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関係を深めるには【公爵side】

「本当にここで良いのか?」


「この廊下の先に育成所があるのはご存知でしょう? 閣下こそ早くアルフレッド様の所へ戻ってください!」


「あいつなら問題ない。 向こうに着くまで見届ける」


「やめてください! 子どもじゃないんですから!」



 真っ赤になったロゼは、全速力で向こう岸へと走っていってしまった。

 マズイ、怒った顔も可愛すぎた。

 俺は思わず天を仰いだ。


 少々やりすぎたかもしれないが、俺を意識させるには充分だったようだ。


 あの様子だとロゼはまだ俺を『命の恩人』程度にしか思っていない。

 まぁ忠誠心は揺るがないみたいだからまだマシだが、好意を寄せる側からすると何とももどかしい。

 幾度と想いを伝えなければ、彼女とは一生平行線のままだ。


 そう思って攻めてみたんだが、そういう俺も、後一歩が出なかった。


 長年国を守ることしか頭になかったんだ。

 駆け引きなんて上手くいく訳がない。

 加えてロゼもあの調子だ。

 彼女もずっと外部から遮断されていた。

 色恋沙汰に疎いのも仕方ない。


 そう思っていたのに、さっきの返答は如何なものか。


 『側に居て欲しい』と俺の我儘に『勿論です』とロゼは笑った。

 

 危うく手を出すところだった。


 彼女への好意を自覚してからは、何かと自分を制御できなくなっている気がする。

 特にロゼが関わってくると重症だ。


 すまん、アル。

 今ならお前の気持ちがよく分かる。

 誰かに好意を寄せるというのは、こんなにも難儀なものなんだな。



「しまった、マフィンの礼を伝え忘れたな……」



 一昨日に続けて昨晩も俺の取り分を置いていてくれた。

 それも律儀に手紙まで添えてだ。


 あれだけ他人に料理を振る舞うのに躊躇していた彼女が、勧んで差し入れてくれたんだ。

 嬉しく無いわけがない。

 しかも『話がある』とあれば会いに行くしかないだろう。


 丁度アルにも用事があったし、午前の演習時間ならロゼもいる。

 顔を出しに行こうと向かった矢先だ。

 

 俺以外にも彼女の魅力に気づいた男が早々に現れたみたいだ。



 あの時一緒にいたのはエメレンス・アンカスター。

 アルフレッドの様な魔術に長けた人間を幾度と排出している名家の生まれだ。

 勿論彼もその血を受け継いでいるようで、数年で『緑の騎士』の部隊長まで上がってきている。


 アルにはまだ及ばないだろうが、なかなか優秀な男だ。


 そんな男が周囲が距離を置く様な彼女にわざわざ声をかけるのだから、きっとそういう事だろう。

 

 彼ぐらいの男なら、上司として後押しする方が良いのかもしれない。 


 だがロゼだけはどうしても譲れない。

 俺以外の男と並んでほしくもない。

 駆け引きは半人前でも、嫉妬心、独占欲はどうやら一人前らしい。


 呆れるような自己分析の末、ようやくアルが待つ演習場へと足が向いた時だ。



「おい、いつまで待たせるつもりだ」



 なんとアルの方から迎えにきてくれた。

 やはりいい奴だな。



「すまん、ロゼを見送ってたんだ」


「え? 演習はどうするんだよ」


「中止だ」


「何を勝手に決めてんだ。 俺にも段取りってもんがあるんだぞ!」


「すまない、事情は外部と遮断してからだ」


「……何だ、そんな神妙な顔して」


「頼む」



 そう、浮かれてばかりでもいられない。

 俺は目配せをしてアルに合図を送った。



「……承知した」



 察したアルフレッドと共に書斎室まで戻ると、部屋に鍵をかけアルフレッドが詠唱を始める。


 空間を切り取り異空間へと変化させる高等魔法を書斎室にかけたのだ。

 これで外部からの干渉が不可能になり、この部屋から情報が漏れることはない。



「相変わらず見事だな」


「おだてても惚気は聞かんぞ」


「俺をなんだと思ってる。 まぁ、遠からず彼女も関係しているが……」


 

 そう付け足すと、アルフレッドは片眉を上げた。

 俺は執務机からペンを取り出し、壁に貼ってあった地図に赤のバツ印を書き足した。



「先日オールナードで討伐にあたっていた軍から報告があった。 五名のチームだったみたいだが、全員が骨折などの重傷を負って戻ってきたらしい」


「何だ、また大型のが現れたのか?」


「あぁ。 しかも人に近い異形だったらしい」


「なんだと……?!」



 アルは目を大きく開き驚愕した。

 俺は視線を地図に戻して話を続ける。



「奴は奇声を上げ、おびただしい量の魔力を放って攻撃してきたそうだ」


「魔力を放つって、まるで人間みたいじゃないか……」


「俺もそう思う。 そしてさっきロゼからある話をきいた」


「……なんだ?」


「セロに『飲めば魔力が持てる』と言って魔晶石を渡した人物がいたという話だ」


「魔晶石で? そんな事あり得るのか?」


「どうだろうな。 だが魔力を持てずに迫害されてきたセロからすれば……」


「……真相はともかく、とびつく可能性がある」


「そうしてセロの体内に魔力が入ったら」


「魔力を消化出来ずに体調不良……ってまさか!!」


「ここからは憶測だが、出くわした魔物の正体が魔力を取り込んだセロかも知れない」


「まさか魔法実験で生まれた魔物って事か?!」


「だから憶測だと言っているだろう。 まだ証拠がない」



 アルフレッドの言う通り、セロだからといって民を、命を弄ぶ行為は許されない。

 だがそれは建前で、セロはこれまでも散々迫害されてきた。

 実際にロゼも蔑まれていたのだから、影で何かが行われていてもおかしくない。


 アルは物凄い剣幕で俺を睨みつけた。



「その魔晶石を渡したって人物を探し出して内情を吐かせるか」


「だから落ち着け。 下手に動けば逃げられる可能性もあるだろ」 


「なら魔物の方を早く見つけて生け捕りだ」


「そうだ、だからお前に話したんだ。 魔物の実態はわからないが、効果のありそうな魔道具を選別してくれるか。 そしてこの話はもう少し保留だ。 いいな?」


「それは構わないが、あまりのんびりはしてられないだろう。 武闘祭もある事だし……」


「そこは何とかしてやり遂げよう。 毎年皆心待ちにしている。 民に不安は与えたくない」


「そうだな、ロゼも出るって言ってたしな。お前の事だからも推薦書出すんだろ?」


「勿論だ。 それだけ期待して良いんだろ?」

「あぁ、任せとけ」


「……程々にしておいてやれよ」


 

 アルが珍しく笑っている。

 余程手応えがあったんだろう。

 ロゼの身体が心配だが、最近のアルは本当に楽しそうだから口も出せない。



「で、他は?」


「何が」


「さっきは俺がわざわざ御膳立てしてやったのに、何もなかったなんて言わないよな?」


「…………」



 あんな話の後だと言うのに、アルは俺への関心も底無しの様だな。

 黙っていると、アルの方からズイッと顔を寄せてきた。



「お前、まさか何も無かった訳じゃないよな?」


「……黙秘する」



 魔法を解除し部屋を出ると、俺は直ぐ様アルから離れた。

 が、アルの方が一枚上手だった。

 身体強化の魔法をかけてまで俺の肩を掴み、足止めさせたのだ。



「……何のつもりだ」



 アルは俺の胸をドン、と叩き口の端を上げた。



「今のお前の原動力は良くも悪くも彼女にある。 ちゃんと捕まえておけよ?」


 

 長年フェリスに片想いしてるやつに言われたくないが、こいつがここまで世話焼きとは知らなかった。

 まぁずっと俺の隣りに居たんだもんな。

 アルフレッドなりの気遣いでもあるんだろう。

 


「検討しておく」



 俺は溜息と共に小さく返事を返した。




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