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平穏に過ごしていたいのに

「この時間は魔法演習だ。 各々得意な中距離魔法を使っての実技になる。 十分後に始めるので各自練習をしておけ」



 今日の午前は魔法演習だ。

 といっても私は魔法が使えないから見学かな。

 すると昨日と違って眼鏡をかけた真面目そうな男性教官がこちらに歩いてきた。



「君がセロのロゼ・アルバートだね」


「はい」


「上層部から話は聞いた。 しかし魔法も使えないセロが何故魔法演習を受けに来る?」



 教官の言葉に周りがざわついた。


 

「折角ですので見学させてもらおうと思っていたんですが、駄目でしたか?」


「セロには必要ない。 さっさと帰れと言いたい所だが、ある条件をクリア出来たら今後の参加を認めよう」


「本当ですか!?」


「あぁ。 今からあの的を全て破壊してみろ」



 教官がニヤニヤと指さした先にあるのは、今日使う予定の五つの的。

 五メートルは離れてるかもしれない。



「君の場合は魔法が使えないので、()()()なら使用を許可しよう」



 きっと昨日の話を聞いての対処だろう。

 教官がセロに飛ばされたと聞いて、周囲の調和が乱れるのを防ぐつもりなんだ。

 剣がなければねじ伏せられる。

 それを周囲に知らしめるつもりなんだろう。

 教官は眼鏡をクイと持ち上げ、口の端を上げた。



「申し訳ないが、魔法が使えないからと言って君を特別扱いするわけにはいかないんだ。 分かってくれるかな?」


「わかりました。 因みにあの的は木製ですよね?」


「あぁ。 それがどうした」

 

「なら大丈夫だと思います」



 早速教官に背を向けて、私は片手に軽く収まる程度の石を探した。

 そう言えばオールナードにいた時も、長剣と相性の悪いウサギとかを倒すのに石や枝を使ってた。

 きっとそれと同じ様にやればいける筈だ。

 


「……君、本当にやるつもりなのか?」


「勿論です。 魔法が使えないからこそ勉強したいので」


「ハハハ! えらく熱心だな! ぜひ見せてもらおう!」


「では、いきます」



 一投目、私は腕を大きく振りかぶった。

 小石はビュン!と風を切って一つ目の的へと向かう。


 バコォン!!


 しまった、当てたというよりバラバラに破壊してしまった。

 しかも的の側にいた教官の頬から血が出てる!

 砕けた的の木片が教官の頬を掠めたんだ。

 

 これは慎重にいかないと大怪我をさせてしまうかも。

 私は今度こそ力加減に細心の注意を払って残りの的に当てた。


 結局五つとも粉砕したので、約束通り次回からの魔法実習にも参加させてもらえる事になった。




 ◇



 

 演習後、私は庭園で昼食代わりのりんごを頬張った。

 ここは演習場からも遠いせいか、昼間は利用する人が少ないらしい。

 薄暗い森の中とは違って、お日様の元で人の目を気にせずに過ごせるって本当に素晴らしい。

 凄く真っ当な人間になった気がする。

 甘いりんごと一緒に幸せを噛み締めてた時だ。


 

「返して! 貴女達には関係ないって言ってるじゃない!」


「そんな事言って昨日も親しくしてたじゃない。 抜け駆けは許さなくてよ?」



 驚いて声のした方に向かうと、やっぱり昨日の三人がフェリス様を取り囲んでいた。

 でもフェリス様が昨日と少し違って切羽詰まった顔をしてる。


 リリアナ様は何やら小さな紙袋を持っていて、フェリス様はそれを取り返そうとしているみたいだ。



「ちょっと好かれてるからって見せつけるような真似しないで下さる?  ファンの一人として放ってはおけませんわ」


「だからそんなんじゃないって言ってるじゃない!  何度言ったら分かるのよ!」



 あれ、二人って恋人同士じゃなかったんだ。

 もしかしてアルフレッド様の一方通行な好意が誤解を招いて、フェリス様がそれに巻き込まれてるのか。

 それなら困った話だな。



「キャッ!」



 取り巻きの一人がフェリス様を突き飛ばした。

 それを見てリリアナ様は、ニヤリと笑い紙袋の中から赤いリボンで包装された包みを取り出した。



「あら、美味しそうなパウンドケーキね。 でもアルフレッド様は甘いものは確かお好きじゃなかったわよ。 そんな事も知らなかったの?」



 そう言ってリリアナ様は持っていたケーキをそのまま地面に投げ捨て、足で踏みつけた。



「止めて!!」



 涙目になったフェリス様が止めに行こうとしても、後の二人が笑いながらそれを阻害する。


 まるで自分の心を踏みつけられているような光景に、私はギュッと唇を噛んだ。

 泣いても叫んでも、相手の嗜虐心を煽るだけで誰も助けてはくれない。

 ここは堪えるしかない。

 支配されていた頃の自分と重なった。





 私はギュッと拳を握りしめた。





 違う、あれは過去になった筈だ。

 今は過去の自分を救う力と自由を手に入れたんだろう!



「止めてください!!」



 私の声にフェリスさんを拘束していた二人は驚いて手を離したけど、リリアナ様は大して動じる事なく、赤い唇を弓形に撓らせた。








 


 




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