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負けられない決闘

「ロゼ、本当に大丈夫? 教官も今日は真剣を使うって言ってたし、もしも大怪我したら……」


「余程の事がない限り無理はしません。 でもフェリス様や閣下を侮辱した事はやっぱり許せないです」


「そっか……」



 フェリス様が不安げな表情をするから、私は笑って『大丈夫です』と告げた。

 リリアナ様が勝負を挑んできた演習項目は真剣での打ち合い。

 偶然なのかどうかはわからないけど、木剣の演習よりもかなり神経を使う。

 気をつけるに越したことはない。



「お待たせしましたわ」



 後ろから金の巻き髪を風になびかせるリリアナ様が優雅に歩いてきた。

 さすが伯爵令嬢。

 その姿はまるで一輪の薔薇のように高貴で美しい。


 

「セロさん、よろしくお願いしますわ」


「ロゼです。 間違えないでください」


「あらやだごめんなさい」



 リリアナ様はまるで人が違うみたいに、オホホと上品に口元を隠して笑った。

 この人、かなりの猫被りだな。

 庭園にいた時とはまるで人が違う。


 周りでは、相手に剣先を向けて向かい合うだけでも顔が強張ってる人ばかり。

 真剣を使うのにまだ慣れてない証拠だ。

 でもリリアナ様の目は違う。

 笑ってるようで、研ぎ澄まされた刃の様に鋭く私を狙ってる。

 きっと普段から使って鍛錬を積んでるんだ。



「では打ち合い、始め!!」



 教官の合図に、リリアナ様は腰から下げた鞘から躊躇なく剣を抜き、その剣先を私に向けてフフッと笑みを見せた。



「言っておくけど、手加減しないからご容赦なさって?」


「わざわざご忠告ありがとうございます」


「では参りますわよ!」



 リリアナ様は剣を構え直すと、身体のブレを抑えて一気に距離を詰めてきた。

 でもまだリーヴェス教官の方が上だ。


 すると突然リリアナ様が視界から消えた。


 ――ガキィンッ!!


 咄嗟に身体を捻り、左下から襲いかかる刃を受け止める。

 するとそこにはニヤリと笑うリリアナ様の姿があった。

 


「受け止めるなんてなかなかやるじゃない!」



 身を屈めたリリアナ様がそのまま体ごとぶつけるようにして私の剣を弾いた。

 私が思わず後ろへ引くと、リリアナ様は更に追い打ちをかけてくる。



「ハァァァッ!!」



 まるで鎌鼬(かまいたち)のような、空を裂く剣戟。

 一撃一撃は軽いけど気を抜けば身を切られてしまいそうだ。

 魔物にはない女性独特の靭やかな動きと剣を振るう速さ。

 

 きっとこれが彼女の強さだ。

 さすが、噂になるだけある。



「ちょっと、いい加減打ってきなさいよ!」



 暫くして、一方的に剣を打っていたリリアナ様が手を止めた。

 私から距離を取り、肩で大きく息をしながら目を吊り上げる。



「剣を打ち返すタイミングを見極めてただけですよ」


「ふん、セロのくせにホント生意気ね。 目の前にいるだけでも腹立たしいわ。 やっぱり入団するためにキアノス様に身売りしたの?」



 また聞き捨てならない台詞を吐いた。

 私は一旦深呼吸してからリリアナ様に向き直った。



「閣下はそんなくだらない人選をする方ではありません」


「だとしても、魔法も使えないセロなんか連れてくるなんてやっぱり理解できないわ。 もしかしたら似たような境遇のあなたに同情したのかもしれないわね」


「……どういう意味です?」


「実はキアノス様も、セロじゃないかってことよ」



 私はゴクンと息を飲んだ。

 そして柄を握る手にギュッと力を込める。



「ヴランディ家はよくセロを擁護ような発言をするって噂だし、魔法はいつもアルフレッド様任せ。 こんなの怪しいに決まってるじゃない。 きっと公爵家の名を使って団長の椅子に居座ってるのよ。 潔くアルフレッド様に団長の座を渡せば……」


 

 全てを言い切る前に、私はリリアナ様の喉元に剣を突きつけた。

 血が滾ったかのように全身が熱い。


 でも駄目だ、冷静にならなきゃだ。

 きっと私を煽る為の言動に過ぎない。

 それでも。



「言いましたよね。 フェリス様だけでなく閣下まで侮辱するなら容赦しないって」


「あ……、あら……、よ、ようやく本気でやり合う気になりました、の?」


「私が本気を出したら跡形も無くなりますよ」


「何言ってるのよ……、セロが魔法使いに勝てる訳ないでしょう!」



 リリアナ様が咄嗟に何かを呟いた。

 すると次の瞬間ボォッ!と爆ぜた様な発火音が耳を劈く。


 

「熱っっ!!」



 咄嗟に飛び退いたものの、左胸元に激痛が走る。

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 でも絞られるように痛む左半身を見ると、防御服でもある制服が焼け落ち、露出した肌が赤く(ただ)れていた。

 まさか。

 バッ!と顔を上げリリアナ様の方を見ると、剣が炎に飲み込まれたかのように煌々と燃えている。

 炎タイプの魔法剣だ!

 


「魔法の使用は禁止の筈です!」


「セロに侮辱されるよりマシよ!!」



 すると炎はリリアナ様の咆哮と共に膨れ上がり、熱量が増した。

 離れてても肌が焦げる様に熱い。

 あんなに疲弊していたのにまだこんな力があったんだ!



「このまま私に凌駕されなさい!!」



 更に威力を増したリリアナ様の怒涛の剣戟が襲いかかる。

 このままじゃフェリス様や他の人達にまで危険が及ぶ。

 何とかしてリリアナ様を止めなきゃだ!



「ハァ……、ハァ……、逃がしま、せんわ……!」



 私が剣を弾き返す度に、リリアナ様は顔を歪ませ、大量の汗を流す。

 それでも煌々と滾る炎の剣は手放さない。


 駄目だ、何度剣を交えても埒が明かない。

 このままじゃリリアナ様の命が危ない。

 でも下手に近づけば業火が牙を剥き、教官達も迂闊に手が出せない。


 仕方ない、リリアナ様本体を打とう。

 

 私は剣を鞘にしまうと、それを腰から引き抜き構え直した。



「行きます!」



 そしてリリアナ様の剣が届く所まで一気に間合いを詰めた。



「貰ったぁ!!」



 リリアナ様が業火の剣を振り上げた。

 今だ!



「ハァッ!!」



 グッと踏み込み、リリアナ様を狙って鞘入りの剣を振った。


 ――ピシャン!!


 弾けた様な音と共に、煌々と燃えていた剣が宙を舞った。

 そして同時にリリアナ様が地面に投げ出された。

 炎の剣はリリアナ様の手から離れると 一気に勢いを弱めた。

 よし!

 私は急いで焼けた制服を脱ぎ、剣に被せて地面に叩きつけた。

 一瞬ジュウッ!と大きな音を立てたけど、それから炎が上がることなかった。


 よかった、上手く鎮火出来たみたいだ。



「リリアナ様! リリアナ様!」



 あ、リリアナ様に取り巻いてた二人だ。

 二人はぐったりしたリリアナ様を見るなり私を指差し叫んだ。



「あのセロがリリアナ様に決闘をけしかけたのよ!」


「しかも疲弊したリリアナ様を剣で打つなんて非道だわ!!」

 


 そう言って二人はわんわんと泣き出した。

 すると黙ってた野次馬が、また騒ぎ始めた。

 そうか、私が勝ってもこうするつもりだったんだ。

 途端に枷をつけられたみたいに身体が重くなった。


 

「いい加減にしなさいよ!!」



 突然視界を遮られたと思ったら、ふわりと優しい花の香りがした。

 これ、服?

 すると真っ暗な視界の向こうから誰かの気配を感じた。

 


「ロゼが暴走するリリアナ様を止めたのよ?! それのどこが悪いのよ!!」



 すぐ側でフェリス様が声を荒らげて叫んでる。 

 私の心がドクン、と小さく波打った。



「ロゼは魔法剣を手放す為に小手を打っただけよ! そんなのも見えてなかったの?!」


「あ、あの、フェリス様、それ以上は……」



 被せられた服の隙間からフェリス様に声をかけると、私にまでものすごい剣幕で迫ってきた。

  


「ロゼも反論しなよ! ロゼは全然悪くないんだからぁっ!」


「も、申し訳ありません……」


「だからロゼは悪くないから謝らないで!」



 もしかして本気で怒ってる?

 あ、でもフェリス様が泣き出してしまった!

 

 こんな時、どうしたら良いんだろう。

 背中を擦った方がいいのかな。

 慣れない状況に戸惑ってると、フェリス様はグスグスと大粒の涙を流しながら顔を上げて水色の瞳に私を映した。



「……でも、ありがとう。 すごくカッコよかった。 ロゼは私の王子様だよ」


 

 途端に大輪の花の様な満面の笑みに、心臓を撃ち抜かれてしまった。

 眩しすぎて思わずクラリと力が抜けそうになる。

 真の勝者はフェリス様だ。



「さぁ座って! 今すぐ治癒するから!」



 フェリス様は涙目ながらも私を地面に座らせ、焼けた胸元に手をかざした。



「フェリス様、待って!」



 声をかけたけど間に合わなかった。

 フェリス様の魔力が体内をかけ巡り、グラリと視界が歪む。



「ロゼ、どうしたの?!」


「今すぐ魔法を、止めて……」


「え……?」

 

「フェリス、彼女から離れろ」



 朦朧としている中で聞こえてきたのは、フェリス様を溺愛するアルフレッド様の声だった。










ここまで読んで下さりありがとうございました!

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