化、俊敏強化!!!
……私の全魔力を自身へのバフに回す!
祝福あれ、祝福あれ、祝福あれ!
我が心、奮い立たせよ!!!
「ホウ! 凄マジイ魔力ダナ!!
俺様トヤリ合ウツモリカ、冒険者ノ女ァ!?」
「そのつもりよ。
……冒険者、舐めないでくれる?」
……なんてハッタリで言ってはみたものの、これでもまだ巨猿王とガチでやり合うには全然足りない! ……なので!!
「(まずは一撃、喰らってあげるわ!)」
……私の呪いは、至近距離からじゃないと発動出来ない!
高位の邪神官とかなら離れた状態でも遠距離から撃てるんでしょうけど、まだディケーに転生して一ヶ月の私じゃ、そこまでには至れていない!!
巨猿王に特大のデバフの呪いをぶちかますには、まずは一旦こっちも特大の一撃をお見舞いされた時に隙を突くしかない!
誰だって勝利を確信した瞬間こそ、一番油断しやすいからね! 「勝って兜の緒を締めよ」って、日本でも昔から言いますやんか!
「(……勝算はある! 新しい装備を試すいい機会だわ!!)」
猿相手に猿芝居って、どーなのよって感じだけども!!
それでも骨の2~3本は覚悟しといた方がいいかしらね、これは!
「(コイツはここで倒す! 近くには小さな村や集落もあるし、仕留めなかったら甚大な被害が出る!)」
喋り方からしてもう、完全に好戦的だし! 俺様キャラにろくな奴居ないからね! 跡部様とかは別として!
「だあぁあああぁぁぁっ!!!」
「ホホウ、ナカナカ素早イ!
……ダガ、向カッテ来ル方角サエ分カレバ!!」
「(また棍棒で地面を叩き割って、弾丸代わりに!)」
地面を抉り取るようにして、巨岩の飛礫が私に向かって放たれる! ……だけどもぉ!!
「クタバレ!!!」
「氷弾、全弾射出!!!」
「ヌウッ!?」
氷結の術式展開!
絶対また棍棒でアレやると思ってたからね!
目には目を、弾丸には弾丸よ!!
「フン。コレシキノ傷、痛クモ痒クモナイワ!」
「(何本かは皮膚に刺さったみたいだけど、致命傷には程遠い……やはり、脳天か心臓を貫かないと勝機はないと見た!)」
自分でも自然と、如何にすれば相手を殺傷出来るのかって考えがスムーズに浮かんで来てしまう。
これが魔女の思考……こんなの、元の世界の私だったら絶対にあり得なかった。そもそも誰かと本気で喧嘩した経験なんて、小学校以来じゃない? ブランク何十年なのよ?って話だし!
「ダガ、俺様ノ身体ニ傷ヲ付ケタ代償ハ払ッテモラワントナァ!!!」
「(来る! ……さあ喰らうわよ、覚悟はいい? 私!!!)」
「防御魔術デ、ソウ何度モ防ギキレルト思ウナ!
潰レテ、血ト肉塊二……ナルガイイワーーー!!!」
目にも止まらぬ速さで駆け抜け。
憤怒の咆哮と共に。
白い巨猿王の渾身の一撃が、私目掛け振り下ろされたーーーー。
****
「嘘……。
ディケーさん……し、死んじゃった……?」
「あ、あの地面の沈み込み方じゃ、どう考えても無理だろ……。
全身バラバラだ……」
「……次は我々の番、だろうな」
荒野に残された3人の冒険者達は、まさに顔面蒼白だった。
冒険者ギルドに所属したばかりの新人冒険者にしては、ディケーはよく健闘したと誰もが思いはしたが、やはり異常進化した白い巨猿王には到底敵わなかった。
今すぐ此処から離脱し、この危急をギルドに知らせねばと脳裏には浮かぶものの、巨猿王の俊敏さを目の当たりにした今、それも不可能であるという現実に打ちのめされ、身体は震えるばかりで、言う事を聞いてくれない。
「ハッハッハ、口程ニモ無カッタナ!
マア人間二シテハ、ヨクヤッタト誉メテヤルゾ、女ァ!!!」
幾度も、幾度も、幾度も。
白い巨猿王が、棍棒を振り下ろす音が荒野に響く。
その度に地面が大きくひび割れ、棍棒が振り下ろされる先にあるであろう、ディケーの骸も今は見るも無惨な状態となってしまっているのだろうと思うと、足がすくんで動けなかった。
……あの巨怪がディケーの骸を叩き潰すのに飽きたら、次は自分達の番だ。
本能的にそう悟るや、三者三様に、これまでの人生が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えて行った。
「俺様二傷ヲ付ケタ事、アノ世デ後悔シ……ン?
ナ、何ダ……?」
不意に。
それまで嬉々としてディケーの骸を棍棒で叩き付けていた巨猿王の動きが止まった。耳障りな不快な笑いもピタリと止んで、声には明らかに戸惑いが混じっている。
「チ、チカラガ、ハ、入ラ……ナイ……!?」
『……あー。やっと効き始めた』
「 !? 」
そうして。
巨猿王は、信じ難いモノを見た。
幾度も、幾度も、幾度も、幾度も。
狂乱と憤怒に任せて、棍棒で叩き潰し、最早、肉片すら残っていないと思っていたはずの女が。
地の底から、か細い腕を伸ばし、自慢の得物をゆっくりと押し退けながら。
「実験成功ね」
ーーー魔女のように、嗤っていた。




