手探りの可能性
「でもアルフレッド様、前に魔晶石付きの剣では上手くいかなかったですよ?」
「魔力が固まって結晶化した魔晶石と、魔力の出し入れが出来る七鉱石とは性質が違う。 ほら、ピアスを外してみろ」
私はアルフレッド様に言われるまま、閣下の魔力が入った方のピアスを外した。
陽の光に当たると青色が波の様に揺らいで見えて本当に綺麗だ。
するとアルフレッド様は『失礼する』と言って指先でピアスに触れた。
「『フレイム』」
そう呟くと、ピアスの模様がグネグネと捻じれ始めた。
そしてアルフレッド様が指を持ち上げた瞬間、その指に小さな火がくっついてきた!
「え、火?! ピアスから?!」
「ピアスの中にある魔力を使って火を起こしたんだ。 このまま同じ事を繰り返していくと中の魔力が減って乳白色に戻る」
「そうですか……」
そうしている内にアルフレッド様の指先についてた火も小さくなって消えてしまった。
「魔法を使う為に詠唱するのも、言葉を介して出したいものをイメージしやすくする為だ。 だから君でも鍛えれば中の魔力を使って魔法が使えるかもしれん」
「かもしれんって……仮定ですか」
「そりゃそうだろ。 これまでセロが七鉱石を使った前例がないんだから」
「ですがロゼさんなら出来るかもしれないって考えてるんですよね? アルフレッド様は相変わらず部下思いですね」
側で見ていたユーリ様がクスクスと笑ってる。
するとアルフレッド様がムッとした様子で眉間に皺を寄せた。
「実験体がいるんだから使わないと損だってだけですよ。 ユーリ殿こそ止めないんですね。 確かセロは魔力を取り込むと体調を崩すって話でしょう」
「そこはきっと魔晶石と同じ原理でしょうから問題ないと私も考えています。 私個人としてはロゼさんが強くなればなるほどヴランディ家は安泰になると思っているので、ぜひ頑張って頂きたいです」
「ユーリ様、本当ですか?!」
「えぇ、ですからロゼさんはこの先もずっとヴランディ家にいて下さいね?」
「承知しました! 全力でヴランディ家をお守りします!」
「……おい、多分そういう意味じゃないぞ」
「アルフレッド様! 早速ご享受お願いします!」
「……分かった」
意気揚々と教えを乞う私を他所に、何故かアルフレッド様は憂い顔だった。
「気を取り直してやってみるか。 さっきみたいに手にピアスを置いてみろ」
「こうですか?」
「そうだ。 最初はそうだな、そのままグッと握ってさっき見た火を思い出して『フレイム』と唱える」
「火……」
確かあれは指先に火がついてて、マッチみたいに温かかった。
あんなふうに簡単に火が起こせたら野宿する時にかなり役に立つだろうな。
明かりにもなるし、取ったウサギを焼いたり出来るし、寒さだって凌げるし……。
「長い!!」
「ひぇっ!」
空想の中にアルフレッド様の怒号が飛んできてびっくりした!
「長すぎる。 今絶対に余計な事考えてただろう。 いろんな事を考えてると何がしたいのか分からなくなる。 そんな事じゃ魔法を発動させる前にやられてしまうぞ。 絵を描く様にシンプルに考えろ」
そうか、絵を描くようにシンプルに、シンプルに……。
火、火、火……。
あれ、火って赤? オレンジ?
あれだけ料理してても、いまいちどんな形だったか思い出せない。
確かコンロの火って青白い火だったよね。
いや、真っ青だったかな。
どうだっただろう。
「……混乱してきました」
「絵を描いた事位あるだろう」
「……小さい時に少しだけ」
そう言えば父といた時は素振りばっかりしてたし、雨の日は母に料理を教えてもらっていた。
まさかこんな所に弊害があるとは。
魔力はすぐそこにあるのに使えない。
期待に応えたいのに出来ない自分がもどかしい。
「……やっぱりセロだから出来ないのでしょうか……」
「嫌なら止めておけ。 いきなり出来るものでもないし、出来ない事があってもそれが普通だ」
「普通……ですか」
「あぁ」
するとアルフレッド様が青緑の瞳でジッと私を見据えた。
「俺が何故君に難題をやらせるか分かってるか?」
「都合のいい実験台……」
「そうだ。 それだけ君に期待しているんだ」
「え……?」
「これまでの固定観念を尽く覆してくる君がどんな力を秘めているのか……いわば可能性の原石だ。 だから色々と君に頼むし頼まれてほしい。 だが負担になるなら無理強いはしたくない」
真っ直ぐ射抜くような眼差しに胸の奥が熱くなる。
アルフレッドの言葉にはいつも嘘がないからだ。
「やります! 何でもやらせて下さい!」
「よしよし、言質取ったぞ。 ではそのままベルトラン伯爵の所に行って来い」
「え、良いんですか?」
「時間がないと言っただろう。 使い方さえ知っていればもしかしたら奇跡が起きるかもしれんだろ」
「神頼みですか……」
「違う、君頼みだ」
思わぬ台詞に背筋が伸びる。
隣で見ていたユーリ様も小さな声で『仕方ないですね』と呟いた。
そしてアルフレッド様は腕を組み僅かに口の端を上げた。
「今度はちゃんと態勢を整えてから任務にあたってくれ」
「はい!」
私はメイド姿にも関わらず、胸を張って敬礼をした。




