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本当の事が知りたくて

 アルフレッド様が出ていって約一時間後。

 点滴も終わり、私はフェリスさんが持ってきてくれた着替えに袖を通していく。



「ロゼ、本当にごめんなさい……」


「もう謝らないで下さい。 フェリス様のお陰で火傷もキレイに治ったんですから」


「ロゼ……」



 フェリス様は申し訳無さそうに私にギュウッと抱きついた。

 気負わせる様な事になってしまって申し訳なかったな。

 


 気づけば窓から見える空が赤くなっていた。

 帰る支度を済ませ、アルフレッド様の到着を待つ。

 


「本当に一人で戻れるの?」


「はい。 ここから部屋まではさほど遠くないですし、身体もすっかり元通りですから」


「そう、じゃあ近くまで見送るね」


「ありがとうございます」



 すると廊下の方からバタバタと大きな足音が近づいてきた。

 そしてカーテンが勢いよく開いたと思ったら、思わぬ人物が顔を出した。

 


「ロゼ!!」


「……閣下?!」



 足音の主はアルフレッド様ではなく、閣下だった。

 大汗かいてるなんて珍しい。



「そんなに慌ててどうしたんですか?!」


「アルから君が怪我をしたと聞いて……」


 

 閣下はハァ、と大きく息を吐き、乱れた前髪をぐいと掻き上げる。

 

 アルってアルフレッド様の事かな。

 ということは、私がリリアナ様と決闘したことも耳に入ってる筈だ。

 ちゃんと報告して謝らなきゃだ。


 でも私が頭を下げるより先にフェリス様が閣下に頭を下げた。


 

「キアノス様、ロゼは巻き込まれただけで何も悪くありません! 決闘だって私の事を庇っての事なんです。 ですから叱らないであげて下さい!」


「フェリス様……」


「分かった。 だがこれだけは言っておく」



 直後、青の瞳が鋭くなった。



「全ての挑発にのっていたらいずれ孤立するぞ。 そうなれば必然的に騎士への道が断たれる。 以後気をつけるように」


「はい、申し訳ありません……」

   


 そうだ。

 もう一人で魔物と戦ってる訳じゃない。


 連携して共に闘うのが騎士というもの。

 ちゃんと周りを見て動かなきゃ、折角頂いた機会を逃してしまう。

 

 自分の不甲斐なさに顔を上げられなくなった。

 けど閣下からはそれ以上のお咎めは無く、私の頭にポン、と手を置いた。



「とにかく無事で良かった」



 途端に声が優しくなった。

 抱きつきたくなるぐらい、その一言に胸がキュウっと締め付けられる。

 


「フェリス、済まないがこの後は俺にまかせてくれないか」


「それは構いませんが、キアノス様もお忙しいのでは……」


「そこは大丈夫だ。 あと、アルのフォローも頼みたい」


「アルフレッド様の? 何故です?」


「決闘後の君達を見ていつも以上に落ち込んでいるんだ。 あのままじゃ仕事に支障をきたしそうだから、慰めてやってくれると助かるんだが」 


「……もう、困った人なんだから」



 するとフェリス様は眉を下げながら小さく息をついた。

 ほんのり頬を染めて。


 どうやらアルフレッド様の一方通行、という訳でもないみたいだ。

 

「ではキアノス様、ちゃんとロゼを送り届けて下さいね!」


「承知した」



 そう言って閣下は私の荷物を肩にかけ、私の手を引いた。

 私は急いでフェリス様に頭を下げ、閣下の歩幅に合わせて歩いた。


 そこまでは良かったんだけど。



 閣下は何故か私の部屋がある兵舎とは反対方向へと歩いていく。

 


「閣下、私の部屋はそっちじゃないんですけど……」


「療養するんだろう? なら俺の屋敷にいればいい」


「え?!」


「兵舎にいると全て一人でやらなきゃならないだろ。 屋敷にいれば身の回りの世話を任せて療養に専念できる」


「何もそこまでして頂かなくても……」


「俺がいいと言ってるんだ。 大人しく聞いてろ」

 


 いつもと違う傲慢な物言いに、私もカッとなって閣下の手を思い切り振り払った。



「嫌です!」


「ロゼ……?」


「そうやって勝手に話を進めないで下さい!」



 さっきまでの穏やかだったのに、私の一言で不穏な空気に満ちていく。

 閣下は私の主張に驚いた様子で押し黙ってしまった。



「……何故私にここまでして下さるのですか? ちゃんと理由を説明してもらうまで動きません!」



 こんな形で聞くつもりじゃなかった。

 でも、ここを逃せば次がない気がして、私は溜まっていた思いをぶつけたのだ。


 でも……幾ら待っても閣下から返事が返ってこない。


 きっと大した理由はないんだ。

 ただ剣が使えるセロが珍しかっただけなんだ。

 

 それなら聞く必要なんてない。

 諦めて話を打ち切ろうと私は顔を上げた。


 

「閣下……?」


  

 今にも泣いてしまいそうな顔だ。

 それを堪えるかの様にギュッと唇を引き結び俯いてる。

 何で?

 何で私よりもずっと、ずっと苦しそうなの?


 理由はわからない。

 でも、私の発言がそうさせたのは確かだ。

 


「行過ぎた発言でした……、申し訳ありません」


「いや、君は何も悪くない。 いつか話さなくてはならない事だ。 それを先延ばしにしていた俺が悪い。 すまなかった」


「……」


「ただ……、まだ上手く伝えられる自信が無い」

 


 ……そして閣下はゆっくりと顔を上げ、私と視線を合わせてくれた。

 


「……どれぐらい療養する予定だ?」


「アルフレッド様からは、一週間は休む様にと言われました」


「そうか……。 なら、その間に必ず君に話す。 だから俺の所で……、側で待っててくれないか」



 あんな顔を見た後に「嫌です」なんて言える訳ない。

 ここは閣下を信じなきゃだ。


 私は『わかりました』と呟き、改めて閣下の後についていくことにしたのだった。








 

 

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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