第11話 私の世界、夢と恋と不安で出来てる
『5番テーブルさんにピラフ。
あと食後にコーヒー、ホットで!』
『あいよ』
夢を見た。
レジェグラの世界に来る前の、私の夢。
大魔女ディケーに転生する前の、実家の喫茶店を手伝っていた頃の、私の夢を。
『なあ、無理しとらんか』
『えっ?』
『その、あれだ……。
親の口から言うのも何なんだが……な?』
『あ、ああ~!
いーの、いーの!
あの人、ウチの喫茶店継ぐ気とか全然なかったし!
……だから、いいの。私が継ぐから』
『しかしなあ……』
結局、私がレジェグラの世界に来ちゃったって事は、元の世界の私に何かがあったんだろう。
最初は夢だとばかり思っていたけど、何度も夜を繰り返すうちに本当にレジェグラの世界、少なくともレジェグラの世界観にそっくりの異世界に来たのは間違いないと、今は確信している。
『常連さんも多いんだし、お父さん達の代で終わらせるのは勿体ないって!』
ごめんなさい、お父さん。
約束を破りました。
私は、あなたのお店を継ぐ事が出来なくなりました。
今は、こっちの世界でやるべき事があるから。
戻って来られるのか、このままこの世界に骨を埋めるのか、それとも寿命が尽きる前に誰かに殺されるのか、それは分からないけれど……。
『人生長いんだから、道中楽しみましょ?』
今は、この世界で出会えた最愛の娘達の成長を見守りたいんです。
最後まで。彼女達が運命を乗り越えるまで。
だから、
『今はまだ、旅の途中なの』
****
「起きなさい、ディケー。起きなさい」
誰かに身体を揺さぶられている気がする。
うーん、昨夜はちょっと魔女の皆さんとワイン飲み過ぎたみたい……お酒にはそこそこ強いつもりだったけど、異世界のワインともなると、私の世界のワインとはアルコール度数がちょっと違うのかも……もー少し寝ときたいよ……。
「ん、んん~っ………?
お、お母さん、あと5分………。
あと5分寝かせて……オナシャス……」
「……誰がお母さんですか」
……えっ!?
「目が覚めましたか」
「ぐ、大魔女!?」
……やばい!
実家で寝てるノリで、お母さんとか言っちゃったよ!
そうだった、昨夜は皆で飲み明かして、そのまま魔女の塔に泊まったんだった!
しかも起こしに来たのが此所で一番偉い人とか、もう最悪ですやんか!
「貴女の娘達はもう起きてますよ。
魔力切れを起こした時は心配しましたが、一晩寝て、もう回復したようです」
「そ、そうでしたか……良かった」
うっ、怖い。
綺麗過ぎて怖いと言うか、怖くて綺麗と言うか……。
「魔女は皆から愛されるように先天的に美女、美少女として生まれる傾向にある」って設定資料集にはあったけど、大魔女は群を抜いて美魔女でいらっしゃるから、尚更だよ……全然笑顔見せないもんね。鉄の女って感じ。
「……涎を拭きなさい。
髪も整えなさい。
母親ならば娘達の前でみっともない姿を見せぬよう、努めなさい」
「は、はい、お母さん!
……じゃなくて、大魔女!」
うーん……。
多分なんだけど、私がライアとユティを育てようとしてるみたく、ディケーもこの人に……大魔女に育てられたんじゃないかなあ?
細胞レベルで、何となくこの人には逆らえないよう身体が反応しちゃうと言うか……設定資料集にはその辺りの事は載ってなかったからなあ。
てか、昨夜の魔女の夜の時は気づかなかったけど、この人、意外にオカン属性強い?
ハリウッド女優みたいな雰囲気だから、てっきり自分にも周囲にもメチャ厳しい仕事人タイプの人だと思ってたわ……。
「貴女の娘達は下で朝食を摂っていますよ。
貴女も早めに来なさい、無くなるわよ」
「す、すぐに支度いたします!」
私、朝食はガッツリ食べないと一日の力が出ないタイプなので、是が非でもいただかせてもらわねば……!
「……幾つになっても相変わらずね、ディケー」
「(えっ……?)」
……今、あの人、ちょっと笑った?
****
「あ、母様」
「おはようございます、お母様」
「お、おはよー……ごめんね、寝過ごして」
私が魔女達とワインを飲み明かした塔の階下の大広間は、朝食会場に早変わりしていた。寝ている間に使い魔達に準備させたのね、きっと。
「母様も座って」
「こちらへどうぞ、お母様」
「そ、そうね」
そして先に朝食を摂っていたライアとユティ。
相変わらず猫被りのよそ行きモードで頑張っている。違和感あるけど、これはこれで成長を感じられるわ。
それに確かに大魔女の言っていた通り、魔女の夜で披露したパフォーマンスで枯渇した魔力が完全に元に戻ってる! いえ、むしろ昨夜より総量が増えてない!?
「(他の魔女達と出会った事で刺激されたのかも……)」
ディケーに転生直後、それとなく2人に聞いてみたんだけど、ライアとユティがディケーに拾われてまだ半年程しか経ってなくて、その間ずっと外界から隔絶された山小屋で3人で暮らしていたらしい。
他の人に出会う機会が無かった分、新たな出会いが2人を精神的に成長させたのかもしれないわね……。
「母様の分も用意しておきました」
「冷めないうちにどうぞ」
「ありがとね、2人とも」
ライア達が私のために事前によそってくれたお皿には、バゲットやスクランブルエッグ、ベーコンやミニトマトなんかが乗っかっていた。それにジュースも。
ちょっとしたホテルの朝のバイキングみたいな感じ。
トカゲの丸焼きとかじゃなくて良かった……この辺りは本当に助かる。原作は日本人スタッフが作ったゲームだし、融通が効いてると言うか……。
……いや、よく見るとジュースがボコボコ泡立ってるし、トマトもちょっとドス黒い色してない!? 大丈夫!?
「じゃ、じゃあ、いただきまーす」
……まあ、子供達や他の魔女達も気にせず飲んだり食べたりしてるし、問題ないかあ。
お昼頃にはブロケナの港町に戻らなきゃだし、朝はしっかり食べておかないとね!