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負けられない決闘

 午後の演習は剣技、しかも木刀ではなく真剣を使ってだ。

 教官の説明では魔法は禁止、二人一組になって打ち合うというもの。


 真剣の扱いにも慣れておかないと、魔物と対峙した際に本来の力が発揮出来ずにやられてしまう。

 この授業では治癒専門の教員も待機しているので心配はない。


 私としては魔法が禁止なのは有り難いけど、真剣となるとこれまで以上に慎重にならなきゃだ。



「お待たせしましたわ」



 すると向こうから金の巻き髪を風になびかせたリリアナ様が優雅に歩いてきた。

 さすが伯爵令嬢。

 剣をもつ姿は一輪の薔薇のように高貴で美しい。



「セロさん、よろしくお願いしますわ」


「ロゼです。 間違えないでください」


「あらやだごめんなさい」



 さっき迄の顔つきとは打って変わって、オホホと上品に口元を隠して笑う。

 私が熱くなりやすい性格だって事にも気付いて牽制してるんだ。


 でも庭園にいた時とは明らかに違う。

 既に彼女には隙がない。

 訓練生で一番の腕利きというのも頷ける。 



「では打ち合い、始め!!」



 教官の合図に、この場にいる全員がそれぞれ緊張した面持ちで打ち合いを開始した。

 私達二人を除いては。



「ロゼさん、覚悟はよろしくて?」


「はい、よろしくお願いします」


「言っておくけど、手加減は出来ないと思うのでご容赦なさって」


「はい」


 

 私が返事を返した途端、リリアナ様は剣を構え一直線に向かってきた。

 雑念もなければ躊躇もしない。

 きっと彼女は日頃から真剣を使って鍛錬を積んでいる。


 ガキィンッ!!


 剣と剣とがぶつかり合い、耳を劈くような音が響き渡る。

 先手を打って勝とうという魂胆か。



「私の一撃を受け止めるなんてなかなかやるじゃない」


「ありがとうございます」



 剣を弾き距離を取ると、リリアナ様はフフフと余裕の笑みを浮かべて再び剣戟を繰り出す。


 噂になるだけあって、身体能力、瞬発力、剣筋も訓練生とは思えない程に洗練されてる。

 しかも魔物にはない女性独特の靭やかな動きに翻弄されそうになる。

 本当に美しい。



「まだまだいきますわよ!!」



 その後もリリアナ様からの攻撃は絶え間なく続く。

 私も負けずと反撃のタイミングを見計らって受け流していった。





 あれからどれだけ打ち合ってただろう。

 余裕を見せていたリリアナ様の表情がどんどん険しくなってきた。

 

 そしてようやくリリアナ様は、自ら私から距離を取り汗を拭った。



「ふん、セロのくせにホント生意気ね。 目の前にいるだけでも腹立たしいわ。 やっぱり入団するためにキアノス様に身売りしたの?」



 手を止めたかと思ったら、今度は聞き捨てならない台詞を吐いた。



「閣下はそんなくだらない人選をする方ではありません」


「だとしても、魔法も使えないセロなんか連れてくるなんてやっぱり理解できませんわ。 もしかしたら似たような境遇のあなたに同情したのかもしれないわね」


「……どういう意味です?」


「実はキアノス様は、魔法が使えないじゃないかってことよ」


「?!」


「だって魔法があれば大概の事が出来るのよ? なのに魔法はアルフレッド様任せで、自分は剣を使うなんて怪しいじゃない。 きっと公爵家の名を使って団長の椅子を守ってるのよ。 潔くアルフレッド様に団長の座を渡せば……」


 全てを言い切る前に、私はリリアナ様の喉元に剣を突きつけた。

 血が滾ったかのように身体が熱い。



「ヒッ……!」


「言いましたよね。 フェリス様だけでなく閣下まで侮辱するようなら容赦しないって」


「あ、あら……ようやく本気でやり合う気になりました?」


「私が本気を出したら跡形も無くなりますよ」


「何ですって?!」



 するとリリアナ様は何かを呟いた。


 次の瞬間ボォッ!と大きな発火音と共に、沸き起こった炎が私を振り払おうと襲いかかった。



「熱っっ!!」



 咄嗟に飛び退いたものの、左胸元を掠めて痛みが走る。

 よく見ると、皮膚が赤く爛れてる。

 まさかと思ってリリアナ様を見ると、剣が炎に飲み込まれたかのように煌々と赤く燃えている。

 炎タイプの魔法剣だ。



「魔法の使用は禁止の筈です!」


「セロにやられるよりマシよ!!」



 炎はリリアナ様の咆哮と共に膨れ上がり、怒涛の剣戟を繰り出す。

 あんなに疲弊していたのにまだこんな力があったんだ。



「このまま私に凌駕されなさい!!」



 更に威力を増したリリアナ様の剣戟はかなり危険だ。

 暫くは剣を交えず逃げるのに集中しなきゃ焼かれてしまう。



「ハァ……、ハァ……、逃がしま、せんわ……」



 リリアナ様は顔を歪ませ、大量の汗を流す。

 それでも煌々と滾る炎の勢いは止まらない。

 まるで追い込まれて牙を剥く獣の様で、教官達も近づけないでいる。

 

 このままじゃリリアナ様の命が危ない。


 私は焼けた制服を脱ぎ、腰にギュッと巻きつけた。

 そして地を蹴り、リリアナ様の剣が届く所まで間を詰めた。



「貰ったぁ!!」


 

 リリアナ様は思惑通り剣を思い切り振り下ろす。

 今だ。

 

 私は柄にグッと握り、炎剣を薙ぎ払った。


 バキン!!


 そして剣をぶつけ、リリアナ様の剣を真っ二つに折った。


 煌々と燃えていた剣は、リリアナ様の手から離れると 一気に勢いを弱めた。

 私はそれに制服を被せ、地面に叩きつけた。

 ジュウッ!と音を立てたけど、炎が上がることはなかった。


 上手く鎮火出来たみたいだ。

 私は剣を地面に刺し、大きく息を吐いた。


 力を使い果たしたのか、リリアナ様はドサリと地面に倒れ込んだ。

 訓練生達は青い顔をして立ち尽くし、ようやく教官達がリリアナ様の介抱に向かった。

 


「ロゼ!!」



 そんな中、私の元に来てくれたのはフェリス様だった。

 そしてそのまま私に飛びついた。



「フェリス様?」


「本当に無事で良かった!!」


 

 その言葉に私は息を呑んだ。

 フェリス様は身体を震わせて泣いてる。 

 


 「無茶しすぎだよ! 死んじゃったらどうしようかと思ったんだから!」


「すみません……」



 まさか心配されてたとは思わなかった。


 こんな時、どうしたら良いんだろう。

 背中を擦った方がいいのかな。

 慣れない状況に戸惑ってると、フェリス様はグスグスと大粒の涙を流しながら顔を上げた。



「でも、すごくカッコよかった。 ロゼは私の王子様だよ」


 

 大輪の花の様な満面の笑みに、心臓を撃ち抜かれてしまった。

 眩しすぎて思わずクラリと力が抜けそうになった。

 真の勝者はフェリス様だ。



「ほら座って! 今すぐ治癒するから!」


 

 フェリス様はある意味瀕死状態の私を地面に座らせると、焼けた胸元に手をかざした。



「フェリス様、待って!」


「え?」



 間に合わなかった。

 一気に魔力を込めたのか、吐き気に加えて頭痛まで出てきた。



「ロゼ、どうしたの?!」


「今すぐ魔法を、止めて……」


「どういう事……?」

 


 すると、フッと頭上から大きな人影が降りてきた。



「フェリス、そいつから離れろ」



 朦朧としている中で聞こえてきたのは、フェリス様を溺愛するアルフレッド様の声だった。










ここまで読んで下さりありがとうございました!

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