可能性を切り開くには
「おい、戻ったなら俺の所に来いと言っただろう」
「申し訳ありません! さっき戻ってきたばかりだったので……」
「ロゼは私が引き止めたんです。 そんな風に責めないで下さい!」
「……わかった」
私を庇い、キュッと眉を顰めるフェリス様にたじろぐアルフレッド様。
本当にフェリス様が好きなんだな。
そしてこの状況に一番動揺しているのはリーヴェス教官だった。
「ア、アルフレッド様、本日はどういったご用件でこちらへ……」
「ロゼ・アルバートに用事があってな。 なので今日の演習は不参加だと担当に伝えてくれ」
「承知しました!!」
「よろしく頼む」
フェリス様以外には眼光鋭いアルフレッド様。
リーヴァス教官の自慢の筋肉がすっかり萎縮してしまってる。
まぁこの人の前で平然としてられる人は、この世に二人しかいないんだから仕方ない。
ところで、演習不参加ってどういう事だろう。
「アルフレッド様、ロゼでしたら今日一日私が独占するんですから、連れて行ったら駄目ですよ!」
いつからそんな話になったっけ。
平然としていられる内の一人、フェリス様が爆弾を投下すると共に私の腕にくっついた。
その瞬間、アルフレッド様の顔から一瞬血の気が引いた。
「ロゼ……君というやつは……」
と思ったら私に向けて殺気を放ち、この場を凍らせた。
「……すまんが、フェリス・ハーレンも追加で頼む」
「しょ……承知しました……」
リーヴェス教官は青い顔をしながらも、何とか敬礼をしてこの場に踏みとどまってる。
さすがは武闘会優勝者だ。
「では二人共、行くぞ」
戻って早々に何が始まるのか。
私達はどよめく群衆の間を颯爽と歩いていくアルフレッド様の後を必死に追いかけた。
◇◇◇◇
療養期間に入る前、アルフレッド様は魔晶石について話があると言ってた。
辿り着いた先は、私がいる兵舎とは別棟にある広場。
見習いは入れない、中級クラスの人達が使用する演習場だ。
「ここでは演習でも真剣を扱う。 魔法もより強力だから迂闊に近づくなよ」
深緑の制服を纏う騎士達は、魔物討伐にも出向くとあって剣技もすごい迫力だ。
でも私達の目的地はここではないらしい。
演習場を抜けて向かった先は、騎士が扱う武器が保管された武器庫だった。
「すごい……こんなに種類があるなんて……」
さすが王立騎士団所有の武器庫。
剣だけでなく、鎧や防具などの装備品が山のように置いてある。
本でしか見たことのない武器も多くてついつい目移りしてしまう。
でもアルフレッド様はそれらに目もくれず、どんどん奥へと進んでいく。
「ロゼ、君は主に何を使う?」
「武器の事ですか?」
「あぁ」
「長剣です」
そう答えたらアルフレッド様が苦々しい顔で固まった。
「キアノスの冗談じゃなかったのか。 物騒だな……」
そしてサラッと失礼な事を言い残して再び更に奥へと進む。
アルフレッド様は何やら重厚な扉の前で足を止めると、錠に触れて何かを唱えた。
するとカチャンと勝手に錠が外れた。
重そうな扉をゆっくり押し開いていくと、中はヒンヤリとしていてここにも武器が並べられていた。
種類が限定されているものの、それぞれに緑色の石が装飾されている。
「ここにあるのは『黒の騎士』が扱う武具だ。 『黒の騎士』になった際には魔晶石を与えられ、己の武器に装着が許される」
「ということは、アルフレッド様や閣下のにも?」
「そうだ」
そういってアルフレッド様はキョロキョロと辺りを見渡す。
そこへフェリス様がそっと近づいた。
「アルフレッド様、何をお探しですか?」
「長剣だ。 ここに置いてあるとキアノスが言ってたんだが、見当たらんな」
「それならきっとこちらですよ」
何故かフェリス様は導かれるようにして庫内を歩いていく。
「ほら、ここです」
フェリスさんは武器庫の最奥に、布に包まれた大物が立てかけてあった。
その布を解くと、鞘付きの長剣が現れた。
「あぁきっとそれだ。 よく分かったな」
「三ヶ月前の搬入の際に少し整理をしましたから」
「助かったよ。 だが石はついてないな」
アルフレッド様は鞘から剣を抜き、様々な角度からジッと眺める。
私も一緒に目を凝らしてみると、今私が使っている長剣とよく似ていた。
「もしかしてこれ、父が使ってたんですか?」
「そうだろうな。 長剣を扱える騎士は近年ではルカス・アルバート彼一人だと聞いている。 だが魔晶石がついてないとは思わなかったな」
「……魔晶石って、確か『黒の騎士』だけが装着できるんですよね」
「そうだが?」
「何故父の武器に付いてるんです?」
「何故って、彼も『黒の騎士』だったからだ。 まさか知らなかったのか?」
衝撃の事実に私は目を見開き、ブンブンと大きく頷いた。
確かにそれぐらいの地位にあったなら、閣下と繋がりがあっても不思議じゃない。
なんでこんな大事な事、話してくれなかったんだろう。
「剣の場合は柄頭に魔晶石を入れるのが普通なんだが、どういう訳かルカス殿は装着しなかったみたいだな」
「という事は、ロゼのお父様は魔晶石無しで『黒の騎士』を務めていらしたのですか?」
「その様だ。 まさに超人だな」
フェリス様は目を輝かせて、アルフレッド様も目を大きくして長剣を眺めてる。
娘の私でさえも知らないことばかりで、俄に信じられない。
「暫く使われてなかったようですし、念の為打ち直しましょうか?」
するとフェリス様がまた不思議な事を口にした。
「そうだな、頼まれてくれるか?」
「承知しました」
「フェリス様……さっきから何を……」
「あぁ、びっくりした? 実はうち、鍛冶師の家系なの」
「えぇ?!」
「俺やキアノスもそうだが、ヘーレン家は王族でも贔屓にしている名家だぞ」
「そうだ、ロゼのも特別に打ち直してあげるから後で貸してもらえる?」
「あ、ありがとうございます……」
まさか、フェリス様も打てるのか。
もう情報が次々と出てきて頭が処理しきれない。
「しかし魔晶石がついてないのは誤算だったな。 長剣はこれ一本のようだし、とりあえず修繕が終わるまでこれを使え」
するとアルフレッド様は長剣とは別の剣を私に差し出した。
「これは……?」
「片手半剣だ。 両手でも片手でも扱える代物だ。 長剣のより軽い分小回りが効くぞ」
手渡された剣の柄頭には、澄んだ緑色の石が嵌め込まれている。
「あの、何故これを……?」
「君のには魔晶石がついてないだろう。 それでは困るんだ」
「何に困るです?」
「君には今後、魔晶石のついた剣で訓練を受けてもらう」
「え?!」
「魔晶石の正しい使い方を教えてやると言っただろう? 即戦力にしたいから少々荒療治になるが許せ」
初めてニヤリと口の端を上げて笑うアルフレッド様を見て、ゾクリと悪寒が背中を奔った。
「あの……指導者の方はどなたでしょうか……」
「勿論俺だ」
やっぱり!!!!
「そういえばさっき武闘祭がどうとか言ってたな。 もし出る気があるのなら俺が一枚推薦書を出してやろう」
「え……」
「但し武闘祭までの約一ヶ月間、俺の指導を受けるのが条件だ」
どうしよう。
ダラダラと冷や汗が出てきた。
「メリットは何も武闘会に出る事だけではない。 騎士を目指すとなれば、リリアナ嬢の時の様にいつ魔法や魔法剣を使われるかわからない。 君程の腕ならすぐにでもこの魔晶石付きの剣で慣らしておくべきだと判断したんだがどうだ?」
それは腕を認めてくれた、という事かな。
確かにこれまで魔力を発する魔物とは殆ど対峙したことがない。
アルフレッド様の言うように外の世界に出るんだから、今後どんな風にリリアナ様の時の様な場面に出くわすか分からない。
さっきの騎士達の演習でもやっていたんだからいつかは通る道。
黒の騎士アルフレッド様直々に指導してもらえるなんて名誉な事はない。
……でも素直に思えない自分がいる。
相手がアルフレッド様だからかな。
でも爵位を取り戻す為、閣下を守れる人間になる為にはここで逃げる訳にはいかない。
「お願いします……」
「よし、しっかり鍛えてやろう」
私の返事にアルフレッド様は嬉しそうに、少し悪どい笑みを浮かべる。
この一ヶ月、生きて帰れるよう気を引き締めておかなきゃだ……。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
少しでも良かった!と思ったら↓の☆で評価して頂けると嬉しいです。
ブックマークもお待ちしてます。
今後の励みにしたいのでどうぞよろしくお願い致します!




