第26話 魔女の刻印《ウィッチサイン》
「私の魔女の刻印のコードをあげておくわね。
お嬢様の御両親から解呪の許可が頂けたら、空に投げて。
世界の何処に居ても私には分かるから」
「承知いたしました。
色々とありがとうございました、ディケー様」
朝食後。
私は納屋の扉を通ってヴィーナの町に戻り、そのまま国境の検問所までサラさんを見送りに来ていた。
私の魔女の刻印を渡したので、もし事態に進展があれば、サラさんが空に投げて刻印が輝くはずだから。
「お見送りはここまでで結構です」
ここから先は公国領より外、南に行けばエルフ達の住む広大な樹海地域となる。
レジェグラのゲーム本編は公国の首都が舞台だったから、私もまだ未踏の地域だったりするのよね。
「途中まで付いて行かなくて大丈夫?
冒険者なら国外にも簡単に出れちゃうんだけど」
戦争時、帝国の召喚師が喚び出した危険な有害召喚獣は、今や繁殖に繁殖を重ねて、ここ数年は公国領外にも頻繁に姿を見せているらしい。現に、サラさん達エルフの住む樹海地域にも巨猪が時折出没するって言ってたしね。
なので冒険者には国境を越えて、そういう危険な魔物を国外でもハントする許可が与えられていて、国境の出入りも自由なのだ。
「いえ、私も多少は武芸の嗜みがありますので。
樹海まで戻るのに支障はありません。
お気遣いありがとうございます」
サラさんはそう言って、ペコリと一礼する。
昨日は色々とあったけど、多少は打ち解けてくれたみたいだし、私としてはエルフと知り合えただけでも大満足だ。
「(邪神が復活した時、エルフが味方だと心強いもんね)」
13年後。
レジェグラのゲーム本編の時間軸が始まった場合、私に代わって、別の誰かが邪神を復活させ、世界の破壊を目論むかもしれない。
その時、エルフが味方として一緒に戦ってくれれば、戦力としては申し分ないはず。
「(出来れば、エルフの氏族長夫妻とも顔見知りになっておきたいところなのよね……)」
勿論、エルフのお嬢様の呪いを解いてあげるのが、まずは最優先ね。
160年も呪われっぱなしって、他人の私から見ても可哀想だし。魔術が使えない事での偏見や差別に苦しんでいるのなら、解放してあげたいもんね。
……恩を売るみたいなやり方がちょっとアレだけど、13年後には世界が滅ぶかどうかの瀬戸際の時だし、打てる手は打っておきたい。
「ディケー様。それでは」
「ええ。またね、サラさん」
「はい。また」
サラさんに手を振って、その背中を見送る。別れ際、チラリとこちらを見たサラさんが、小さく笑った気がした。
その後ろ姿が見えなくなるまで、私はサラさんを見つめ続けた。
「(お嬢様の御両親の説得に成功すれば、私も次からはこの検問所を通って、南の樹海へ行く事になりそう)」
解呪とは言いつつ、やる事と言えば、新たな呪いをお嬢様にかけて、既にかけられてる呪いとの対消滅を狙うっていう、なかなかリスキーな方法だからね……。
失敗したら私自身に呪いが跳ね返って来ないとも限らないし……ま、やると決めた以上はやるしかないんだけど。
「……さて、戻りますか。
有害召喚獣の新しい駆除依頼が来てるかもだし」
来年からはライアとユティを魔術学校に通わせなくてはならない。
今後の養育費や授業料を今のうちに出来るだけ稼いでおかないと……あー、早く2人の学生服姿が見たい! 絶対可愛いわ!
……中学やら高校の同級生が結婚しただの、子供産んだだの、子供が小学校に入学しただの聞く度にゲンナリしてたけど……私だって、元カレとこじれてなきゃ今頃はさあ!
「(あー、やめよ。昔の事を思い出しても仕方ないもの)」
……今の私は、ライア達の母親なんだから。
私がしっかりしないとね。




