第10話 I'm a dreamer
「よかったねー、ディケー。
おめでとー」
「えっ?
……あ、ああ、魔女ヒュプノ。
ありがとう。貴女の研究成果も興味深かったわ」
ライアとユティがついに大魔女から正式に、私の養女兼弟子として認められた後。
今回の魔女の夜は閉会となった。
他の魔女達も新しく"魔女見習い"となったライア達を祝福してくれたけれど、当のライア達は成果披露のパフォーマンスで魔力を殆ど使いきってしまい、本来なら普段寝ている時間帯も手伝って、今は休憩室で完全に夢の中だ。
多分明日まで起きないと思う。今夜は魔女の塔に泊めてもらうしかなさそうね……。
「いい子達を見つけたねー。
これから、グングン伸びてくと思うよー」
「そうね。私もそう思ってるわ」
そんな折り。
魔力切れを起こした子供達を休憩室のベッドに運んで、皆で1階の大広間のミニパーティの会場に再び戻った後。
「熟睡の魔女」の通り名を持つ、魔女ヒュプノに話し掛けられた。私の前に研究の成果を発表してた、ふわふわした感じの雰囲気の子ね。
いや、多分ディケーより年上の先輩なんだろうけど、見た目がちょっと幼い感じと言うか……着ているローブもダボッとしててサイズ合ってない感じだし……でも銀色のふわふわした髪が照明に照らされてキラキラしていて、何処か幻想的な雰囲気の魔女だった。
「それでねー。
すこーし、気になる事があってー」
「んぐっ……き、気になる事?」
ライアとユティが"魔女見習い"として認められた安堵から、少し気が緩んで空腹感からテーブルの上のデザートをヒョイヒョイとパクついていた時に話し掛けられたもので、少々バツが悪い。
「ちょ、ちょっと待っていただけるかしら?
の、飲み込むから」
「待つよー」
……だって美味しいんだもん!
3人で山奥で暮らしてた時もホットケーキを焼いたりしてたけど、こんなにズラッと並んだデザートを食べるのはこっちの世界に来てから初めてでさあ! やめられない、止まらないってやつだったんですよ……。
「大魔女達の前では、敢えて話さなかったんだけどねー」
「?」
「私の見てた夢の中に、ディケーが出て来たんだよー」
「えっ……?」
デザートを摘まむ私の手が止まる。
そんな私の隣に並んで、ヒュプノもまたデザートをヒョイヒョイ摘まんで頬張りながら、話を続ける。
「んぐんぐ……。
夢の中のディケーは、世界を壊そうとしててねー。
ディケーを止めようとしている誰かと戦っててー。
『来るなら来なさい。私が全て破壊するわ』
って、そう言ってたんだよー」
「(それって……!?)」
レジェグラの終盤で、バトル開始前にディケーが主人公達に言う台詞と同じだ……!
「まあ、私の予知夢って当たる時もあれば外れる時もあるんでー。
あれが未来のディケーなのか、それとも別の世界線のディケーなのかは分からないんだけどー」
今の私はきっと、強張った表情をしているんだろう。
そんな私に視線を向ける事なく、ヒュプノは依然デザートをヒョイヒョイ摘まみながら、ポツリと呟く。
「……ちょっとした切っ掛けで、人の心は移ろいやすいからー。
闇に落ちないよう、気を付けてねー。
私は、ディケーとは戦いたくないんでー。
……まあ、私じゃきっと勝てないとは思うけどー」
念押しするように。
小さくニコッと笑って。
「じゃーねー。
また次の魔女の夜でー。
私はそれまで、ふあぁ……また眠るよー」
魔女ヒュプノは舌で指先をペロリと舐めて、私を一瞥してクルリと小さな背を向けて。
けだるそうな足取りで、のそのそと魔女の塔から出て行くのだった。
「(未来は、まだ変わってない、ってコト……?)」
そんなヒュプノの背中を見送りながら、思う。
ライアとユティが"魔女見習い"と認められて、レジェグラ本来のストーリーの流れとは変わり始めたと思ったのに……。
肝心の私が、まだ本来の歴史に囚われている……?
私はゲーム本編のディケーのように邪教団を設立するつもりも、邪神を召喚するつもりも毛頭ない。今の流れで行けば、私ではない別の誰かがそのポジションに着くんじゃないかとばかり思ってたけど……。
「(……ゲーム本来の流れのように、ディケーが闇落ちするターニングポイントが、そのうち来るのかもしれない!)」
レジェグラの設定資料集にはそこまで細かい年表みたいなものが載ってなかったので、それがいつかはまだ分からないけど……一難去ってまた一難、ってコトか。
「(前途洋々とはいかない、って訳ね……)」
三国志で魏の曹操が「天よ我に百難を与えよ」って言う場面があったけど、私も大概与えられ過ぎじゃないですかね!?
ついこの間、彼氏と別れたのも百難の一つだったのかなあ、かなあ!?
「魔女ディケー。
あちらで一緒にワインでもどう?」
「ええ、ぜひ!」
……考えても仕方ないし、お酒でも飲むかあ。
「ディケー。
あの子達の使い魔はもう決めていたりするの?」
「イグアナなんてどう?」
「タランチュラとかも案外可愛いわよ」
「杖は南の樹海の古木から削った物がオススメね」
「あら。北の大森林の樹木の方が魔力伝導が良いと思うのだけど」
「ええと……参考にさせていただくわね……」
こうして、魔女の夜は更けていくのだった。




