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貴女は私が守ります

「貴女は確かセロの……」


「ロゼ・アルバートです」


「あ、そう。 全く、盗み見なんて品の無いことをするのね。 これだからセロは……」


「話し合いをされてる雰囲気ではなかったから来たまでです 。 で、御三方はこんなところでコソコソ何やってるんです?」


「別に、セロには関係ないでしょ」


 

 そう言ってリリアナ様は腕を組み、私の前に立ちはだかった。


 

「いい? ここはセロなんかが来る所じゃないの。 分かったらさっさと視界から消えて頂戴」


「そういう訳にはいきません。 私にはやるべき事があるますから」


「セロごときが偉そうに。 由緒あるマーシャル家に従わないと、後で困るわよ?」


「私が?」


「そうよ。 私の一言であなたの家を没落させる事だって出来るのよ? それでも良いの?」


「はぁ……」


「何よその冷めた返事。 ……まさかあなた、貴族じゃないの?」


「……はい」

 


 嘘は言ってない。

 だってアルバート家の爵位は現在停止している。

 だから子爵と名乗れないので平民と変わらないのだ。



「全く、キアノス様ったら何で平民で、しかもセロなんかを入団させたのかしら。 こんなのを入れるぐらいなら、さっさと私達訓練生を騎士に昇格して下さればいいのに。 やっぱりあの冷血漢よりアルフレッド様の方が余程聡明よ」



 閣下を貶めるような発言に私は顔を顰めた。

 アルフレッド様がどんな手腕の持ち主なのかは知らないけど、閣下だって間違いなく人の上に立てるだけの実力を持ってる。

 それをそんなふうに言うなんて許せない。  

 私の中でフツフツと怒りが込み上げてきた。

 


「そんなに騎士になりたいなら、こんな事せずにもっと鍛錬を積んでおいたらいいのでは? これ以上閣下に侮辱するようなら許しませんよ」



 そう口を挟むと、リリアナ様はギッと切れ長の瞳でこちらを睨む。



「全く、セロの分際で私に楯突くなんて生意気ね。 でも、今ので言質とったわ」


 

 するとリリアナ様はビシッ!と私を指差した。



「ロゼ・アルバート。 このリリアナ・マーシャルを侮辱した罰として、私の犬になりなさい!」


「え?」


 今私を指差してるから、私が犬になるって事だよね。

 とうとう人間でもなくなったか。



「待って下さい。 何故そんな理由で私が犬にならなきゃいけないんです?」


「あなたがセロだからよ。 セロが魔法使いに偉そうな口を聞かないで頂戴」



 この人もセロには何をしても許されると思ってる。

 市民を守る騎士でも、セロには容赦なく侮蔑するのか。

 現実はこんなものだ。

 

 するとフェリス様が、私を庇うようにリリアナ様の前に立った。



「いい加減にしなさいよ! そっちが悪いのにロゼまで蔑ろにするなんて、貴族のする事じゃないわ!」


「何いい子ぶってるのよ。 セロを配下に置くなんて皆やってる事よ。 役立たずのセロを有効活用してあげるんだから、寧ろ感謝してもらわなきゃ」

 


 人が大人しくしてればどんどんつけあがり、更には食べ物を粗末にする。

 こっちはついこの前までまともに食べられなかったっていうのに、全くもって許せない!


 どんどん怒りが増してきて、今度は私がフェリス様の前に立った。

 そしてギロッ!と睨み返すと、三人はたじろぎ、ようやくフェリス様から距離をとった。



「いい加減人を馬鹿にするのは止めて下さい。 そんなんじゃアルフレッド様だって振り向きませんよ」


「どうかしら。 結局貴族社会は地位のある者が優位に立つの。 奪う方法だっていくらでもあるわ」


「他人を不幸にしてまで得た幸せなんて虚しいだけでしょう」


「何ですって?!」



 リリアナ様は顔を真っ赤にして私に掴みかかろうとしたけど、後の二人に抑えられて何とか踏みとどまった。

 けど怒りは収まらないらしく、ギリッと唇を噛み私に指さした。



「セロ、この後の演習で私と勝負しなさい!」


「え?」


「あなたが私に勝ったら、二度とフェリスさんには手は出さないと誓うわ。 どうかしら?」



 不敵な笑みを崩さない所を見ると、彼女には勝機があるんだろう。

 これ以上目立ちたくないからやりたくないんだけど、私を庇ってくれたフェリス様を守れるのならやるしかない。



「では私が勝ったらフェリス様への謝罪、食べ物を粗末に扱わない事を約束して下さいね」


「え、食べ物?」


「はい」


「……よくわからないけど、いいわ。 で、私が勝ったら大人しく私の犬になりなさい!」


「いいですよ」


「「「「え?!」」」」



 言われたから返事しただけなのに、全員の声が裏返った。

 でも私は気にせずそのまま続ける。



「で、犬になる期間ってどのくらいです?」


「え、えっと……、そうね、一ヶ月……いえ、半年よ!!」


「わかりました」



 すると今度はどよめきが起きた。



「貴女……本当に出来るんですの?!」


「半年なんてあっという間でしょう。 問題ありません」



 七年も下僕生活だったんだから半年なんてあっという間だ。

 それに相手は由緒ある上流貴族。

 きっと荷物持ちとか使いっ走りにされる程度だ。

 失敗したからと言って半殺しにされる事はきっとない。

 なので全く問題なし。


 するとピーッと始業開始十分前知らせる笛が鳴った。



「セロの分際で私を馬鹿にして……。 余裕なフリも今の内よ!!」



 こめかみに青筋を立てながら、リリアナ様は側についてた二人を引き連れ先に演習場に向かっていった。

 ようやく一段落つき、フッと肩の力が抜けた。



「ごめんなさい!」



 驚いて振り返ると、フェリス様が私に向かって頭を下げていた。



「本当にごめんなさい! ロゼまで巻き込んでしまって……。 でも、助けに来てくれて嬉しかった。 ありがとう」


 

 フェリス様は大きな水色の瞳を潤ませながら微笑んだ。

 そして潰されたケーキに視線を落とした。



「あのケーキね、本当はロゼにお礼がしたくて買ってきたの。 でも台無しになっちゃった」

「え……」


 フェリス様が、私を思って?


 私は踏み潰されたパウンドケーキに目をやった。

 私なんかの為に、一人で立ち向かっていたのか。

 嬉しくて胸の奥が熱くなった。

 

 私は潰れてしまったケーキを拾い上げ、口に一口入れた。

 思った通り、魔力独特の鉄のような味もするけど不思議と嫌じゃない。



「そんなの汚いから食べちゃ駄目!!」



 フェリス様は私の手から急いでケーキの包みを取り上げた。



「でも私の為にわざわざ用意してくれたものを粗末になんて出来ません」


「じゃあ明日同じの買ってくるからこれは駄目!」

 


 『食べられるものがあったらすぐに食べないと次がない』と思って暮らしてたから、つい癖で手が出てしまった。

 もうその心配もないんだから気をつけなきゃだ。



「それはそうと、あんな話に乗っても大丈夫なの?  リリアナは剣術も魔法も騎士見習いの中ではずっとトップなんだよ?  それなのに……」



 セロが魔法使いに勝てる訳が無い。

 それが一般的な感想だろう。

 

 だからといってフェリス様を、閣下を侮辱していい筈はない。

 これは絶対に負けるわけにはいかない。

 


「フェリス様」


「なぁに?」


「フェリス様がまた悲しい思いをしないよう、必ずリリアナ様に勝ってみせます」



 私は胸に手を当て、フェリス様に騎士の礼をした。

 すると、フェリス様の頬がみるみる内にりんごの様に赤くなっていく。



「あ、はい……。 よろしく、お願いします……」



 そしてモジモジと下を向いてしまった。



「……フェリス様、大丈夫ですか?」


「大丈夫! でも恥ずかしいから今来ちゃ駄目!!」



 心配になって手を伸ばしたけど、フェリス様は赤くなった頬に両手を添えて私から距離を取った。


 やっぱり拾って食べたのが良くなかったのかな。


 自分の意地汚さに反省しつつ、私はリリアナ様の攻略方法を探ることにした。






 ここまで読んで下さりありがとうございました。

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