新たな来訪者
オールナードにもようやく日の光が差してきて、辺りが明るくなってきた。
本来ならランタンの光はもう必要ない。
でも魔晶石を探すために、ランタンで辺りを照らしながら歩き続ける。
ついでに赤い瞳の男も出てこないかと願っているけど、出てくるのは救いようの無い賊ばかり。
暫く魔物刈りを止めていたからか、その数も多い。
魔晶石探しよりも、賊の取締にも力を入れてもらいたい。
「この石も駄目か……」
何の反応も示さない石を見て、また肩を落とす。
入口付近で見つけたって言ってたから奥に行けばもっと簡単に見つかるのかと思ってた。
とにかく地面に石が落ちていれば、それにランタンの光を当てる。
石の中に緑色に発光する箇所があれば、魔晶石が含まれている可能性があるのだ。
でもこれで本当に魔晶石が入っているとは限らない。
これを施設に持って帰って専門家が調査を行い、採掘出来て初めて『発見』したことになる。
鉱石探しというのは地道な作業なんだと身を以て知った。
「でもこんなの焦れったい!!」
こういうちまちました作業は私の性に合わない。
こうなったらもっとそれらしい場所へ行こう。
私はランタンの灯りを消し、木々の生い茂る方へと進路を変えた。
いわゆる獣道だ。
多少危険度は上がるけど、その分賊に遭う頻度は減るし、目的地に着くのが断然早い。
私は少し傾斜になった獣道をずんずん進んでいった。
途中何度か魔物と遭遇しながらも、草木を掻き分け目的地を目指す。
その道中、ふと疑問が浮かんだ。
なぜ叔父はこんな危険な森を所有していたのか。
園遊会だって定期的に開いていたし、勿論そこに貴族も参加していた。
彼らは、この森に危険種の魔物が住んでる事を知らなかったのか。
それともそのリスクを冒してまでも参加する価値があったのか。
今だから気づく違和感。
もしかしたら、叔父はまだ何かを隠してるのかもしれない。
そんな事を考えていると、緑の絨毯を敷いたような小高い丘に辿り着いた。
下を見下ろすと、ここら一帯岩肌が剥き出しになってる。
岩壁伝いにランタンを当てていけば、どこかで魔晶石が見つかるかもしれない。
でも何かおかしい。
「こんなに凹凸があったかな……」
目を凝らしてみると、岩壁に所々抉れた様な跡が見えた。
既に調査団が入って発掘作業が行われたのかもしれない。
ならここら一帯は掘り尽くされてるかもしれない。
だったら他を探さなきゃだ。
でもまた地道に石を探すのも骨が折れる。
折角来たんだし、念の為に降りて確認しようと身体を乗り出した。
その時だ。
向こうの茂みが、ガサガサと大きく揺れた。
魔物が出たかと慌てて身を潜めたけど、何やら人の声が聞こえる。
「おい、一体いつになったら搬出ルートが完成するんだ? 毎回これだと時間がかかり過ぎる」
「申し訳ありません。 最優先で準備しておりますが、何せ騎士団の奴らも最近出入りが多いもんですから……」
「ったく、厄介な話だな」
一体何の話だろう。
私は身を屈め、そろりと下を見下ろした。
腰から剣を下げ、簡易な甲冑を身に着けた三人の男に、その背後を守るように立つフードを被った怪しげな人物。
そのうちの一人をみて私は大きく目を見張った。
(ジェズアルド様……?!)
私は思わず頭を引っ込め思考を巡らせる。
なんであの人がここにいるんだろう。
ルートがどうとかって言っていた。
ここに迷わず来る為に?
それは何の為に?
私はもう一度、そっと頭を出して下を覗いた。
「おい、まだこの場所は騎士団の奴らには気づかれていないだろうな。 せっかくの宝の山を横取りされる訳にはいかないんだからな」
「あれから周囲に妨害用の魔道具を置いてますので、そう簡単にはここに辿り着く事は出来ない筈です。 ですが、我々にも影響がでますのでなかなか作業は難航しております……」
従者らしき人の話を聞いて、私は思わず周囲を見回した。
私がいる丘にはそれらしき物は見当たらなかったし、道中にも怪しい気配は感じなかった。
何よりここに辿り着けてる。
という事は、魔道具が置かれているのはきっと崖下の周りだけ。
頭上から捜索されるとは思ってなかったみたいだ。
とにかく彼らは騎士団が調査している事を好ましく思ってない。
それだけ知られたくない事がここで行われてるのか。
もしかして、私達と目的が同じ魔晶石の発掘?
でもこの領地の所有権は叔父が称号を返還した為、国側にある筈。
許可がなければ出入り出来ない……。
どっちにしても、報告しなきゃだ。
でも証拠もないのに、どうやって?
さすがに信憑性のない話を鵜呑みにしないだろう。
ならもう少し情報が欲しい。
私は再び、少しだけ頭を出して下を覗いた。
すると、フードを被った人物がこちらに気付いた。
ゾッと背筋が凍る。
(まずい! 赤い瞳の男だ!!)
私は急いで森へと駆け込み、丘から離れた場所を目指した。
まさかあんな形で遭遇するとは思わなかった。
何でジェズアルド様と一緒にいたんだろう。
本当に彼がベルトラン伯爵を襲った犯人と同じなら厄介だ。
彼はきっと私の顔を知ってるから追ってくる筈。
ここで捕まれば、今聞いた話を持ち帰る前に私は消されるだろう。
……いや、こんな複雑なオールナードで無闇に人探しなんてリスクが大きい。
拓けた道に出なければ逃げ切れるかもしれない。
ただそうなると、森の外で待ち伏せされる可能性が高い。
今すぐ森を出るのは危険かもしれない。
(面倒な事になっちゃったな……)
となると、急いで隠れていられる場所を探すのが先決だ。
私はジトリと滲む汗を腕で拭い、昔使っていた潜伏場所を探す事にした。




