第20話 魔女とメイドと深淵戦争
「先程は大変お見苦しい所を……」
「いえ、そんな!
知ったかぶりな事を言っちゃった私にも責任ありますし……」
人目もあるので、とりあえず冒険者ギルドの2階にある応接室に場所を移した。
エルフのメイドさんからの要望で、部屋の中に居るのは私達2人だけだ。さっきの、さる高貴な方にかけられた"呪い"について、あまり他人に聞かれたくない、何か込み入った話があるとの事だった。
「(にしても……)」
シュンと肩を落として謝る姿も絵になると言うか……やっぱ美人さんだわー……。
エルフってみんなこうなのかしら? こっちの世界に転生してから初めて会ったエルフだし、何か私も好奇心が抑えられない感じになってる気がするわね! ファンタジーのド定番の種族だもの! お父さんの書斎にあった、トールキンの指輪物語を思い出すわー。
「まあでも、急に手を握られてブンブンされた時は驚きましたけど」
「~~~ッ!
……重ねて謝罪いたします。
長年探し求めていた方が見つかったと思い、つい興奮をしてしまい……あのような振る舞いを……」
またも頭を下げられてしまう。
……結構、義理堅い人なのかも。
エルフって長命で魔力も高いし、美男美女が多いから、結構他種族に対して排他的と言うか、見下したような物言いをするキャラクター設定にされがちだけど……このメイドさんは、よく教育されてる感じがするわね。育ちが良さそう。
「いえ、ですので!
もう謝罪は結構なので!
話を先に進めましょう、ねっ?」
「はい……」
ともかく、こう何度も謝られてしまっていては話が一向に進まない。
何故、本来ならば公国領から南の樹海に住むエルフが、わざわざ国境を越えて、このヴィーナの冒険者ギルドに依頼をしにやって来たのか。まずはそれが知りたいのよね。
「……改めまして。
私はサラと申します。
南の樹海地方に居を構えるエルフの氏族の方々に、先祖代々お仕えをしております」
サラさんって言うのかー。
レジェグラ本編のストーリーには未登場の人だし、関わってもきっと大丈夫でしょう。
それに名乗られた以上、こちらも名乗らねば無作法と言うものよね!
「私はディケーっていうの。
訳あって、今は此処の冒険者ギルドに所属して賞金稼ぎのような事をしていて。
有害召喚獣の駆除とか、まあそんなので」
「ディケー様。
………以後、お見知りおきを」
「よろしくね」
初対面でいきなり情熱的に手を掴まれちゃったからなー。忘れられない出会い、ってやつですやんか。
「じゃ、本題に入りましょうか。
サラさんがさっき言ってた、さる高貴な方にかけられた"呪い"について話をして貰える?」
まあ、お茶でも飲みながら話してね、と。
ついさっき、ベルちゃんが恐る恐るドアを開けて差し入れてくれた、お茶とお茶菓子を勧める。エルフの口に合えばいいんだけど。
****
「……話は300年程前に遡ります」
いきなり大分飛んだわね!?
さ、300年前……?
その頃ってディケーは生まれてたのかしら。
「ディケー様は、"深淵戦争"を御存知ですか」
深淵戦争!
異界の扉が急に開いて、魔物の軍勢がこっちの世界に大挙して攻め込んで来たっていう、あれかしら?
レジェグラのゲーム本編だとチラッとしか触れられない過去の大戦の1つ、って感じで、そこまでストーリーには絡まなかった記憶がある。メインは飽くまで、ディケーの興した邪教団の邪神復活阻止だったし……。
「聞いた事はあるけど……」
「世界の各地に、異界から現れた魔将が多数の軍勢を率いて攻め込んで来ました。
当然、我々エルフが住む南の樹海にも。
……攻め込んで来たのは、炎魔将アグバログ」
ア、アグバログ!?
本編未登場だけど、確かレジェグラのアートブックにカラーイラストだけは載ってた気がする!
開発者インタビューだと「トールキンの指輪物語に出てくる『炎の悪鬼バ◯ログ』をオマージュし、同じくエルフの天敵として設定しました」みたいな感じで、説明が書かれてたわね!
実写映画のロード・オブ・ザ・リングだと、モリアの坑道でガンダルフと戦ってた奴だわ!
「多くの犠牲は出ましたが、エルフの各氏族が総力を結集した結果、アグバログは何とか討ち果たされました。
……ですが」
サラさんは神妙な面持ちとなって、言う。
「彼の魔将は、死の間際に恐ろしい事を叫んだのです。
『今後二度と、この地に住まうエルフ共が栄える事はない!』と」
うわー!
「七代先まで祟ってやる!」って感じの断末魔!
横溝正史の八つ墓村の落武者みたいね!
「……当初は誰も気にも止めませんでした。
アグバログとの戦いで焼けてしまった樹海の再生や、戦死した多くのエルフの弔い、戦いによって数を減らしてしまった事から各氏族同士の婚礼による統合と、やる事が山積みでしたので……」
カップに注がれた紅茶に視線を落としながら、サラさんは続ける。
「ですが、それからしばらく経って……今から160年前、私のお仕えしているお嬢様がお生まれになった時の事です。
エルフの氏族でも指折りの魔力を持ち、アグバログを討ち果たした勇士にも名を連ねた、現氏族長のお父様とお母様からお生まれになったはずなのに……」
「お嬢様は魔術が使えなかったのね?」
ふむふむ。
ここで深淵戦争と、サラさんのところのお嬢様とが繋がる訳ね。
「……はい。
我々エルフにとっては、前代未聞の事態でした。
待望の御子様だっただけに、樹海に住まう氏族全体にショックは瞬く間に広がりました。
生きている上で自然に呼吸をするのと同じく、魔術を使用出来て当たり前なのが我々エルフなのです。
それなのに……。
御両親はやっと、アグバログが死の間際に発した呪詛の意味を理解されました。
一切の魔術が使えない赤子が生まれる、恐るべき呪い。
もし、今後お嬢様が御結婚されても、その御子様もまた、魔術が使えなければ……」
なるほどー。
魔術が使えないとなると、結婚相手が現れてくれるかどうかも分かんないしね……エルフにとっては確かに死活問題だわ。
子供が出来たとしても同じく魔術が使えなかったら、種族的にも弱体化は避けられないし、遠からず滅びの道を歩む事になるのは間違いないかも。
アグバログの断末魔の「今後二度と栄える事はない!」って言うのは、そういう意味かあ……。
「あのー。
非常に聞きにくい事なんだけど。
……やっぱり、エルフの世界でも魔術が使えないと、差別とか偏見とかあったりするのかしら?」
「……無いとは言い切れません。
表立ってこそはありませんが、将来的に氏族を治める立場になられるお嬢様に対して、不信感を唱えたり、陰口を叩く者もおります」
やっぱそうなのね……。
種族間に不協和音を起こすのもアグバログの狙いだったのかも。
「当初はお嬢様も気にしてはおられませんでした。
………ですが。
御年を召され、段々と周囲の視線が気になられ始め、御自身が一切の魔術が使えないと理解され始めてからは、あまり人前に出るのも最近では……かつては花のように可愛らしい笑顔を見せておられたのに、塞ぎ込みがちになられて……。
何人ものお医者様や聖者の方にも診て頂きましたが、どなたもお嬢様の呪いを解く事は叶わず……」
サラさんが目を伏せ、言葉に詰まる。
ずっと何十年もお仕えしてて、側でお嬢様を見てたなら、辛さも分かるってものよね。
「……だからサラさんが、わざわざ国境を越えて公国領まで解呪師を探しに来たのね?」
「仰る通りです。
何か打開策は無いかと、初めて樹海を出て、こちらの町までやって来た所存です。
此処は国境に接している事もあり、各地から訪れる亜人種の方も多いと聞き及びました。
……お嬢様の呪いを解く術を誰かが知ってはいないかと……もしくは、そういう方を探して頂こうと思い、こうして冒険者ギルドを訪ねたのです」
なるほどなー。ふー。
よし、話は大体分かったわ。
「炎魔将アグバログの呪いかあ……。
いきなり深淵戦争やらの話が出てきて驚いたけど、そちらの事情は概ね理解しました」
一息入れようと、私もカップを手に取る。
ちなみにサラさんに出されたのは紅茶だけど、私の方はコーヒーだった。受付嬢のベルちゃんが気を効かせてくれたらしい。
「エルフの方の口に合うかは分からないけれど、まあ飲んで。
一息入れながら今後の話をしましょう、サラさん」
「はい……。
お気遣いありがとうございます、ディケー様」
ヴィーナは何処と無くアメリカンな雰囲気の町並みだから、紅茶よりコーヒー派なのよ私。
にしても、お嬢様のために単身で国境を越えて町まで来るなんて、アクティブなメイドさんだわ。
よっぽど忠誠心が強いのね。解呪師を見つけるまでは南の樹海に帰らない覚悟だったのかも……。
「(呪いと言えば魔女の十八番……けど、他人がかけた呪いを解呪するとなると……うーん……)」
私がレジェグラの世界に転生して、ほぼ1ヶ月。
ちょっと、いや、かなり難易度高めのクエストにぶち当たってしまった感があるわね……。




