第12話 自分の事のように
「それじゃあね、2人とも。
"魔女見習い"の鍛練、頑張って」
「ありがとうございます。魔女ヒルダ」
「私の魔女の刻印のコードを渡しておくわ。
何か困った事があれば空に向かって描きなさい」
「感謝します。魔女タチアナ」
時間はもうすぐ正午。
魔女の夜も閉会し、魔女の塔に残っていた魔女達も次々と「また次の魔女の夜で」と別れを告げ、霧の向こうへ去って行った。
皆やっぱりホウキとか掃除機とか絨毯とか用意してたのね……中には飛竜とか幻想種の使い魔の背中に乗って帰るような魔女も居たけど。
「(ライア達にも使い魔をあげた方がいいのかしら……?)」
実家に居た頃はペット飼ってなかったからなあ……生き物に触れるのはいい事だけど、死んじゃった時とか可哀想だもんね。
従姉妹の子供も飼ってたカブトムシが死んじゃった時は相当ショックで、しばらく御飯が喉通らなかったって言ってたし……。
「ディケーの鍛練が辛くなったら、いつでも私の所に来なさいな」
「心に留めておきます。魔女セレン」
「魔道具の作成に悩んだ時は私を訪ねて。
魔女って事を隠して、町で魔道具屋をやってるの」
「いずれ伺わせていただきます。魔女プレア」
……いや、それにしても2人とも大人気過ぎない!?
中にはお古だけど、杖とか魔道具をくれた魔女も何人か居たわよ!?
魔女アルエスと魔女シャウムが戦死して、2人欠員が出たから、久々に新しい魔女が加わるかもって事で浮き足立ってるのかしら……? 基本的に皆長生きだから顔ぶれがずーっと変わんないのも、それはそれで退屈なのかしら……。
まあ、ライアとユティに元々魔女の素質があったからこそ、ディケーも拾って育てようと思ったんだろうしね。
「ディケー。
あまり2人に厳しく過ぎてはダメよ」
「久々に素質のある子達が現れたのだから、鍛練は慎重にね」
「山奥に引き籠っているだけでは才能を腐らせてしまうわ。
魔女だという事を上手く隠しながら、町で暮らしたらどう?」
「あ、はい……考えておきます……」
そして、私への圧が結構強い件。
親戚のオバチャンですかアンタら!
いやまあ、子供達の事を思って言ってくれてるのは十分伝わって来るんですけどね……確かに、ずっと山奥の山小屋暮らしってのも、逆に良くない気はしてたのよね。
最初は「ずっと山奥に引き籠ってればレジェグラの主人公達と戦わずに済む」って考えてたんだけど……。
「(魔女ヒュプノの未来視の事もあるし、色々な可能性を考慮した方がいいのかもしれない……)」
レジェグラのゲーム本編ではあり得なかったようなルートだって、今だったら選ぶ事が出来る! まだ間に合う!
本来のライアは魔剣士、ユティは魔導師だったけど、それとは全然違う職業に就く事だって出来るはず!
勿論、最終的に選ぶのはあの子達だけど……せめて、子供の頃からそれとなく促すくらいはしておきたい……。
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「じゃ、また会いましょ」
最後の魔女がホウキに乗って飛んで行く。彼女達の言う通り、次に会うのはまた10年後になるだろう。
その時、ライアとユティは15歳になっているはず。"魔女見習い"から正式な魔女への昇格を認めて貰った上で、本来の魔剣士や魔導師とは別の道を歩ませる……うーん、あと10年か……。
「ふう、これで残ってるのは私達だけか……」
「はー、つかれたー」
「ベリー、タイヤード」
「あ、2人も元の喋り方に戻ったのね」
皆居なくなった事で、よそ行きモードをやめて普段の2人に戻っていた。
でも私が作ってあげた猫耳フード付きの魔女のローブは気に入ったようで、脱ぐ気配はない。まあ、可愛いしね。
雨の時にしか着れないレインコートとかみたいな気分なんでしょう。
「かーさま。
らいあたち、がんばれてた?」
モチのロン!
たった1日だけだったけど、母様は大変誇らしい気持ちでした!
よく頑張った! 感動した!!
「2人とも、とっても頑張ってたわ。
改めて"魔女見習い"の承認おめでとう。
自分の事のように母様は嬉しいです」
私は跪き、2人の目線になって、そう言った。
そうしてライアとユティの2人を両手で抱き締め、頬擦りする。
この年頃の子供特有の、体温高めのぷにぷにの頬っぺたが、今日は一段と暖かく感じられた。
「えへへ」
「マム。ラブ、ユー」
「私も2人が大好きよ。
帰ったら、美味しい物をたくさん食べましょう。
美味しい物を食べてこその人生なんだから。
たくさんの人に会って、たくさんの物を見てね。
……母様の2人への願いは、それだけです」
……この幸せをずっと続かせたい。
夢で終わらせたくない。
ゲーム本編の破滅的なルートへは絶対に進ませない。
2人が魔女の塔に認められた事で、むしろ、私の中の破滅回避への決意は更に強くなるのだったーーー。