第25話 大切な物だったと思えるように
「休んでくれててよかったのに」
「いえ、せめてこれくらいはさせてください。
4人分ともなるとディケー様も大変でしょうし」
晩御飯のすき焼きを4人でお腹いっぱい食べた後。
ライアとユティは眠くなったのか、サラさんと少し遊んで、そのまま部屋に戻っていった。お客さんがうちに泊まるなんて初めての事だし、少しはしゃぎ疲れちゃったんでしょうね。
「一宿一飯の恩義を忘れては、エルフの氏族の方々に仕えるメイドとしては失格です」
「(律儀だなー)」
で、私が洗い物の片付けをやろうかなと炊事場に立つと、いつの間にかサラさんが隣に立って、一緒に洗い物をやっていた。
メイドとしての血が騒ぐのか、私が洗い物をやってるのを黙って見ていられなかったらしい。
「そう言えば、すき焼きはどうだった?」
「なかなか趣のある味わいでした。
溶き卵を焼いた肉や野菜の付けダレ代わりに使うのは斬新だったかと……」
「まあ、そこよね。
フツーは目玉焼きとかスクランブルエッグとかゆで卵で食べるでしょうし」
サラさんの口に合って良かったわ。
さすがに日本のすき焼きとはビミョーに味が違う気もしたけど、材料さえ手に入れば何とかなるものね。
レジェグラが日本のゲームで良かったー!
何処で生産してんのよ?って感じで、日本のスーパーに売ってる食材とか調味料、町に行けば大体あるもんね。何処で生産してるのか分かんないけど!(2回言った)
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「……ふと、不思議に思ったのですが」
「ん? 何が?」
慣れた手付きで次々と食器を布巾でキュッキュッと磨くサラさんが、横目で私を見つめる。
相変わらず、深いサファイアみたいな青い瞳をしていた。
「ディケー様は魔女ですよね。
……その気になれば、洗い物も魔術で出来てしまうのでは?」
「……ああ、そゆこと」
そうだねえ……。
レジェグラの世界に転生しちゃった最初の頃は、私もそう思って楽しようとした事もあったんだけど……。
うーん、何処まで話していいやら。
「えっと……。
私、ライアとユティと会う前は、喫茶店で働いて日銭を稼いでた事があってね」
「キッサテン?
……客に軽食や飲料を提供するという店の事ですか?」
「そうそう。その喫茶店ね」
エルフのサラさんにも喫茶店はギリ通じるらしい。
まあ、嘘は言ってないよね。実家のお店を手伝ってたのは事実だし。
「私は主に注文を取ったり、配膳をしたり、食器を片付けたり、洗い物の担当だったんだけど……その頃の癖って言うのかしら? 生活する上でのルーティン?
自分やあの子達の食器を洗ってると『ああ、親子として一緒の時間を今日も過ごせたなー』、って気持ちが強くなるって言うか……ごめん、上手く言えないんだけど」
推しキャラだったライアとユティの母親になれて、一緒に生活して、御飯を作ってあげて、勉強を教えて……2人の成長を見守れるなんて……レジェグラのプレイヤー日本に数多く居れど、それが今出来てるのは私だけなんだし。
ふはは、羨ましかろう!
ライアとユティのロリ声とかゲーム内でも聞けなかったし、子供時代のイベントCGなんて、そもそも存在してなかったしね! ……なーんて。
「(……でも、せめて)」
かつてはディケーじゃなかった頃の"私"の事を、私自身が忘れてしまわないように。
あちらの世界に残して来た、両親の事を忘れてしまわないように。
実家の喫茶店を手伝っていた頃の記憶が、色褪せないように。
「あの子達との一日の思い出と、自分自身の事を反芻するためにやってるの。
私にとって洗い物してる時って、そういう時間。
……だから、魔術は使わないかな」
「……そうですか」
何となくだが、サラさんにも私の言いたい事のニュアンスは伝わったらしい。
それ以上の追求は無かった。
サラさんもエルフのお嬢様のお世話をする立場だし、思うところがあったのかもしれない。
「大切な人との時間は、いつか絶対に終わるわ。
楽しい時間が、あっと言う間に終わるように。
始まりには、必ず終わりが来るのよ」
沈む夕日を誰も止められないように。
いつかは、私とライア達との時間にも終わりが来るのだろう。
子は親から、いつか巣立っていくものだから。
それは嬉しい事であり、寂しい事でもある。
「(……13年後、ライア達が18歳になった時、私とあの子達の運命が決まる。レジェグラのゲーム本編が始まる)」
例え大魔女でも時間は止められない。
手探りでレジェグラの世界を生き抜くしかない。
そもそも私は、どうして自分が悪役キャラのディケーに転生してしまったのかも、まだ分からない。
……でも、だからこそ。
私は最後まで、あの子達を見守りたい。
「あの子達との時間が、私にとって大切な物だったと思えるようにしたいから」
……お客さんが来ているからだろうか。
今日は私も、何だかいつもより、お喋りになってしまった気がした。




