第24話 今夜一晩お世話になります
「ただいまー」
「かーさま! おかえりー!」
玄関を開けるなり、ライアが元気良く出迎えてくれる。
早速抱き付いて来たので、赤い髪を優しく撫でてあげると、ライアはくすぐったそうにキャッキャと目を細めた。
「お留守番出来てたのね」
「できてた!」
最近は私がスキマ時間にヴィーナの冒険者ギルドへとアルバイトに行っている間、ライアとユティは山小屋でお留守番が出来るようになった。
最初の頃は魔女の先輩に面倒を見て貰っていたんだけど、来年は2人も魔術学校に通う歳だし、そろそろお留守番くらい任せてもいいかなと、判断した。
勿論、万一に備えて山小屋の周囲には防護結界やらを何重にも張り巡らせている。ちょっとした要塞並の堅牢なセキュリティね。
「ユティは?」
「なんか、おへやでまじゅつのじしゅれん?してる」
「へえ」
鍛練の時間以外でも自主的に自己研鑽に臨むのは良い事だわ。ライアもユティも基本的には誉めて伸ばしてあげてるけど、どちらかと言うとユティの方が勉強熱心ね。勿論、ライアも充分過ぎるくらい"魔女見習い"の鍛練に勤しんでいるけど。
「あれ、おきゃくさん?」
「そうよ。今夜うちに泊まるの。
さ、入って入って」
「……お邪魔いたします」
で、今夜のスペシャルゲスト。
冒険者ギルドで私が色々とやらかしてしまったので、お詫びも兼ねてうちに御招待した訳ね。宿も予約してないって言うし、かと言ってギルドの宿直室とかに泊める訳にもだし、まあ私の大事な依頼人ってコトで、ここまで来て貰ったのだった。
「南の樹海にてエルフの氏族の方々にお仕えしている、メイドのサラと申します。
今夜一晩、お世話になります」
「おおー! えるふ! めいどさん!」
サラさんは子供相手でも礼を欠く事なく、ペコリと美しくお辞儀をしてみせる。
うーん、メイドの鑑ね!
それに、このうちに誰かが泊まりに来るなんて、初めてじゃないかしら?
ライアもエルフに会うのは初めてだから、ちょっと興奮気味ね。分かるー!
「……お子さんがいらしたのですか」
「ええ、2人ね。
戦災孤児だったのを引き取って、養女兼弟子として育成してるの。
もう1人ユティって子が居て、ライアもユティも次世代の魔女候補の"魔女見習い"よ」
あ、そう言えば謝るのに必死になってて、サラさんにはライア達と一緒に住んでる事を説明するのをすっかり忘れちゃってたわね!
まあでも、ライアもユティも人見知りとかないし、すぐにサラさんに懐くでしょう。魔女の先輩達にもすぐ懐いたし。
ね、サラさーーー。
「……二児の母でありながら、私を好き放題に弄んだ挙げ句、キズモノにしたと?
……とんだ悪女ですね、ディケー様は」
「(まだゆーとる!)」
すっごい根に持つなあ!
横目でジッと睨んで来るサラさんの視線が痛い。
「マム」
「ああ、ユティ。ただいま」
そうこうしているうちに玄関が騒がしい事に気づいたのか、ユティも部屋から出てきた。
つい今しがたまで魔術の鍛練をやっていただけあって、いい感じに仕上がっているのが分かる。総量だけ見るとユティがライアより一歩リードって感じね!
「……ゲスト?」
「そうよ、お客さん。
今夜うちに泊まるから」
「南のエルフの氏族にお仕えする、メイドのサラと申します。
お初に御目にかかります、ユティ様」
「クルシューナイ。ユックリシテケ」
ユティもサラさんが気に入ったみたいね。
エルフ特有の高い魔力に興味を覚えらしく、ジッと髪の毛の先から爪先を観察するようにサラさんを見つめていた。
……さて、挨拶はこれくらいでいいわね。
「今夜はすき焼きを食べるわよ」
「「おおー!!」」
巨猪を駆除した報酬があるし、初の有害召喚獣駆除を記念して、ちょっと豪勢に行っちゃいましょう!
ちなみに当初は巨猪の肉を使ったぼたん鍋も検討したんだけど、ギルドの素材回収班から「これだけ図体がデカいと血抜きと解体に時間がかかる」って言われちゃって、泣く泣く今日は断念したのよね……後日のお楽しみって事で。
「サラさんはお肉大丈夫?」
「問題ありません。
我々エルフは元々は狩猟民族、肉も野菜も別け隔てなく、自然からの恵みとして受領いたします」
「そう。なら問題なさそうね」
実写映画のロード・オブ・ザ・リングだと、エルフの住む"裂け谷"をアラゴルン達が訪ねた時、出された食事が味気ない野菜オンリーで、ドワーフのギムリがしかめっ面してたのよねー。
レジェグラ世界のエルフは肉も食べると聞いて、まずはひと安心だわ。
「ライア、冷蔵庫から牛肉を出しておいて」
「はい!」
「ユティはお皿とか食器の準備をお願いね」
「イエス、マム」
2人ともお手伝いをちゃんとしてくれるから助かるわー。レジェグラ本編でも、こんな感じで幼い頃は2人ともディケーのお手伝いをしてたのかしら?
「……御二人とも、よく懐いておられますね」
「えっ? ええ、そうね。
一緒に暮らし始めて、まだ半年ちょっとだけど」
「私も何かお手伝いをーーー」
「いいって、いいって!
サラさんはお客様なんだから、座って待っててくれていいんだって」
「しかし……」
滅多に来ないお客様に晩御飯作りを手伝わせたとあっては、大魔女一家の名が廃るからね!
「明日から忙しいんだから、今日くらいはメイドさんはお休みでいいんじゃない?」
「……そこまで仰られるのであれば。
郷に入りては、郷に従わせていただきます」
「そうしてね」
さあ、そうとなると野菜やらしらたきやら卵も用意しなきゃね。
特製の鉄鍋もつい先日魔術で自作したし、今夜のすき焼きは絶対美味いわよ!
「ディケー様」
早速、荷物を置いて晩御飯の仕度に取りかかろうと、髪を束ねてエプロンを身に付けようとすると。
不意に、サラさんが頭を下げながら言う。
「………先程の冒険者ギルドでの、貴女への"得体の知れない方"という、私の失言は取り消します。
……貴女は少なくとも、立派に御二人の母親として頑張っていらっしゃると……そう、お見受けいたしました」
「……ありがとね」
今日初めて会った人から、私達親子が、そう評して貰えるのであれば。
私のこれまでの母親としての一ヶ月は、決して無駄ではなかった、って事だから。




