第14話 魔女の瞳《イビルアイ》
実は、ずっと試してみたかった術式がある。
「魔女の瞳」だ。
強い魔力を持つ魔女なら、その瞳に魅入られたが最後、一国の主をも愛の奴隷と化し、国を傾かせる事すら可能となる……らしい。まさに傾国の術式ね!
「(あんまり気にしてなかったけど、ディケーの瞳って星が瞬いてるみたく、虹彩の部分がキラキラしてるのよね……)」
レジェグラ本編のディケーはこの力で幾人もの王侯貴族達を魅了して、邪教団設立の際の資金源として利用していた……って、設定資料集に書いてあったのよね!
悪い女だわー。
現代風に言えば、頂き女子みたいなモノかしら? 頂き魔女?
「(勿論私は、そんな事には使わないわよ!?)」
邪教団なんて物騒な組織、要りません!
レジェグラの主人公達と敵対する事になりそうな要素は徹底的に潰しておかないとね。
せっかく公国と帝国の戦争も終わった事だし。
じゃあ、そんな魅了の術式を何に使うのかと言うと……。
****
「あのぅ……。
これ、もう少しだけ、お値段をまけて頂く事は……?」
「えぇ?」
そう、値切りである!
せっかく港町の市場に来たんだから、値切ってナンボでしょう!? ダメとは言わせないわ!
ただでさえ終戦後で物価高になっちゃってるみたいだし、少しでも節約しないと、この先レジェグラ世界で生きていけませんやんかー!
「うーん。
お客さんねえ、こっちも商売だからねえ……」
「そこを何とか!」
「そう言われてもねえ……」
オッチャンも粘るなあ!
これ多分、断り馴れてるわね!
でも、どれもウチの家庭菜園じゃ栽培出来ないような野菜ばっかりだし、子供達への食物繊維やビタミンのためにも買っておきたいのよ……仕方ない。仕掛けるなら今だわ!
だ、大魔女ディケーが命じる!
……こんな感じでいいのかな?
「どうか、お願いします!
御主人のお店の野菜で、ウチの子供達に美味しい御飯を作ってあげたいんです……」
「うっ……!?」
ドキドキ……。
効いた? 効いたの? どうなの?
「ま、まあ、お客さん美人だしねえ……。
……負けたよ。
ウチの店ので子供らに美味いもん作ってやってくれよな!」
「ありがとうございます!」
よっしゃー!
こうか は ばつぐんだ!!
珍しい野菜が格安でいっぱい買えちゃったわ!
さすがにちょっと買い過ぎちゃったから、後で人目のない所で「魔女の工房」に入れておきましょう。
でないと、ライア達と手が繋げないしね。
****
「さて……。
ライアとユティの所に戻らないと」
私が野菜を値切ってる間、揚げ物とかのお惣菜を売ってるお店の前で待っておくように言っといたはずなんだけど……お店の御主人達も「俺達が見とくから行って来な」って言ってくれたし……。
キョロキョロと周囲を見渡しながら2人の魔力の気配を辿ると、すぐに見つかった。
「これも食べな、お嬢ちゃん達。
カニクリームコロッケだ」
「コロッケ! おいしー!」
「メンチカツもあるよ。お食べ」
「ウーン、ジューシー」
「「可愛いねえ」」
……お総菜屋の御主人達に、思いっ切り接客されとる!
美味しそうにモグモグとお総菜を頬張ってますやんかー!!
わ、私が苦労して値切っている間、タダで色々と食べさせて貰っていた……だと……!?
よく見ると何か人だかりも出来てるし!
「美味しそうに食べるねえ」
「何だかこっちまで幸せになって来るねえ」
「ウチの子もあんな子達だったらねえ」
な、何か皆、異口同音にライア達を見てうっとりしてない?
恍惚としてると言うか……皆の視線が熱っぽいと言うか……も、もしかして、なんだけど。
「(これ、ライアとユティも、魔女の瞳を使ってるんじゃないの……!?)」
そうじゃないと色々と説明がつかない。
今思うと、初めて会った人達は皆2人にとても好意的だったし、色々と物をプレゼントしてくれる人も居た。
2人ともディケーが自分の後継者として育てようと養子にしたくらいだもの、知らず知らずのうちに周囲を魅了してても全然おかしくない!
まあさすがに魔女相手だと皆魅了に耐性があるから、そこまで貢いだりはしないでしょうけど……それでも結構な量のプレゼントを魔女の塔で貰っちゃってるし、魔女相手に決して効かないとも言い切れない!
「(2人とも、戦災孤児として過ごしてる間に身に付けたんだわ……)」
恐るべき才能!
本人達は知ってか知らずなのか、まだよく分からないけど……万人に愛されるよう、生まれ持った処世術と言うか、魔術の資質なんだ!
山奥に居た時は魅了に耐性のある私とずっと一緒で、他の人が居なかったから、私も気づけなかったのね……!
まあ私の場合は最初からライアもユティも推しキャラだったから、最初から好感度のパラメーターがMAX状態なんですが!
「(いえ、そもそも2人の親って何者なの……?)」
考えた事すらなかった。
レジェグラの設定資料集にも、ライアとユティの親に関しての情報は事細かには載っていなかったはず。
少なくとも帝国領出身で、本当の姉妹でない事だけは確かなんだけど……。
「(……もしかして、プレイヤーには開示不可の、社外秘の裏設定みたいなものがある、とか?)」
あーもう!
シナリオライターの井ノ頭敏之が炎上さえ起こさなかったらなあ!
毎週Twitterでゲーム内では明かされなかったレジェグラの設定とかを呟いてたのに、例の炎上騒動以降は呟かなくなっちゃったのが痛すぎる!
「(恨むぞ、井ノ頭ァ……!)」
……結局。
人混みを掻き分けながら私が2人を迎えに行くまで、ブロケナの市場通りはまるでジュニアアイドルでも現れたかのように異様な熱気に包まれたのだったーーー。




