【SS】赤毛の猫と過ごす夜
※【二人で交わす約束】後のSSです。
――――
着替えを済ませ部屋に戻ると、ロゼは既にベッドですうすうと小さく寝息をたてていた。
大人二人でも問題なく眠れるベッドにも関わらず、ロゼは枕を抱いてギュッと小さく丸くなっている。
ザクセンに軟禁されていた時の名残だろうか。
だがその姿はまるで大きな猫のようだった。
捕まっていたと言うし、疲れていたんだろう。
とはいえ男の部屋でこうも無防備に寝てしまうとは、まだまだ自覚が足りていない証拠だ。
どうやら俺は『命の恩人兼上司』の立場からまだ抜け出せていないらしい。
一先ず上掛けをかけておこうか。
……相変わらず心地良い寝息だけで起きる気配はない。
ベッドの縁に腰掛け、額の髪に触れても状況は変わらなかった。
ロゼを自室へ連れてきたのは二人きりで話がしたかった、ただそれだけの事。
怪我はどんな具合なのか。
離れていた間に何があったのか。
――いや、そうじゃない。
沢山愛でて甘やかしたい。
本心を確かめたい。
抱き締めて安心したい。
昔を思い出した所為で余計な焦りも出てしまっていた。
……そして行き着いた結果がコレだった。
「本当にこのまま起きないつもりか?」
指で頬をつついてみても、ふにゃりと顔が綻ぶだけ。
本当に無防備だな。
涙を止めようとキスをした時の事を思い出す。
甘えるように涙目で俺を見上げる表情。
それが堪らなく愛おしくて、帰すのが惜しくなってしまった。
もしもあのまま捕まえて暴いていれば、この関係も覆っていたかもしれない。
だが今度は『忠義』なのか『好意』なのか区別がつかず、また路頭に迷う羽目になるだろう。
やはりロゼが答えを出すまで待たなきゃならない。
今度はそっと頬を指で撫でた。
「ロゼ」
「……」
「早く俺の所に落ちてきてくれ」
「……ん……」
するとロゼは眠ったまま俺の指を掴んだ。
そしてその指に唇を寄せた。
「閣下ぁ……」
甘えた声で呼んだかと思えば、またすうすうと寝息が聞こえてきた。
……今のはどう解釈するべきか。
聞いてみたいが、きっとロゼは覚えていない。
考えるだけ不毛だ。
俺はお返しにロゼの頬へ二度、三度と口づけをしてベッドから離れた。
こんな事が続けばさすがに理性が溶け落ちそうだ。
俺は部屋の本棚から数冊を選ぶと、部屋の照明を消して小さなランタンに切り替えた。
そしてゴロリとソファに身体を横たえ本を開く。
当分眠気はこないだろう。
だがロゼが側にいるだけで穏やかな気持ちになれた。




