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道標を探して

「人命救助したのに犯人扱いされたのか。 それは災難だったな」


「いえ、苦ではありませんでした」


「……投獄されたんだろ?」


「はい。 ですが食事には魔力が殆ど入ってないのですごく美味しかったです。 それにベッドもありますし、備え付けの毛布なんか身体全体包まれる位に大きくて感動しました!」


「……君には大した罰にはならないみたいだな」


「セロには、ですね。 あれなら幾らでも入っていられます」



 底辺の生活をしているセロだったら、寧ろ入っていたいと思うかもしれない。

 寝床食事付きなんて、極上の宿と相違ない。


 感動した事をありのまま報告すると、アルフレッド様は苦々しい顔で溜息を漏らした。

 うん、常に極上の生活をしている人達にはこの感動は伝わらないよね。


 レティーナ様達と別れた後、私は約束通り釈放された。

 色々気になる事はあったけど、先に昨夜の報告をと、王城の書斎室まで来ていた。


 まだ日が高いから、薄地のカーテンを閉めていても室内が明るい。


 その窓の前に置いている執務机は、いつもは閣下が使用している所。

 でも今日は副官のアルフレッド様が、山積みになった書類を前に座ってる。



「まぁ第一発見者となれば、例え騎士団員でも疑われるものだ。 今回は運が悪かったと思え」


「はい。 で、閣下は……」


「アイツなら昨晩からレティーナ嬢の護衛騎士に就いたから暫く不在だ」


「護衛騎士、ですか……」



 それを聞いて少しホッとした。

 護衛騎士なら、花の香りが移ったのも頷ける。


 不意にクスッと小さな笑い声が聞こえた。

 顔を上げると、アルフレッド様が山積みの書類から顔を覗かせニヤニヤしてる。

 私と閣下の関係を知ってるからって、それはもう意地が悪そうに。



「何だ、構ってもらえなくて淋しいのか」


「淋しくなんか、これっぽっちもありません!」


「何だ、張り合いがないな」


「だって、花の香りをさせてる閣下なんて、閣下じゃないですから……」


「花の香り? 何の話だ」



 『それは……』と 口を開きかけたけど、私が思っている事はいわゆる子どもの我儘みたいなもの。

 嫉妬なんて、自分が特別だなんて、思っちゃいけない。


 『何でも無いです』と呟くと、アルフレッド様は目を瞬かせた後、机に肘をついて手の上に顎を乗せた。



「あいつは王族で、この国を守る騎士団長だ。 その判断に迷いやブレがあってはならない」


「……はい」


「だが、女の匂いが付いてたら気になるよな。 そこん所は人一倍鈍感だ、戻ったら叱ってやれ」



 にやりと口の端を上げるアルフレッド様を見て、私の心の強張りが少し解けた様でホッとした。

 するとアルフレッド様も小さく息をついて、書類の山から一番上の用紙を手に取った。

 


「まぁ護衛騎士を辞めさせたけりゃ、一刻も早く犯人を捕まえればいい。 犯人の特徴とかはないのか?」


「赤い瞳の男です。 あの身のこなしだと相当な剣の使い手です」


「……シュクル族か。 だとしたら厄介だな」


「そうなんですか?」


「奴らは君と同様、魔力を持たない分戦闘能力は非常に高いと聞く。 貴族の護衛に志願する者もいる位だ」


「では暗殺者になる人も……?」


「勿論。 少数民族の彼らも生き抜くのに必死なんだろう」


「そんな……」



 あれ程の腕の持ち主なのに、人殺しにならなきゃいけないなんて、やるせない気持ちになる。 

 汚れ仕事は基本底辺の人間の仕事。

 魔力量が少ない者は、まだまだ不遇な地位にあるのか。



「因みにベルトラン伯爵からは犯人の姿が見えてなかったらしく、手がかりはない。 襲われる心当たりもないらしい」


「ではベルトラン伯爵が狙われたのは偶然でしょうか」


「どうだろうな。 彼は義兄のグラッセン公爵と鉄鉱会社を運営している。もしかしたら何かしらの取引で揉めていたのかもしれない」


「その線だったら、グラッセン公爵が怪しいということですか……」


「いや、グラッセン公爵はあの会場からでていない。それは周りが証言している」


「……」


「まぁ、その辺は専門家に任せるしか無い。で、君が出来る事は真犯人を捕まえてくることだ」


「……」


「どうした」


「アルフレッド様は、どうして私が犯人だと思わないのですか?」


 

 私の問いかけに、アルフレッド様は目を丸くした。



「何だ、本当にやったのか?」


「やってません!」


「君みたいな正義感の塊が人を傷つけるとは思えない。 まぁ力が強すぎて巻き込んだり建物を破壊したりはあるかもしれないが」


「う……」


 

 確かにその方が可能性大だ。



「例えセロでも見習いでも、君は我々の仲間だ。 だから信じてもいるし、何かあれば守ってやる。 それが我々の役目だからな」 



 アルフレッド様の口から閣下と同じような台詞を聞いて、私は心底驚いた。


 『セロは役に立たない』

 『魔力無しは必要ない』


 そんな概念を持たない人達が、騎士団のトップに居るのか。

 理想論だけじゃない、本気で未来を変えようとしてる。

 

 ついていきたい。

 その瞬間を、この目で見てみたい。


 私の中でグッと熱いものが込み上げてきた。



「私、一刻も早く犯人を捕まえて、閣下に突き出してやります!!」


「よし、その意気だ」


「それで私を疑った事、謝ってもらいます!」


「え? あいつ、君の事を疑ったのか?」


「はい。 私が誰かと逢引する為に現場に居たんじゃないかって……」



 それを聞いたアルフレッド様は、額に手を当てて天を仰いだ。

 そして大きな大きな溜息をつく。



「よし、さっさと犯人を捕まえてこい。 そしたらあいつを殴る権利を君にやろう」


「本当ですか?!」


「あぁ」


「ありがとうございます! では早速、私をオールナードに派遣してください!!」


「……え? なぜそうなる」


「身体を慣らしてから犯人を捕まえるんです! 徹底的に懲らしめてやります!」


「何だか物騒だな……。 まぁいい。 丁度君に頼もうと思っていた仕事がある」



 すると、アルフレッド様はパチンと指を鳴らした。

 指先から小さな星が舞ったと思ったら、さっき手に取っていた書類がヒラリと宙を舞い、私の元にやってきた。


 目を通していくと、その内容に私は思わず声を上げた。



「オールナードで魔晶石が見つかったのですか?!」


「まだ入口付近なんだが、魔晶石の欠片が所々で見つかっている。 今はその原因の調査中なんだ」


「でもあそこでは魔晶石は採れない筈では……」


「あぁ、だからオールナードを歩き回れる君に調査を頼みたい」



 そう、今魔晶石が主に採れるのはシヴェルナ王国の北に位置するクルタム山脈。 

 昔はもっと鉱山があったらしいけど、どこも掘り尽くされてしまい、今ではクルタム山脈だけになっている。

  

 因みにオールナードは鬱蒼と木々が茂る深い森だ。

 勿論鉱石が採れるような山なんてないのだが。

 


「わかりました、行ってきます!」


「最近特に賊も増えてるらしいから気を付けて行って来い。 あと、犯人探しも忘れるなよ」


「はい!!」


 私はピンと背筋を伸ばし、敬礼をした。

 

 こんな大仕事に関われるなんて夢のようだ。

 爵位を取り戻す為にも、一つ一つ仕事をこなしていこう。

 胸がワクワクしてくる。


 そして同時に信じてもらえてる、と実感も湧いてきた。



(閣下にも、言ってもらいたかったな……)



 なんて、しんみりしてちゃ駄目だ。

 こうなったら、早く犯人捕まえて、調査も頑張って閣下にも褒めてもらおう。

 

 私は早速屋敷に戻り、オールナード調査に向けて準備を始める事にした。





 そして翌日。

 日が昇り始めたけど、森が深くてなかなか日が差さない。

 オールナードの朝は遅いのだ。

 それでもワクワクしすぎて寝付けなかった私は、早朝にも関わらずオールナードを意気揚々と歩いていた。


 背中には長剣、バックにはロープに救急道具に簡易食料。

 制服には、魔物除けの魔法陣を刺繍してもらった。 

 そして道を照らすランタン。

 原動力はロウソクではなく魔晶石だ。 

 ロウソクよりもずっと明るい上に、明かりが長持ちするなんて凄すぎる。


 そんなすごい石が、オールナードで採れるなんてやっぱり信じられない。

 この七年の間もあったのかな。

 私が単に見逃してただけなのか。

 

 この森はまだまだ謎が多い。


 するとガサガサ!っと茂みが揺れる音がした。

 私は瞬時に音の方へと剣を振り抜き、物陰に潜んでいたものを打ち払った。

 

 『うっ!!』と小さな呻き声が聞こえたと思ったら、大木へと勢いよくぶつかった音が響く。

 そしてズルズルズルと大木から剥がれるように崩れ落ちたのは三人の男。

 彼らは『ば……化物……』と少し身動ぎしつつ、パタリと動かなくなってしまった。


 化け物ってまさか私の事かな。

 だとしたら失礼な話だ。



「でも丁度いいわ」



 オールナードの夜明けはとても遅い。

 だから迷い込んだ人間は、朝になると僅かな光を求めて彷徨い歩くのだ。

 まるで、光に群がる虫のように。



「これなら犯人の手がかりが早く掴めるかも」


 

 私は早速男達をぐるぐる巻きにして、にんまりと笑った。

 



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