恩恵と代償
ジェズアルド様は青白い顔で呆然と崩折れた。
あれだけの魔力を消耗したからきっともう逃げることも出来ない筈だ。
私が持っていた剣もスッと姿を消し、手には乳白色のピアスだけが残った。
こちらも魔力が切れたみたいだ。
突然ガシャン!と何かが砕けた様な音に私は顔を上げた。
すると少し離れた所でレティーナ様が座り込んでいた。
「レティーナ様!」
側に駆け寄るとレティーナ様は小さく笑った。
「魔道具も壊したから騎士団も直に来てくれるわ」
レティーナ様の前には大きな石があり、破壊された魔道具の欠片があちこちに散らばっていた。
レティーナ様は私の服の袖を掴み、コテンと私の肩に頭を置いた。
「ロゼ……ごめんなさい」
「何故謝るのですか? レティーナ様は被害者じゃないですか!」
「いいえ、私がもっと冷静にしていたらこんな事態にならなかった。 本当にごめんなさい」
「泣かないでください。 とにかく今はゆっくり休みましょう」
「……貴女、本当に強くて優しいのね。 カッコよかったわ」
「レティーナ様……」
「助けてくれて、ありがとう」
するとレティーナ様はスッと目を閉じ、私の腕の中で眠りについてしまった。
「ロゼ! レティーナ!」
閣下の声だ!
パッと顔を上げると、閣下が護衛騎士達を引き連れて走って来るのが見えた。
閣下は私達の前まで来ると、直ぐ様上着を脱いで私の肩に掛けた。
でもその表情には苛立ちも垣間見えた。
「また傷だらけじゃないか。 さっさと着替えてこい」
「ただの擦り傷ですから問題ありません。 それよりもレティーナ様をお願いします」
「……気を失ってるのか。 一体何があった?」
「ジェズアルド様に私達を逃がした事を咎められたんです。 しかもゴーレムが間近にいたので相当怖かったと思います」
「ゴーレムだと?!」
「はい。 ジェズアルド様が魔晶石を使ってゴーレムを出したんです」
報告しつつ閣下にレティーナ様を預けると、ジェズアルド様の叫び声が耳に入った。
「ぎゃあぁぁぁっ!!」
振り返るととんでもない光景が目に飛び込んできた。
縄でくくられていたジェズアルド様がみるみる老人の姿に変わっていくのだ。
着ていた服も縄もぶかぶかになり、明るいブラウンの髪も真っ白になってる。
そして指輪を嵌めていた手も皮と骨だけになって五つの指輪が全て抜け落ちた。
まるで何者かに搾取された様で思わず隣に立つ閣下の腕を掴んだ。
「魔晶石の、呪いでしょうか……」
「いや、魔力が枯渇したんだろう。 そもそも己の魔力以上の魔法を使えば身体に負荷がかかる。 例え魔晶石で魔力を底上げしても脈流が乱れて異常が出るんだ」
それを聞いて魔晶石が何故黒の騎士にしか与えられないのかが分かった気がした。
こんなの、一歩間違えば命だって失いかねかい。
「レティーナ様が眠ってて良かったかも知れませんね」
「……そうだな」
今のジェズアルド様の姿を見たら益々落ち込むかもしれない。
それだけ憐れな結末だった。
「で、言ってたゴーレムは何処にいった」
「あそこです」
そう言って私は不自然に盛り上がってる築山を指差した。
「……もしかして倒した跡か?」
「はい! 閣下から頂いた魔力でやっつけました!」
「どうやって」
「自分の長剣を出して倒しました!」
笑って伝えたら、閣下は目を瞬かせた後『末恐ろしいな』と苦笑いした。




