第13話 港町ブロケナへの帰還
「レッドバンブー島産ロブスターサンド、3つください」
「あいよ。
エビラサンド……ってあんた、昨日の」
「あはは……。
美味しかったんで、また来ちゃいました」
港町ブロケナに戻って来た。
魔女の塔の立つ、霧立ち込めるブロッケーナ山からはだいぶ距離があるので、さて帰りはどうしようかと思っていたところ、
『呆れた。
帰る手段も無いのに此所まで来たのですか。
……行きは馬車で来た?
帰りはどうするつもりだったのですか。
子供を2人も連れておいて、街まで徒歩で帰るとでも?
夜中になりますよ』
と、大魔女から心底呆れられてしまい、今回だけという事で転移魔術で町のすぐ側の平原まで親子3人とも飛ばしてもらったのだった。
そう言えばレジェグラ本編でもディケーの攻撃モーションに瞬間移動みたいなのあったなあ……あれも今思うと本家は師匠の術式だったのかもしれない。
今の私は使えないし。
「作ってる所を少し拝見しても?」
「ああ、構わんよ」
で、有言実行。
あのメチャウマなエビサンドを出す噴水広場の出店まで、またやって来ていたのである。
ウチに帰っても再現したいので、オジサンの作る様子を細かに観察する。
「このソースって、エビの殻を潰して作った物かしら?」
「そうだよ。こいつの殻から作ってる。
さすがにレシピは教えられんが、他にも色々入れてるんだ」
「デスヨネー」
あの濃厚な旨味はやっぱりアメリケーヌソースだった訳ね。身だけじゃなく殻まで最後まで使う……海の恵みに大感謝した結果が、あのエビサンドなんだわ……。
「バンズは少し固めのパリッとしてるのを使った方がいいな。
エビの身のプリプリ感が際立つんだ」
「ふんふん」
なるほどー。
食感も楽しみたいものね。
ガブッと噛み締めた時のバンズのパリッとした感じとエビのプリッとした感じ、ソースの濃厚感が口の中で弾けてしまいますやんかー!
「……とまあ、こんな感じかね。
鮮度が悪いエビを使うと火を通しても嫌な匂いがするから、その日に水揚げされた新鮮なのを早めに食った方がいいよ」
「ありがとう。参考になりました」
オジサンに代金を渡して、お礼を言う。
元の世界でもエビチリやらエビフライやらを何気なく食べてたけど、いざ調理するとなるとなかなか奥深い魚介なのね……。
今後は子供達の栄養バランスも考えて、色んな町に納屋から移動して食材を確保しに行くのも考慮しなきゃだわ……。
「2人とも、お待たせー」
「かーさま!」
「マム」
昨日と同じようにライアとユティは大人しく噴水広場で待ってくれていた。
2人とも手がかからないとまでは行かないけど、基本的にちゃんと言う事を守ってくれるから助かるわー。
従姉妹の子供達なんかもう、お前ら怪獣か何かですか!ってレベルでどっか出掛ける度にハイテンションだったもんなー。
子供特有の「キェーッ!」って金切り声あげまくりで、もううるさいのなんの……。
「食べながら町を見て歩きましょうか」
「さんせーい!」
「ラジャラジャ」
ライアとユティにエビサンドを渡して、親子3人で連れ立って歩く。
昨日は朝から朝市を見たりしたけど、今日は夕方くらいまで観光するのも良さそう。
帰りは勿論、港にある古い倉庫の扉から、山奥の我が家まで空間移動すればいい。
「(ディケーが前にもこの町に来てて助かったー)」
あの納屋の扉、基本的に一度訪ねた場所じゃないと移動出来ない術式みたいだったから。
****
「ろめんでんしゃー!」
「デンシャデゴー!」
エビサンドを食べ終えた後は、路面電車に乗って目的地の市場まで移動する事にした。
昨日は乗れなかったけど、今日はちゃんと乗れたから2人とも満足げね。
このブロケナって公国の首都からは結構離れてるけど、観光地でもあるからインフラは割と整ってるみたいだし……。
「けしきがうごいてるー!」
「ワタシハメーテルー」
「ほ、他のお客さんもいるから静かにね?」
「「はーい」」
……まあ生まれて初めての経験だし、仕方ないかあ。山奥暮らしが長かったもんね。
戦勝国ともなると首都じゃなくてもこんな感じで発展していくのか……。
うーん、それを考えると戦後の日本って敗戦国だったのに、かなりすごかったんじゃ? 焼け野原からのスタートでしょ? 人間の叡知ってすごい。
「可愛いねえ。いくつ?」
「5さいです!」
「ミギニオナジク」
「お母さんとお出掛けなのねえ」
「「そーです!」」
「あはは……お騒がせして……」
気がつけば、乗り合いの御婦人からニコニコ笑顔で話し掛けられていた2人。
連れ立って町中を歩いてた時も道行く人達から「可愛い子達ねえ」って声がチラホラ聞こえてたもんねえ……。
魔女の先輩達からも2人は大人気だったもんなあ……いや、そもそもゲーム本編の18歳の方のライアとユティも非プレイアブルキャラの悪役だったのに大人気で、グッズもいっぱい出てたもんね……子供の頃からその片鱗を既に覗かせるとは……恐ろしい子達だわ……。
「(来年から6歳だし、何処かの魔術学校にでも通わせようと思ってたけど……にゅ、入学初日から……か、彼氏とか、作ったりしないでしょうね!?)」
せめてゲーム本編の時間軸の18歳になるまでは、私だけのライアとユティで居てほしいっていうのは、母親なりのワガママなのかなあ!? かなあ!?
『まもなく市場通りー、市場通りです』
「あ、そろそろね。
ライア、ユティ、降りる準備をして」
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ライア達に話し掛けてくれた御婦人にお別れをして、私達はそそくさと路面電車を降りた。
噴水広場の開けた感じの雰囲気とは異なり、市場通りは食材目当ての観光客や地元の人達でかなりの賑わいを見せている。
なかなかの活気ね。
「ライア、ユティ。はぐれないようにね」
「「はーい」」
両手で子供達と手を繋ぎ、私は早速市場巡りを開始する。
レジェグラの世界に来てから買い物なんて全然出来てなかったし、ちょっとこの際だから色々と食材を買っておきましょう!