09 特訓の日々と旅立ち
皆で先の事を決めたので、さっそく勉強の日々を送った。
週の初めの3日は魔法の勉強、1日休みをはさんで、残りの3日は剣術を習った。
これを毎週続けるので、毎日がヘトヘトである。
「じゃぁ、いつも通りここに結界をはるから安心してね」
「よーし! 今日こそ制御してやる」
「そんな早く習得出来るものじゃないよ。努力はしないとね」
ツクシはそう言うと、持っていた杖で巨大な結界をはった。
「では、まずは炎の魔法から。とりあえずやってみて」
「う、うん。かの者を焼き尽くせ、フレイム!」
俺はジェフおじさんにもらった杖を振り、呪文を唱えると、勢いよく炎が現れた。
「ち、ちょっと勢いありすぎ! もう少し抑えて!」
「しまった! でも、これどうすればいいんだ!」
「炎を小さくするイメージを想像するんだよ。そうすれば制御出来ると思う」
よ、よーしイメージだな。小さくなれ、小さくなれ……
俺は心の中で何回も唱えた。
すると、炎は勢いがなくなり、小さくなり始めた。
「すごいよ、ソーマ! うまく出来たじゃないか!」
「やったー!」
しかし、喜んだのも束の間、炎はまた勢いよく燃えだした。
「「ぎゃぁーっ!」」
炎は俺たちの方に向かってきたので、慌ててツクシが呪文を唱えた。
「ウォーターシャワー!」
ツクシのおかげで、結界を破る事はなかったが、甘くはなかったようだ。
「もう少し経験が必要だね、ソーマ」
ツクシは苦笑いを浮かべ、俺はがっくりと肩を落とした。
剣術の方は、ゆうひが教えてくれた。
しかし、彼女は鬼のように厳しかった。
「踏みこみが甘い。相手から目をそらさないで」
「は、はい!」
俺は何度も彼女に挑んだが、いつも剣をはじかれてしまう。
「相手の動きをちゃんと見て。何があっても剣を離したらダメ」
「そう言われても、力が違うだろ……」
「文句を言っていないで、もう一度」
「あっ、俺ツクシと約束しているんだった」
「え、そうま君?」
「という事で、剣術はまた今度な!」
俺はそそくさとその場を後にした。ゆうひは、剣を戻しながらため息をついた。
「……逃げたわね」
それから特訓の日々が続き、10年の月日がたった。
俺は15歳になり、体も大きくなった。
「なんか、10年があっという間だった気がする」
「そうかしら。まぁ、特訓の日々だったからじゃない?」
「そうだね。ソーマは色々頑張ったもんね」
「ソーマ様、ご立派になられて……」
「じゃぁ、ジェフおじさんに旅に出る許可をもらってくるよ。皆は準備をしててくれ」
俺は急いでジェフおじさんの部屋に向かった。
部屋の中で、ジェフおじさんは本を読んでいた。
おじさんは、前よりも白髪が増え、あまり外にも出なくなった。
「おじさん、今日は体調大丈夫?」
「あぁ、ソーマか。今日はいくらか気分がいいんだ」
「そうなんだね。あの、俺だいぶ前に言っていた旅に出ようと思うんだ」
俺が切り出した事に、ジェフおじさんは黙って聞いていた。
「ほら、俺ももう15歳になったし、剣術や魔法もそれなりに出来るようになったんだよ!」
「……そうだな。お前ももう幼くない。皆のおかげで強くなったんだろう」
話しているジェフおじさんは、どこかさびしそうな顔をしていた。
「子どもの成長は早いものだな……」
「おじさん、俺をあの時拾ってくれて、そして育ててくれてありがとう!」
「ソーマ……」
「俺、必ず戻ってくるよ! だって、ここが俺の家なんだから」
「あぁ……待っているよ……」
俺は泣きそうになり、ジェフおじさんに抱きついた。おじさんも優しく抱きしめてくれた。
少しして落ち着いた俺に、ジェフおじさんはある人物の名前を教えてくれた。
「旅に行くなら、私の知り合いであるアルタという人物を訪ねるといい」
「アルタさん?」
「あぁ。ベルグールという町に住んでいるから寄ってみなさい。地図は書いておくから持って行くといい」
「ありがとう、ジェフおじさん!」
「私には、これくらいしか出来ないからな」
それからジェフおじさんは地図を書いて渡してくれた。
「アルタは頭はまわるんだが、口が達者で人付き合いが苦手な奴でな」
「なんか俺の苦手なタイプかも……」
「はははっ! お前なら大丈夫さ」
「ありがとう、じゃぁ、いってきます!」
俺はジェフおじさんに頭を下げてから、待っているであろう皆の元に走った。
他の皆も準備が出来たらしく、もう外で待っていた。
「そうま君、ジェフおじさんとはもういいの?」
「うん。ちゃんとお礼も言えたよ」
「そっか……よかったね」
「「では、皆様いってらっしゃいませー!」」
俺たちは、新しくここに雇われたメイドさん2人に見送られて出発した。